59話 貴族会議
「リコ、サラの様子はどうだ」
「まだ、お部屋から出られないようです」
「そうか……」
暗い表情で教えてくれる専属メイドのリコに、俺は深くため息を吐いた。
ジオが亡くなってから、可愛い妹のサラは部屋に閉じこもったまま一歩も出ていない。
それは仕方ない。母親の死をやっと乗り越えたっていうのに、今度は父親がいなくなってしまったんだからな。
両親を失ったサラの悲しみは計り知れない。慰めてやりたいが、今はそっとしておこう。サラのことは一旦、サラの専属メイドに任せる。
「サラ様もご心配ですが、それはリオン様も同じです。リオン様、ずっと働いていてろくに寝ていないですよね」
「問題ない」
「問題ありますよ! そんな無理して、今度はリオン様が倒られてしまいます! お願いですから少しはお休みになってください!」
そう言われてもな……眠りたくとも眠れないんだ。
ジオが亡くなってからまともに眠ることができなくなってしまった。いわゆる不眠症というやつだ。
けど、丁度良かったかもしれない。
領主として学ばなければならないことは多いし、仕事の引き継ぎも沢山ある。
今はセバスチャンに手伝ってもらっているが、いつまでも頼りきりにはできない。エルファルド家の当主は俺なんだからな。
兎に角やることが多い今、休んでなんかいられない。
「リコ、心配してくれてありがとう。俺なら大丈夫だ」
「ですが!」
「坊ちゃま」
食い下がってくるリコだったが、彼女を遮るようにセバスチャンが執務室に入ってくる。
「何だ」
「宰相閣下からお手紙が届いております」
「閣下が?」
セバスチャンから手紙を受け取り中身を確認する。
手紙の内容は「今週末に貴族会議を行うから俺も出席せよ」とのことだった。場所は王都で、今週末ということは明後日だな。
「どうなされますか」
「閣下からの話を断ることはできん、勿論出席する。セバスチャン、出立の準備をしておいてくれ」
「かしこまりました」
貴族会議か。議題はなんだろう。
恐らく闇の魔術師に関してやジオについてだろうが、良い機会だ。ジオを殺した犯人がその中にいないか探ってやる。
だが、その前にやることがある。
会議の日までできるだけ仕事を片付けておこう。
「セバスチャン、教えて欲しいことがある」
「かしこまりました」
「リオン様……」
ごめんよ、リコ。心配してくれる君の気持は凄く嬉しい。
だけど今は、やれることをやりたいんだ。リコを、エルファルド家に仕えてくれる皆や民を安心させるためにも。
「ここが王都か……初めて来たな」
仕事と勉強に時間を費やしていると、あっという間に会議の日になった。セバスチャンに馬車で王都まで送ってもらい、煌びやかな王都の街並みを歩く。
流石に王都だけあって、家も店も豪奢だ。まぁ王都に住んでいるのは殆どが金持ちの貴族や商人だし、家も店も金持ちの御用達ってことだろう。
俺の世界で例えるならば、王都は南青山や麻布といった富裕層が住んでいるようなところだった。初めて訪れたが、静かな感じがしていい所だな。
そして王都のど真ん中に位置するのが、ひと際大きな王城だった。
デカいな。まぁ大きさだけなら魔術学園の「知恵の塔」の方が上だけど。
「どういった御用でしょうか」
「エルファルド家当主、リオン・エルファルドだ。会議に出席に参った。これが招待状だ(どうぞ)」
「拝見いたします」
王城の正門を守る門番に挨拶し、宰相閣下からもらった手紙を渡す。門番は手紙を他の仲間と一緒に確認すると頷いた。あの様子からすると問題はなさそうだな。
「確認いたしました。問題ございませんので、中へどうぞ。ご案内いたします」
「わかった」
城の中に通され、門番の後ろについていく。城の内観はまさにファンタジーのようで目移りしそうになったが、これから大事な会議なので浮かれてはいられない。気を引き締めしめなければ。
「リオン・エルファルド様がご到着されました」
「中に通せ」
「リオン様、どうぞ中へ」
「わかった。案内ご苦労だった(ありがとうございました)」
門番が扉の向こうに声をかけると、許しを得られる。
部屋に入るよう促してきた門番にお礼を伝えた俺は、扉を開けて部屋の中に入った。
「あれがエルファルド家のろくでなしか」
「まだ若いじゃないか。当主として務まるのか?」
「何故あんな小僧を呼んだのだ」
(数が多いな)
二十人弱はいる。こいつら全員貴族だろうが、流石に下級貴族は呼んでいないだろう。ラドクリフもいるし、大貴族も何人か参加しているだろうな。
そして上座には宰相閣下がいて、好々爺らしい笑顔を浮かべて俺に言ってくる。
「よく来た、リオン。さぁ、座りなさい」
「失礼いたします」
一つだけ空いていた端の席に座る。
しまった、どうやら俺が一番最後だったみたいだ。これでも指定された時間より大分前に来たと思ったんだけどな。
いや、もしかして俺抜きで会議をしたくて時間をズラしたのか?
「皆揃ったことだし、改めて会議を始めるとするかの」
「閣下。会議の前に、この場に相応しくない者がいることについてご説明していただきたい」
「おいドルトン、それはリオンのことを言ってんのか?」
「それ以外に誰がいる。言い当てるということはお前もそう思っているってことだろう」
「何だと!」
ラドクリフが俺を助けるように一人の貴族に突っかかる。
ドルトン……あぁ、魔術大会の予選会で優勝した三年生のトーマス・ドルトンの父親か。なるほど、宰相に不服を言えるのもドルトン家が大貴族だからか。
ふむ、ラドクリフ以外にも名の知れた大貴族がいるな。
トーマスの父、ドルトン家当主ドールズ・ドルトン。
ユイの父、アストレア家当主ウィルバート・アストレア。
バッカスの父、ディスチーノ家当主ゴルゴ・ディスチーノ。
クラインの父、クラディウス家当主クラウド・クラディウス。
カスティア・リッツェの母、リッツェ家当主ルマンド・リッツェ。
俺が知っているのはこの辺りか。事前に勉強しておいてよかったな。
「まぁまぁ、その辺にしておきましょうよ」
「アストレアは黙っていろ」
ユイの父ウィルバートも助け船を出してくれたが、ドールズは取り付く島もない。そんな彼に、宰相閣下が口を開いた。
「ドルトン卿の言い分も理解しておる。リオンを呼んだのは彼がれっきとしたエルファルド家当主だからじゃよ。それと、会議をする上での重要人物でもある」
「この前まで学生だった子供を、代行でもなく当主として据えるおつもりですか」
「そうじゃよ。何か問題でも?」
「エルファルド家は大貴族ですぞ。その当主が子供では貴族の品位が損なわれます。しかも奴はろくでなしと呼ばれているほどの愚息。到底認められませぬ」
「確かにリオンはまだ半人前じゃが、そこはお主たちが支えて一人前に育てればよい。それにリオンを当主にしたことは王と宰相である儂が正式に決定したことじゃ。王と儂の決定に不服があるというのなら、正式に直訴してはいかがかの?」
「それには及びませぬ。王と閣下の決定に従います」
(やけに大人しく引き下がったな……。まさか、敢えてやったのか!?)
あれだけ喰ってかかってきたのに、ドールズがすんなりと引き下がったことに違和感があった。
俺の考えが合っているかは分からないが、閣下とドールズの二人は予め一連のやり取りを企てていたんだ。目的は、俺への不満に対し牽制するためだろう。
俺がこの場にいることが相応しくないと思っている貴族は他にもいるはずだ。だが、中級貴族では閣下に物申せない。そこで大貴族のドールズに発言させたんだ。
もし俺の予想が当たっているなら、流石は宰相という他ない。
大貴族のドールズが貴族たちの不満を代弁してくれたお蔭で他の貴族は溜飲を下げたし、逆にドールズが認めたことでこれ以上俺に追求できない。
貴族たちの不満を取り除いた上で牽制した。見事としか言えないだろう。
まぁ、このやり取りにラドクリフが絡んでいるのかは分からないけどな。もしかしたらラドクリフが突っ込んでくるのも見通していたかもしれない。
「さて、用も済んだことだし会議を行うとするかの」




