57話 雨
――雨が降っていた。
「主よ。この者の魂を安らかに眠らせたまえ」
父、ジオ・エルファルドの葬儀が行われていた。
大貴族だからか、葬儀には高官や貴族など多くの参列者が訪れている。
「お父様……お父様ぁ! いや、いやよ、お兄様ぁぁ!」
祭司が祝詞を告げる中、掘られた土の中にジオが入っている棺桶が運ばれる。蓋を締めると、棺桶の上から土を被せていった。
その光景を見る妹のサラが泣きながら叫び、俺にしがみついてくる。サラの頭に手を置く俺はただひたすらじっと見つめていた。
――雨が降っていた。
「ジオ様……うぅ」
「「当主様ッ……」」
執事長セバスチャン、執事たち、メイド長ストーク、リコ、メイドたち、料理長、庭師。エルファルド家に仕える皆が悲しみに暮れていた。
「ちくしょう、何でお前まで先に逝っちまうんだよ! 子供たちを残していくなよ馬鹿野郎!」
ラドクリフが泣きながら雄叫びを上げていた。
彼は幼馴染のヴェラを亡くし、友まで失ってしまった。その悲しみは計り知れないだろう。
——雨が降っていた。
「この度は……」
「誠に残念です」
喪主である俺に、参列者が次々と声をかけてくる。それに対し俺は「来てくださりありがとうございます。父上も喜んでいることでしょう」と機械のように口にするだけ。
「エルファルド卿はこの国に大きく貢献してくれた。彼を失ったことは誠に残念でならん」
「ありがとうございます、閣下。閣下にそう言われて、父上も喜んでおられるでしょう」
「儂にできることなら何でも手を貸そう。必要な時はいつでも頼りなさい」
「はい、ありがとうございます」
国の重鎮である宰相閣下も来てくれていた。閣下は俺の肩に手を置くと、優しい言葉をかけてから去っていく。
――雨が降っていた。
葬儀も滞りなく終わり、参列者も居なくなった。
冷たい雨が降りしきる中、俺は一人、ジオが埋められている墓の前に立っていた。
「ぅ……ぁ、ぁぁ……ああ、あああああああああああああああああ!!」
俺の口から、声にならない声が吐き出される。
今までずっと堪えていたものが堰を切るように溢れ出した。
「俺のせいだ!」
「俺が死亡フラグを変えてしまったから、その代償にジオが死んでしまったんだ!」
「ジオは物語で死ななかった! 最後まで生きていたんだ!」
怒りをぶつけるように地面に向かって拳を叩きつける。
何度も何度も……皮が剥けようが血が出ようがどうでもよかった。痛みなんて一切感じなかった。
「何で父が死ななきゃならないんだ!?」
「ふざけるな! ふざけるなよ! こんなことがあっていいのかよ!」
「ちくしょう、ちくしょう!」
暗天に向かって叫ぶ。
怒りでどうにかなりそうだった。
「父上……!」
俺がジオと親子の関係だったのは、実質一年だけだ。思い出なんか全然ないし、会話だってろくにしなかった。俺はジオを避けていたし、ジオも息子に干渉してこなかった。
俺とジオは殆ど他人だ。
だけど、たった一年だけでも、確かに親子だったんだ。
『お前はエルファルド家の誇りだ。しっかりやるんだぞ』
『はい。エルファルドの名に恥じぬよう精進いたします』
何度もエルファルド家の顔に泥を塗ったのにも関わらず、ジオは俺を抱きしめてそう言ってくれた。不器用ながらも、彼は息子を愛してくれていたんだ。
やっとジオと打ち解けられると思っていたのに、あれが最後だなんてあんまりじゃないか!
「ごめん、リオン……ごめん!」
俺の中にいる本物のリオンに謝る。
心の奥底から溢れ出てくる悲しみは、俺のものだけではない。俺の魂の中にいる本物のリオンも、実の父親を失ったことを嘆き悲しんでいるんだ。
彼の気持ちが痛いほど伝わってくる。言葉にならない叫びを上げていることも。
「坊ちゃま」
「セバスチャン」
背後からセバスチャンが声をかけてくる。
俺は振り向かず、そのまま彼に問いかけた。
「父上は誰に殺された」
「恐らく、闇の魔術師かと」
「闇の魔術師だと? 何故父上が奴等に狙われた」
「実はヴェラ様が亡くなられてからすぐ、ジオ様のもとに闇の魔術師が接触してきておりました。しかしジオ様は奴等の勧誘を蹴っていました」
「何故だ」
ジオは純血派の貴族だ。ヴェラを殺した平民を嫌っていたし、闇の魔術師の誘いを受けていてもおかしくない。
実際、物語でジオは一度闇の魔術師となっていた。
「ヴェラ様の想いを繋いでいたのです。例え平民を憎んでいても、平民を想うヴェラ様の志を捨てる訳にはいかないと、闇の魔術師の勧誘をきっぱり断っていたのです」
「そうか……」
「ただ、もしサラ様まで失ってしまっていたらどうなっていたか分かりません」
あぁ、“そこ”だったのか。ジオが闇の魔術師に堕ちるきっかけだったのは。
物語ではサラも平民によって殺されている。
そこでジオは平民を許せず、ヴェラの想いを断ち切って闇の魔術師になったんだ。
だけど俺がサラを救ったことで、物語は変わりジオは闇の魔術師にならなかったんだな。
「しかし、ジオ様が断っても奴等は諦めることなく何度も接触してきました。そして先日、ジオ様は闇の魔術師に呼び出されたのです。後はもう、坊ちゃまも知っているでしょう」
「……」
「いつまでも帰って来られないジオ様を心配して私が迎えに行きましたら、激しい戦いを思わせる場所にジオ様が倒れていたのです。私が発見した時にはもう、ジオ様は息を引き取っておりました」
きっとジオは、闇の魔術師から再び勧誘されたんだろう。
どうして戦うことになったのかは分からない。
頑なに提案を受け入れないジオに嫌気が差して、断るなら殺してしまおうと襲ったのかもしれない。
ジオは強い。ラドクリフや伯母のエリザベスと同格だ。そんな彼が倒されてしまうなんて、よっぽどの強敵だったのだろう。
「どういたしますか、坊ちゃま」
「決まっているだろう」
セバスチャンに問われた俺は、立ち上がりながら即答した。
「父上を殺した闇の魔術師を探し出して必ずこの手で殺してやる」
「きっと、ジオ様はそれを望んではおられません」
「関係ない。これは俺の問題だ」
――雨が降っていた。
拳を強く握り締める。
俺は自分自身と相棒に誓った。
「待っていろ、闇の魔術師。この代償は必ず払ってもらうぞ」
◇◆◇
「本当にジオを殺してしまってもよかったのですか?」
「仕方ない。息子を使っても無駄だったのはおろか、逆鱗に触れてしまったからな。ああなってしまっては、我らのもとには来ないだろう。敵に回るくらいなら、始末する他なかった」
「息子を引き入れたら彼も組織に入るかと思っておりましたが、誤算でした」
「ああ。しかし息子は手に入れた。奴をエルファルド家の当主として迎え入れ、我らの思い通りに使ってやろう」
「承知いたしました」
「それと、リオンは本当に“適合”したのか?」
「はい。醜い化け物とはなりましたが、今までの実験体と違い元の体に戻りました。恐らく貴族の血が強く適合したのでしょう。上手くいけば、ジオよりも強力な手駒となります」
「それは僥倖だ。リオンには期待しよう」
「して、次はどうなさいますか?」
「エルファルドも手中に収めたことだ。本格的に動き出すとしよう」
「おお! この時をお待ちしておりました! それでは!」
「ああ。まずはデモルト・ブラックロードを完全に復活させるための魂を探し出す。幹部に召集をかけろ」
「はっ!」
「魔術師のための世界がようやく手に入る。ふはは、はーはっはっは!」
ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます!
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
これで第四章は終わりです!
第五章は闇堕篇となっております。
キャラがめちゃくちゃ増えますがご了承ください!
第四章まで毎日投稿の予定でしたが、もう少しだけ毎日投稿頑張ります!
ブクマ、評価ポイントありがとうございます!
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