54話 三度目の戦い
「俺と決闘しろ、リオン」
(ここできたか)
カイトから俺に決闘を申し込むことは物語にある展開なので分かっていた。まさかこのタイミングだとは思わなかったけどな。
「決闘だと? 何故俺が貴様と決闘しなければならない。理由がないな」
「理由ならある」
「ほう、聞いてやろう」
「決闘で俺が勝ったら、“レイラとの婚約破棄を取り消せ”」
(なるほど、そうきたか)
カイトの決闘の理由を聞いて感心する。
「魔術学園の無能力者」でのカイトは、『レイラの顔が醜いと言った言葉を取り消せ』と怒りながらリオンに決闘を申し込んでいる。
だがこの世界では、俺が闇の魔術師からレイラを守ったので顔に傷がない。
物語を変えたことにより顔の傷を理由にできないので、カイトがどんな風に言ってくるかと思っていたけど、まさか『レイラとの婚約破棄を取り消せ』だとはな。
「おやめくださいカイトさん。これは私とリオン様の問題です」
「確かにそうだ。けど、レイラは泣いていたじゃないか」
「っ!?」
「俺は女の子を泣かす奴は許せないし、放っておけない。だからレイラのために戦わせてくれ」
(いや~、流石は主人公。かっこいいじゃないか)
顔の傷がなくても、泣いているレイラのために戦うってか。でもまぁ予定通りだ。
俺がわざわざ人前でレイラに婚約破棄したのも、そのシーンをカイトに見せつけるため。酷いことを言うリオンにカイトを怒らせるためだ。
そしてカイトはリオンに決闘を申し込んで勝ち、リオンに酷いことを言われた上婚約破棄されたレイラはカイトに気持ちを寄せるんだ。
でも、少し不安な点がある。
それはカイトの戦う理由だ。
レイラとの婚約破棄を取り消すってことは、カイトが勝った場合俺とレイラの関係は変わらない。物語に沿うため俺はカイトに負けないといけないので、婚約破棄の取り消しは確定になる。
そうなると、レイラの気持ちがカイトに向く可能性はあるのだろうか?
ラスボスであるデモルト・ブラックロードを倒すにはレイラにカイトのヒロインとして仲間になってもらわなければならない。
なのに婚約破棄を取り消し、リオンとレイラの仲を取り持つような真似をして、果たしてレイラはカイトに思いを寄せるようになるのだろうか。
(分からない。けど、今は物語通りに進めるのが先決だ)
「どうなんだ、リオン。まさか逃げるのか」
「いいだろう、お前の挑発に乗ってやる」
「リオン様!?」
「ただし、俺からも条件がある。もし俺が勝ったら、二度とユイに近づくな」
「何だって!?」
作中でのリオンは、長期休暇明けでカイトとユイの仲が深まっていることに焦りを抱いていた。だが、一度決闘で負けている手前自分からは言いにくい。
そこで取った手段が、カイトがいる前でレイラに婚約破棄することだった。目の前で泣いているレイラをカイトが放っておけないと踏んで、カイトから決闘させるように誘導した。
リオンはレイラと婚約破棄ができて、カイトから決闘を申し込ませて一石二鳥だったんだ。改めて考えるとやり直す前の相棒ってマジでクズだな……。
「何でお前は、俺とユイの関係をそんなに気にするんだ」
「大貴族であるユイは、貴様のような平民が馴れ馴れしくしていい相手ではない。立場をわきまえろ、下民」
半分本当、半分嘘。
貴族のユイと平民のカイトの立場を分からせることは本当だけど、それよりも自分が好きなユイをカイトに取られたくなかった。ただリオンは見栄っ張りなので、カイトにユイが好きだと素直に言えなかった。
「どうするんだ、平民。まさか逃げるのか?」
「おやめくださいリオン様! カイトさんも私のことなんて気にしないでください!」
同じ台詞で煽ると、カイトは少し迷ってから覚悟を決めて口を開く。
「いいだろう。その条件、乗ってやる!」
「そうか。では早速やるぞ。邪魔されたくないからな」
「わかった」
「リオン様! カイトさん!」
俺はカイトを連れて決闘場に向かう。レイラが必死に止めてくるが聞く耳は持たなかった。
さぁ、後はどうやって負けようか。
◇◆◇
「審判は必要ないな」
「ああ」
決闘場のど真ん中でカイトと対峙する。観客席にはレイラとゴーズとクラッドの三人。作中では俺とカイトの二人だけだったが、三人がいても別に構わない。
「最後の確認だ。俺が勝ったら今後一切ユイと関わるな」
「分かった。俺が勝ったらレイラとの婚約破棄を取り消すんだ」
「いいだろう。さぁ、どこからでもかかってこい」
刃が潰されてある鉄剣を持っているカイトを誘う。因みに俺も鉄剣を持っている。長期休暇を経てカイトがどれほど強くなったか確認したいからだ。
「行くぞリオン!」
ダンッと力強く地を蹴り、素早く接近してくる。
横薙ぎの振りを防御し、真上からの振り下ろしを半身になって躱す。刺突を剣の腹で受け、切り上げに対し振り下ろしで合わせる。
怒涛の連撃。されど適当に振っているわけではなく、攻撃に流れがある。
「はっ!」
(驚いたな、以前よりも段違いに強くなっている)
カイトと初めて剣を合わせたのは数ヶ月前。
その時のカイトはとても剣術と呼べるものではなく、子供のちゃんばらレベルだった。それが今じゃ一端の剣士以上にまで達していて、俺と互角に打ち合えている。
長期休暇の強化合宿で、カイトは仙亀の弦に稽古をつけてもらった。
そのお蔭でもあるだろうが、それでも目を見張る成長速度だ。主人公だからなのか、単にカイトに才能があったのか分からないが、今の彼に並の魔術師が勝つことは難しいだろう。
「リオン、お前凄いんだな」
「何がだ」
カイトが手を止めて急に褒めてくる。いきなり何だよ照れるじゃないか。
「前に戦った時は分からなかったけど、今ならリオンの剣技がどれだけ凄いか分かるんだ。お前、すっげー努力したんだろ」
(へ~、俺の実力が分かるようになったのか)
「純粋な疑問なんだが、何で魔術師なのに剣を鍛えているんだ」
「俺は大貴族だぞ。魔術だけでなく、全てにおいて最強を目指さなければならん。貴様のような平民や下級貴族と一緒にするな」
実際は死亡フラグを回避したくて死に物狂いで鍛えたんだよな。今考えるとあの時の俺は自分でも褒めたいくらい頑張ったと思う。
まぁ、リオンのスペックが素晴らしいから頑張れたってのもあるけどな。後セバスチャンという師匠がいたことが俺にとって幸運だった。
「そ~かよ。相変わらず嫌な奴だな」
「戦いの最中に会話とは暢気な奴だ。サンダー」
「はっ!」
ちょい不意打ち気味で電撃を放つが、カイトは焦ることなく剣で斬り払った。ある程度剣術は見れた。今度は魔術にどう対応できるか見させてもらおう。
「ホーミングサンダー」
「はっ! おらぁ!」
幾つもの電撃を放ち、四方八方から襲いかかる。カイトはその場に留まらず走り出し、電撃を回避しつつ回避できないものは能力で消している。
予選会では喰らっていた攻撃にもしっかり対応できている。魔術師との戦闘経験も大分積んできているな。
現時点のカイトの力は確認できたから、後は物語に沿って戦うとするか。
「サンダー、サンダー、サンダー、ライトニング」
「ぐっ!」
一定の距離を保ちつつ魔術の連打。カイトは俺に接近できず防戦一方。
戦い方は予選会の時と変わらない。距離を取って攻撃する。それがカイトにできる一番の攻略法だ。
カイトの能力は魔術師にとって天敵だが、無限に行使できる訳ではない。カイトの魔力を媒介にして発動している。
魔力が尽きれば能力は使えない。カイトの魔力量は膨大だが、それはリオンとて同じだ。大貴族の血を持つリオンの魔力量ならカイトとの持久戦を制する。
作中でのリオンも同じことをした。そしてその時の彼は油断もしていなかった。何も起こらなければ今度こそリオンが勝っただろう。
しかしリオンにとっては残酷で、主人公のピンチに何も起こらないはずがないんだ。
「うぉおおおおお!」
気合いの雄叫びを上げるカイトの瞳が赤く染まり出す。
仙亀の弦との修行と、デモルト・ブラックロードとの戦いを経て“あの力”も自発的に使えるようになったか。
「はぁああ!」
「ぐっ!」
「「リオン様!」」
人間を超えた速度で肉薄してくるカイトは、勢いのまま剣を振るってくる。咄嗟に反応して剣を合わせたが、尋常じゃない膂力に耐えきれずふっ飛ばされてしまった。
うーん、やっぱ力を解放したカイトの力は半端じゃねえな。どれだけ魔力で身体強化したところで敵わん。
「ジャッジメント・ボルテックス」
「うぉぉおおお!」
苦し紛れで放った上級魔術も一振りでかき消される。どれだけ強い魔術だろうが魔術を消す能力の前には無意味。
肉薄してくるカイトが渾身の一撃を放ってくる。剣で防ごうとしたが桁違いの威力にボキンッと折れてしまい、そのまま地面に叩きつけられた。
「はぁ、はぁ……俺の勝ちだ、リオン」
「お、己ぇ……」
「約束通り、レイラとの婚約破棄は取り消せよ」
「リオン様!」
「「リオン様~!」」
決闘場から立ち去っていくカイトの代わりに、観客席にいた三人が慌てて駆け寄ってくる。
ゴーズとクラッドに肩を貸してもらい、保健室に向かった。
心配する三人を帰らせようとしたが、レイラだけは俺の側から離れようとしなかった。
「もう行け。お前の顔など見たくない(ごめん、レイラ)」
「リオン様、これだけは言わせてください」
「……何だ」
レイラは胸に手を置くと、覚悟を乗せた声音で告げた。
「リオン様がどれだけ私を離そうとしても、私はずっと貴方の傍にいます。リオン様を支えますから」
「……」
「それでは、お大事になさってください」
最後にそう言って、レイラも保健室から去っていった。
ずっと傍にいる……か。嬉しいけど、それだと困るんだけどな。
「リオン・エルファルド君」
「誰だ(来たか)」
「実は君に良い話しがあるんだ」
「何だ(首を長くして待っていたぞ)」
「リオン君。君、力は欲しくないかい?」
ついに、ついにこの時がやって来た。




