51話 元婚約者のモテ期到来
「はぁ……」
「リオン様~いい加減元気出してくださいよ~」
「何を言っているクラッド。俺は元気だ」
「朝からずっとため息吐いているのにどの口が言うんですか」
「ゴーズ、俺はため息など吐いていない」
「はぁ、重傷だな」
「そんなに落ち込むならレイラ様との婚約破棄なんてしなければよかったのに」
「はぁ……」
ゴーズとクラッドが何か言っているが全然入ってこない。
今の俺はやる気もわかず、まるでセミの抜け殻のような身体だった。
レイラに婚約破棄を告げてから一週間ほど経っているみたいだけど、その間自分が何をしていたか全く記憶にない。生きている実感がこれっぽっちもなかった。
「ほらリオン様、行きますよ!」
「気晴らしに鍛錬でもしましょう! 付き合いますから!」
「ああ、そうだな」
二人に身体を支えてもらって席から立ち上がる。
のろのろと廊下を歩いていると、何やら人が集まっていて騒がしくしていた。
「やぁレイラ嬢! 君は何と美しいんだろうか! 是非僕と婚約してくれないかい!」
「お前はすっこんでろ! レイラ様、俺はどうですか!」
「お前こそ邪魔なんだよ! レイラ様、俺と結婚しましょう!」
(あれは、レイラ?)
廊下の真ん中で騒がしくしているかと思ったら、レイラが多くの男子生徒に言い寄られていた。
いったい何が起こっているんだと首を傾げていると、いつもの如く突然ナナがやって来る。
「やぁやぁ皆さんお揃いで! こんな所で突っ立って何してるん?」
「平民お前また……いや、今日はいい」
「あらクラッド、寂しいやんけ。いつものように突っかかってこんの?」
「今はお前の相手をしている場合じゃないんだよ」
「ふ~ん、そうなんや。それはアレが原因でってことか?」
ナナはレイラを囲んでいる男子生徒たちに視線をやりながら、含みがある意味深な笑みを浮かべる。彼女は知っているようなので聞いてみた。
「何だあれは」
「おや、リオンはん知らへんの? あんさんがレイラはんと婚約破棄してからな、主に上級生が毎日レイラはんに言い寄ってんで。俺と婚約してくれて~ってな。もうモテモテや」
「何?(な、なんだってーーーー!?)」
レイラがモテモテで、上級生から言い寄られているだと!?
そんなの聞いてないよ!
「ぶふっ! 何を今さら驚いてるん、当たり前やろ。レイラはんは誰から見ても別嬪さんや。その上大貴族のご令嬢ときた。そんな子が“彼氏無し”になったんやから男共が狙うのは自然な流れっちゅうわけやで」
「……(なんてこった)」
そりゃそうだ、完全に見落としていた。
レイラは超美人だ。めちゃくちゃ可愛い。そんで大貴族ベルンツベルン家の娘だ。そんな超優良物件がフリーになって他の貴族が黙っちゃいないだろう。
上級生の男子たちに告白されているレイラを呆然と見ていると、ナナが俺の頬を指でぐりぐりしながら下卑た笑みを浮かべてダル絡みしてくる。
「あれれ~まさか妬いてるんとちゃうん~? まさか自分から振っておいて、他の男から言い寄られたら嫉妬するなんて女々しい男じゃありまへんよな~リオンは~ん」
うぜ~! めちゃくちゃうぜ~!
あ~そうだよ! めちゃくちゃ嫉妬してるよ! 悪いか馬鹿野郎!
「おい平民、リオン様に失礼だろ!」
「このまま見ているだけでええんか~? わての情報網によるとな、クロム・グロッツっつう三年生が本気でレイラはんを口説いているみたいやで~」
「……(何だと?)」
どこのどいつだ。
俺のレイラを口説くクソ野郎は。絶対に許せん。
「まっ、もうレイラはんの婚約者でもないリオンはんにはな~んも関係あらへんけどな! はっはっは!」
「おい、いい加減にしろよ!」
「すまんすまん、ほんの冗談やって、怒らんといて」
諫めるゴーズとクラッドに軽いノリで謝るナナは「せやけどな」と続けて、
「嫉妬するぐらいなら最初から婚約破棄なんてしなければよかったんや」
(お前に言われなくてもそんな事は俺が一番よくわかってんだよ!)
でも、こうするしかなかったんだ!
俺が死亡フラグを回避するには、物語に沿ってレイラと婚約破棄しなきゃならないんだ。俺じゃ彼女を幸せにできないんだ。
俺は歯を食いしばりながらナナに告げる。
「誰が嫉妬などするか」
「そうでっか。ならレイラはんが誰かの物になってまうのをじ~っと大人しく見てるんやね」
つまらなそうにそう言って、ナナは踵を返して去っていく。
あの関西弁女、俺の気持ちも知らないで言いたい放題いいやがって。
クロム・グロッツか。
ふ~ん。
「リオン様、どこへ行かれるのですか?」
どこ? そんなもん決まってるだろ。
「三年生の教室だ」
◇◆◇
「何だあのガキ、見たことねぇな」
「ほら、予選会で平民に負けた奴だよ」
「あ~! あいつが今噂になっているリオン・エルファルドか!」
「「リオン様ぁ」」
三年生の教室に入ると、生徒たちが俺に注目する。
上級生が恐いのか、ゴーズとクラッドは俺の陰に隠れてしまった。
「どうしたんだよリオン、三年生の教室に来るなんて珍しいじゃねぇか」
「リヒトか」
知り合いのリヒトに声をかけられる。
丁度いい、彼に話を聞くとするか。
「クロム・クロッヅを知っているか」
「クロム? それなら――」
「それなら俺のことだが、俺になんの用だ?」
リヒトが答える前に、教室の前の席で座っていた男子生徒が割り込んでくる。
(こいつがクロムか)
クロムは典型的なチャラ男のような外見だった。
顔も良く自分に自信があって、女遊びが得意そうな、学生カースト頂点のような男。会社にもいたよなぁこんな奴。俺が嫌いなタイプの人種だ。
「貴様、レイラに婚約を申し込んでいるようだな」
「別にいいだろ? お前が婚約破棄したんだからさ」
「よくはない。確かに俺はレイラに婚約破棄を言い渡したが、正式には受理されていない。つまりまだ俺とレイラは形式上婚約関係にある。レイラに言い寄ることは、婚約者である俺を侮辱していることと同じだ」
「んな固いこと言うなよ。婚約なんてただの口約束だろ?」
「貴様のような下級貴族と同じにするな」
「あん?」
煽るように言うと、クロムは簡単に挑発に乗った。
「大貴族だからって調子に乗るなよクソガキ」
「事実を言ったまでだ。貴様がレイラと婚約したいのなら条件がある」
「ほ~、一応聞いておいてやるか。どんな条件なんだよ」
「決闘で俺に勝てたらレイラに婚約を申し込むことを許してやる」
俺がそう告げた刹那、教室は一瞬静まり返ったがすぐに爆笑の渦が巻き起こる。
「「はははははははは!」」
「おい聞いたかよ今の!」
「聞いた聞いた! リオンって奴、噂には聞いていたがマジでろくでなしの馬鹿なんだな! よりにもよってクロムに決闘を挑むとかアホすぎだろ!」
「平民に無様に負けたことを忘れているんじゃないのか!」
上級生が笑いながら俺を馬鹿にしてくる。
あ~そうか。俺はカイトに二度も負けているからな。俺が弱いということは学園中に知れ渡っているのか。
納得していると、リヒトが心配そうに声をかけてくる。
「やめとけリオン。俺ほどじゃないが、クロムは学生の仲でも結構強ぇ。お前が勝てる相手じゃねーぞ」
ふ~ん、そうなんだ。意外と実力はあるんだな。まぁそうじゃなきゃこんな自身満々な態度は取れないか。
「ははは! いや~悪い悪い、つい可笑しくて笑っちまったよ。決闘だったな。いいぜ、やってやるよ」
「何を勘違いしている。誰が貴様だけだと言った」
「あっ? そりゃどういう意味だ」
「一年、二年、三年、レイラに群がる愚か共全員と相手をしてやると言っているんだ」
そう言うと、笑っていたクロムの表情が一変し真剣な顔つきになる。
「そりゃ何の冗談だクソガキ。テメエ一人相手に俺達が束になって戦うって言いてぇのか?」
「その通りだ。何度も相手をするのは面倒だからな。まとめて片付けてやる」
「その言葉、嘘じゃねえよな」
「無論だ」
「やめておけ! 何を熱くなってんのか知らねーけど無茶だぞ!」
「「そうですよリオン様!」」
リヒトと二人が止めようとしてくるが、聞く耳を持たなかった。
俺は今、自分でも分からないくらいキレている。そりゃもうブチギレよ。どこの誰であろうがレイラに近づく奴は許さない。
カイトならまだしも、こんなチャラそうな奴をレイラに近づけさせたくないんだ。
汚物はこの手で排除してやる。
「どうする。やるのか、やらないのか」
「いいぜ、お前の案に乗ってやるよ。お前こそ、やっぱり無しだって泣きついてくんなよ。後悔しても許さねーからな」
「その台詞、そっくり返してやる」
「あ~あ、俺は止めたからな。もうどうなっても知らね~からな」
調子に乗っていられるのも今の内だぞクロム。
お前含めてレイラに近づく不届き者は、俺が纏めて鏖にしてやる。




