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物語中盤で死ぬろくでなしの悪役貴族に転生したけど、死にたくないから最強になって死亡フラグを回避する  作者: モンチ02
第一章 転生篇

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4話 周囲からの評価

 




「ゴーズとクラッドと出かけてくる」


「リオン坊ちゃま、本日は魔術の鍛錬ですぞ。いずれエルファルド家をお継ぎになることを考えてしっかりと――」


「煩いんだよ! 僕に指図するな!」


「はぁ~~坊ちゃまには困ったものだ」


 私《わたくし》の静止を振り切って家を出て行ってしまうリオン様の背中を眺めながら、大きなため息を吐く。


 私はエルファルド家に仕える執事長のセバスチャン。

 ご当主様から息子のリオン様の教育係を任せられておりますが、坊ちゃまの我儘には手を焼いてしまいます。鍛錬も勉強もせず、毎日友達と遊んでばかり。


 坊ちゃまはまだ十四歳。普通の家の子供ならばそれでもよろしいのですが、坊ちゃまは大貴族であるエルファルド家のご長男。いつまでも我儘な子供ではいられないのです。


 貴族としての教養を身に付け、エルファルド家と領地を守るために強くならなければならないのですが、坊ちゃまは適当にやるだけで殆どサボってしまう。

 なまじ才能がある故に、その才能に驕ってしまうのがなんと勿体ないことか。


「どうすれば坊ちゃまを変えられるのでしょうか……」


 私から見た坊ちゃまの印象は、“貴族の我儘な子供”だ。

 自分に権力があるからとやりたい放題している。歯向かう者や気に入らないことは徹底的に排除し、好きなことだけをやる。“エルファルド家のろくでなし”などと不名誉なあだ名まで付けられる始末です。



「おい! 料理がマズいぞ! エルファルド家のコックはこんなマズいものしか作れないのか!」

「そこのメイド、シーツに皺があるぞ。もう一度やり直せ」

「僕の言うことが絶対だ!」



 坊ちゃまの我儘に振り回され、辞めさせられた使用人は何人もいました。今も仕えてくれている使用人たちも、普段から坊ちゃまの機嫌を損ねないように居心地を悪くしている状況。

 何度も諭そうといたしましたが、坊ちゃまは全く聞き耳を持ってくれません。


「母君さえ生きていれば……」


 坊ちゃまも昔は我儘ではありませんでした。

 あの子が今のように変わられたのも、“不運な事故”の時からでしょう。いえ、あの事故で変わられたのは坊ちゃまだけではなく……


「エルファルド家の未来は真っ黒ですな……」


 そんな風にエルファルド家を案じていた時でした。


「セバスチャン、俺に稽古を付けてくれ」


「わたくしめの聞き間違いでしょうか……リオン坊《ぼっ》ちゃま、今何とおっしゃいましたか?」


「何度も言わせるな。俺に稽古を付けろと言っているんだ」


 なんと、あの坊ちゃまが自ら鍛錬をしたいと申してきたのです!

 驚天動地とはまさにこのことでした。夢でも見ているのかと錯覚しましたが、この際夢でも何でもいい。

 坊ちゃまがやる気になったのなら、教育係としての使命を全うするだけです。


「坊ちゃま、そろそろお休みになっては」


「まだだ、まだやれる!」


「うう、坊ちゃま……」


 休みも取らず鍛錬に励む姿を目にしたわたくしは感激の余り涙を流してしまいます。


 強くなりたいと申したあの日から、坊ちゃまは人が変わったように剣術と魔術の鍛錬に励みました。

 いえ、変わったようにではなく、“本当に変わられました”。


 嫌いだった料理も残さず全部食べるどころか、食べ終わったら毎回料理長に美味しかったとお褒めの一言を伝え。

 メイドたちに対しても、仕事を見掛ける度にご苦労と労いの言葉を言っております。それどころか、新人メイドのリコに関してはご自身の貯金を崩して彼女の家に助成金を与えました。


 鍛錬につきましても、正直私はその日だけの気まぐれだろうと思っておりましたが、そうではございませんでした。

 坊ちゃまは一日も欠かさず剣術と魔術の鍛錬に励み、さらにお身体を鍛えようと毎朝走ったりご飯を多く食べております。


 その甲斐あってか、坊ちゃまはたった三ヶ月で私から一本取るまで成長いたしました。元々天性の才能がある坊ちゃまが真面目に……いえ死ぬ気で努力すれば、これほど早く成長できるのも頷けます。


 ただ、貴族としての勉強につきましては未だにやる気になってくれないのが困る……というか、不思議ではあります。


 本人曰く「学園を卒業したら必ずやるから今は鍛えさせてくれ」とのことです。その姿は、私の目から少々焦っておられるというか、切羽詰まっているようなので勉強につきましては後回しにすることにいたしました。


「セバスチャン、もう一本だ」


「かしこまりました。次は負けませんぞ」


「ふん。次もお前の負けだ」


 坊ちゃまは変わられた。

 “貴族の我儘な子供”だった坊ちゃまはもういません。

 きっかけはなんなのか見当もつきませんが、最早そんなことはどうだっていいのです。


 坊ちゃまが良き方向に変わってくれたのが、私は心の底から嬉しいのですから。


「はい、一本です」


「ちっ」


 ふふふ。

 さっきは遅れを取りましたが、坊ちゃまの教育係としてまだまだ負ける訳にはいきませんぞ。



 ◇◆◇



「リオン様、お背中をお流ししますね」


「……ああ」


(リオン様のお身体、前よりもすっごく逞しくなったなぁ)


 タオルに石鹸を付けて泡立て、力加減を確認しながらリオン様の背中を擦る。

 以前は細かったお体も、筋肉が付きがっしりとした感じになりました。この三か月間、リオン様は寝る間も惜しんで鍛錬を頑張ってたからなぁ。


(もう三か月も経ったのかぁ、あっという間だったなぁ)


 リオン様の専属メイドになる前を思い浮かべる。

 エルファルド家の領地に住んでいる私の家は農家をしていて、長女である私を含めて子供が五人もいる大家族だ。

 農家の仕事は大変だけど、お母さんやお父さん、兄妹たちと一緒に毎日楽しく暮らしていた。


 だけど、昨年は災害などもあって上手くいかず、お金がなくて苦しくなってしまった。お腹を空かせている兄妹にご飯を食べさせてあげたいけれど、学もない私ではどうしたらいいのかわからない。


 途方に暮れていた時、お貴族様がメイドを募集していることを知った。少しでもお金を稼ぐために、メイドになることを両親に話す。


「辛くなったらすぐに帰ってくるんだぞ」


「身体に気を付けてね」


「心配しないで。沢山お金を稼いでくるから待っててね!」


 大好きな家族に別れの挨拶を済ませ、エルファルド家の屋敷に向かった。


「私はメイド長のストークです。エルファルド家のメイドとして厳しく教育しますので、覚悟しておきますように」


「は、はい! 頑張ります!」


 仕事を教えてくれるメイド長のストークさんは厳しいけれど、優しいところもあります。おっちょこちょいな私が失敗しても怒ったりせず、次からは気を付けないさいと注意してくれる。

 歳の離れたお姉さんみたいで、長女の私からしたら新鮮でした。


「リコ、リオン様には細心の注意を払いなさい」


「リオン様って、エルファルド家のご長男様ですよね?」


「そうです。決してあのお方を怒らせるような真似をしてはいけませんよ。一瞬でクビにされてしまうから」


「ひぇぇええ……そうなんですね、気をつけますぅ」


 ストークさんや他の皆さんからお話を聞くところ、エルファルド家の後継ぎにしてご長男のリオン様は物凄い我儘なろくでなしみたいだ。


 些細なことでも機嫌を悪くして、怒ったり理不尽な文句を言ってくる。そのせいで辞めた使用人は少なくなく、急遽メイドを募集したのもリオン様が二人もメイドを辞めさせてしまったかららしい。


(やっぱり貴族の子供ってそんな感じなんだぁ)


 平民の私にとってお貴族様は偉い人ってイメージだけど、人によっては「偉そうに踏ん反ってる奴等だろ」って意見もある。実際に偉いんだからいいじゃんって私は思うけど、本当はどんな方々なのか分からない。

 でも、実際に聞いたリオン様の評判は悪いものしかなくて、村の皆が言うような偉そうに踏ん反り返る子供だった。


(私も気をつけなくちゃ!)


 メイドのお給金は凄く高いし、お腹を空かしている家族のために辞める訳にはいかない。

 頑張るぞぉ!


「きゃ!」


「何だ貴様」


「ひっ」


 や、やっちゃった~~~~~~!!


 お掃除に行こうとしたところ、廊下の曲がり角でリオン様にぶつかってしまった。しかも、桶に入っている水をリオン様にかけてしまった。


(ど、どうしよう……私も辞めさせられちゃうのかな)


 とんでもない失敗をしてどうしたらいいかわからず呆然としていると、通りかかったストークさんが慌てて助け船を出してくれた。


「誠に申し訳ございません、リオン様! ほら、あなたもちゃんと謝りなさい!」


「も、申し訳ございません!」


「この子は入ったばかりの新人ですので、どうかお許しいただけないでしょうか。私からもきちんと注意しておきますので」


「うっ!?」


(あれ、どうしたんだろう)


 ストークさんと一緒に謝ってどうにか許してもらおうとお願いしたら、リオン様は急に頭を押さえて苦しそうになる。

 心配したストークさんが恐る恐る様子を伺うと、


「リオン様……?」


「はぁ……はぁ……これしきのことは些事にすぎん」


「えっ!? お、怒っていらっしゃらないのですか?」


「くどいぞ。お前はどうなんだ」


「は、はひ。私なら大丈夫です」


「ふん。エルファルド家のメイドならしっかり働け」


「は、はい!」


 よ、良かったぁぁああ!

 クビにならずに済んだ!


 心の底から安堵している中、ストークさんがリオン様の濡れたお召し物に目を向け、


「リ、リオン様、せめて濡れたお召し物を交換致します!」


「服が濡れただけだ。それよりも、あの新人をきちんと教育しておけ」


 そんな風に注意して、リオン様は何事もなかったかのように立ち去ってしまいました。


「私は夢でも見ているのかしら……リオン様が怒らないなんて。それどころか労ってくるなんて。こんな事は初めてよ、いったいどうなっているのかしら……」


 ストークさん、困惑してるなぁ。

 でも、聞いていた話と少し違う気がする。初めてお会いしたリオン様は確かに目つきとか雰囲気とか怖い印象だったけど、皆が悪口を言うようなろくでなしではないような気がする。


(今日は機嫌が良かったとか?)


 うん、そうかもしれない。

 今日だけ偶々機嫌が良かったんだ。クビにならに済んで良かったぁ!


 という風に結論付けたんだけど、リオン様は本当にろくでなしではなかった。

 だって、貧しい私の家の足しにって私に自分のお金をくれたんですもの! ろくでなしどころか、凄く優しい人だった。


 というのは私だけの印象で、他の人は口々に「リオン様は変わった」と言っている。その変貌ぶりに最初は驚いていたり疑ったりしていたけど、今では使用人たち全員がリオン様を見直している。


「リコ、どうやらリオン様はあなたを気に入っているそうです。あなたさえよければですが、リオン様の専属メイドになりませんか」


「はい! 是非やらせていただきます! 頑張ります!」


 家族の恩があるリオン様のお役に立てられるのならと、ストークさんの推薦を受け入れる。こうして私は、リオン様の専属メイドになったのです。


「ふふ」


「何を笑っている」


「何でもありません。それよりリオン様、次は前を洗わせていただきます」


「前は自分でやると言っているだろう」


「いえ! リオン様のお体はしっかりと私が洗わせていただきます! 専属メイドですから!」


「お、おい――」


「きゃ!」


 強引にリオン様のお体を洗おうとしたら、押し倒してしまいました。あれ……お腹に何かカタいのが――、


「リコ! 早く退け!」


「ふぇええ! 申し訳ございません~~!」



 こんな風に時々失敗したりしますけど、リオン様の専属メイドとして精一杯頑張ります!


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