3話 リオンの才能
「よし、鍛錬するか」
料理人が作ってくれた美味しいご飯を食べて腹ごしらえを終えた俺は、強くなるために鍛錬を始めることにした。
死亡フラグを回避するためにも、原作以上に強くならなくちゃいけないからな。
「セバスチャン、俺に稽古を付けてくれ」
「わたくしめの聞き間違いでしょうか……リオン坊ちゃま、今何とおっしゃいましたか?」
「何度も言わせるな。俺に稽古を付けろと言っているんだ(忙しいのにすいません! マジで切実なんでお願いします!)」
彼はセバスチャン。
エルファルド家の執事長であり、リオンの教育係でもある。彼はエルファルド家を監督する執事長でありながら、剣術、魔術、学術に長けている。
何でこんな凄い人が悪役貴族のエルファルド家に仕えているのが不思議なほど完璧な老人だった。
「まさか坊ちゃまから稽古を付けて欲しいと言ってくださる日が来るなんて……感激のあまり涙が出てしまいます」
(マジで泣いてるよこの人……)
目頭を押さえながらマジ泣きしている老人を前にドン引きしてしまう。
まぁ無理もないか。今までリオンが自分から稽古したいと言ったことなんて皆無だったみたいだからな。
『坊ちゃま、今日こそはサボらず稽古をしますよ! 坊ちゃまはエルファルド家の跡継ぎなのですから!』
『僕には必要ない! 天才の僕は稽古なんかしなくても最強なんだよ!』
『坊ちゃまぁぁあああ!!』
リオンの記憶を読むと、セバスチャンがどれだけ手を焼いていたか分かる。貴族の跡継ぎだと言うのに、リオンはその自覚が全くなく二人の取り巻き達と毎日遊び惚けていたみたいだ。
俺だってリオンのように遊び放題したい気持ちはあるけれど、死ぬと分かっているのに遊びを優先する訳にはいかない。今の俺は無駄なことをしている時間が一分一秒だってありはしないんだ。
「まずは剣術から頼む」
「承知いたしました。それではわたくしに斬りかかってきてください」
「うむ」
木剣を持っている俺は、同じく木剣を持っているセバスチャンに斬りかかる。いとも容易く防がれるが、めげずに何度も繰り返す。
その最中、俺は胸中で感動していた。
(凄い! 身体が動く! 俺の身体じゃないみたいだ!)
前世の俺は剣を振るったことなんてないし、喧嘩すら一度もしたことがない。戦いとは無縁の人生だった。
それにも関わらず、俺はセバスチャンに対して躊躇なく剣を振るえているし、それなりに様になっていた。
恐らく、俺の意志というよりもリオンの身体だからこれだけ動けているんだろう。サボってはいたが、基礎はそれなりにやっていたみたいだ。
(はは! めちゃくちゃ楽しいぞこれ!)
身体を思う存分動かせることが楽しい。前世では格闘技のような対人戦はしてこなかったから、血が湧くような感覚は初めてだった。
その後もセバスチャンから指導を受けつつ、数時間ぶっ通しで剣術の稽古を行った。
(あんなに稽古したのに全然疲れてないぞ……この身体凄いな)
十代だからか、リオンの身体が特別なのかは分からないけど、あれだけ稽古したのに少し疲れただけだ。これならまだまだやれそうだ。
「セバスチャン、次は魔術の稽古だ」
「休まなくてもよろしいのですか? 今日はこれくらいにしてもよろしいかと」
「心配は無用だ。続けろ(もう少し付き合ってください!)」
「承知いたしました」
「魔術学院の無能力者」の世界には、魔術の存在がある。
けれど、魔術が扱えるのは全体でも二十パーセントほどで、その殆どが貴族の血筋に限られてくる。
その為この世界では魔術が扱える貴族の地位が高く、リオンは魔術が扱えない平民を下に見ていた。
説明の続きだが、魔術には属性がある。アニメや漫画にもよくある設定の火、水、土、風、雷の基本五大属性だ。
五大属性の中でもエルファルド家は代々雷属性を得意にしており、力も強い。だから貴族の中でもエルファルド家の地位は高く、リオンが傲慢なのも自分が優秀だと思っているからだ。
それで慢心しているから、主人公に何度も負けて終いには闇落ちして死んじゃうんだけどな……ほんと救えない奴だよリオン君。
「それでは坊ちゃま、まずは初級魔術をお見せしていただいてもよろしいでしょうか」
「わかった」
と返事をしたものの、勿論俺は魔術なんて使ったことは一度もない。
けどリオンの記憶を読み取れば、俺にだって魔術を使うことはできるはず。物は試しだ、失敗してもいいからやってみよう。
リオンの記憶を読み返しながら、初級雷魔術を発動するための詠唱を開始する。
「サンダー」
詠唱を唱えた刹那、バチバチと右手から電気音が鳴り響き、黄色い電撃が勢い良く放出された。
(お、おおおお……! すっげーー! これが魔術か! かっけぇぇ!!)
アニメや漫画で見てきた魔術を目の前に感動する。と同時に、ちゃんとできるか不安だったけど魔法が発動してくれて安堵した。
でも、魔術ができただけで満足してはいられない。
死亡フラグを回避する為にも俺は最強にならなければならないからだ。でも、異世界人である俺には強くなる方法がわからない。
だったら、強くなる方法を教えてもらうしかないだろう。
「セバスチャン、俺は強くなりたい。教えてくれ、俺はどうすれば強くなれる」
「……申し訳ございませんが、強くなるための近道はございません。ですが、リオン坊ちゃまが強くなりたいとおっしゃるのなら、このセバスチャンが全力でお力になりましょう」
「ああ、頼む。強くなれるのなら何だってしよう(よろしくお願いします!)」
「うう……!」
えっ……またガチ泣きしてるよ。
リオンから教えて欲しいって言ったことがそんなに嬉しかったのか?
「坊ちゃまの教育係になって十年。この日をどれだけ待ちわびたか! 坊ちゃまがやる気になってくれてこのセバスチャン、感激でございます!」
「そ、そうか……よろしく頼む」
老人のオーバーリアクションを受けてやや引いてしまうが、彼がやる気になってくれたのなら僥倖だろう。
最悪なところ、リオンの今までの態度から見捨てられてもおかしくはなかったからな。
(よし……やるぞ!)
その日から俺は、身体を鍛え、剣術と魔術の鍛錬に全力を尽くした。
ランニングや筋トレといった基礎トレを行い、毎日三食腹一杯食べて身体作りを行う。
剣術と魔術は一日ごとに分けるサイクルで鍛錬を行い、毎日毎日ぶっ倒れるまでやる。
正直、キツくないかと言えば嘘になる。プロのスポーツ選手ですらやらないハードスケジュールだ。キツいに決まっている。
転生する前の俺は決して努力家とは言えなく、たまに筋トレしようと思っても毎朝起きる度に「今日はいいかな……」「やりたくねぇ……」と投げ出していた。
惰弱な精神を持つ俺がハードスケジュールをやり続けられた理由は主に三つ。
一つ、ブラック企業でのサビ残に比べれば鍛錬の方が全然マシだということ。
二つ、死亡フラグを回避するために強くならなければならないから。
そして三つ目。
日々強くなっていることが実感できて楽しかったからだ。
「はぁぁあああ!!」
「むん!」
地面を蹴り上げ、セバスチャンとの距離を瞬く間に潰す。
上段から木剣を振り下ろすと、反応したセバスチャンが木剣で防御。すかさず放ってきた蹴りをバックステップで距離を取りながら回避した俺は、左手を前に突き出し魔術の呪文を唱える。
「サンダーアロー!」
「アースウォール!」
初級雷魔術である雷の矢を放つが、執事長も地面から土の壁を出現させ防御。雷矢が土壁に着弾し、破壊と同時に土煙が舞って姿が見えなくなるが、俺は臆さず前に出た。セバスチャンの気配を辿り、木剣を振るう。
「はぁぁああ!」
「甘いですぞ!」
紙一重で避けられ、カウンターを見舞わしてくる。このままでは一本取られてしまうが、俺はとっておきを発動した。
「瞬雷」
「なんですと!?」
瞬雷。
これは魔術ではなく、俺が独自に編み出した雷属性の魔力を身体に付与する瞬間身体強化。瞬雷によって強化された俺の身体は、極短い時間ではあるが凄まじい速度で動くことができるんだ。
瞬雷でカウンターを回避した俺は、セバスチャンの背後に回り込み、木剣を首筋に当てた。
「一本……だな」
「参りました。お見事です、坊ちゃま」
「はぁ、はぁ……」
セバスチャンから降参の言葉を受け取った俺は、構えを解いて呼吸を整える。
瞬雷の効果は凄まじいけど、身体に掛かる負荷と体力の消耗が激しい。使えるようになったのもここ最近だし、今のところは一回きりの切り札だ。
でも瞬雷のお蔭で、稽古を始めてから初めてセバスチャンから一本取ることができた。
「リオン様ーーー! タオルをお持ちしま――はぐぅ!?」
「はぁ……何をしている(パ、パンツ見えてるよ!)」
「ふぇぇ……申し訳ございません」
息を整えていたところ、待っていたと言わんばかりにタオルを持ってメイドが走り寄ってきたが、目の前で躓き転んでしまう。その際、スカートが捲れて可愛らしいおパンツが露になっていた。
彼女は以前、俺に水をかけてしまった新人メイドのリコだ。彼女の家が金銭的に苦しんでいたことを知った俺は、元々あったリオンのポケットマネーをメイド長越しに渡してあげた。理由としては、彼女に贖罪したかったからだ。
それはそれで、リコにめちゃくちゃ感謝された上、メイド長も何を勘違いしたのかリコを俺の専属メイドとして一任してしまった。今のようにタオルを渡してくれたり、俺の身の回りの世話をしてくれている。
ただ、ちょっと慣れないなんだよな。
着替えとか恥ずかしいから自分でやると言っても、リコは「リオン様の専属メイドとしてのお仕事ですから!」と言って頑なにやりたがるし……。
加えてリコは今のように転んだりとラッキースケベドジっ娘属性があるから、目のやり場に困ることもあるんだよなぁ。
「いやはや、不覚を取ってしまいました。坊ちゃま、いつの間にあのような魔術を習得されたのですか?」
「覚えたばかりだ。お前に一本取るために隠れて練習していた」
「それはそれは。日々あれだけ過酷な鍛錬をしつつ、さらに技を磨かれていたとは……強くなられましたな、坊ちゃま」
「ああ」
リオンに転生して、鍛錬を始めてから三か月。
めちゃくちゃキツかったけど、その分だけ強くはなっている。いや、想像以上の成長速度だった。
(それもこれも、元々のリオンの才能が高いからだよなぁ)
『僕は天才なんだぞ!』
原作のリオンの台詞でもあるように、彼の身体スペックは、由緒ある貴族の血のお蔭もあって超優れている。剣術も魔術も、やればやるだけ成長するんだ。自分が成長するのが楽しかったから、現代人の俺でも厳しい鍛錬を繰り返すことができた。
(もったいねぇよな~)
だからこそ、元々のリオンだって才能に慢心せず遊び惚けたりサボったりしないで真面目に鍛錬していれば主人公に嫉妬して死んだりしなかっただろうに……とは思ってしまう。
そういう悪役キャラとして生み出されたから、どうしようもないんだろうけどさ。
「セバスチャン、もう一本だ」
「かしこまりました。次は負けませんぞ」
「ふん。次もお前の負けだ」
強くなったとはいえ、死亡フラグを回避するにはまだまだ程遠い。
リオンのように慢心や怠慢はしないで、俺はもっともっと強くなってやる。目指すは最強だ。
「はい、一本です」
「ちっ」
クソ、この爺さん強ぇ!




