37話 恐怖の祖父と伯母
異世界系の物語でよくある「帝国」が、「魔術学園の無能力者」にも存在している。
しかしこの帝国、カイトと殆ど絡まないし物語にも少ししか出てこない。
何故かというと、ラスボスに壊滅させられてしまうからだ。
物語終盤、ラスボスと闇の魔術師の軍勢に立ち向かうべく各国が同盟を結ぶが、帝国は同盟を拒否。
「帝国の軍事力は世界一ィィィイイ! 同盟なんて必要ない!」みたいな感じで同盟を拒否したのだが、結局ラスボスと闇の魔術師の組織に成す術もなくフルボッコにされてしまった。
簡単に言えば帝国は、ラスボスの恐ろしさを見せる為のかませ犬なんだ。
そんなアホな帝国との国境を守っているのが、祖父母が住んでいる辺境のエルファルド本家だった。
かなり昔ではあるが、帝国の皇帝が直接侵攻してきた時にエルファルド家のご先祖様が返り討ちにしている。その武功を称えられたことで、エルファルド家は大貴族として認められるようになったんだとか。
物語では描かれていないが、今でも帝国はちょくちょく我が国にちょっかいをかけているらしい。そんで侵攻してきた帝国を赤子の手を捻るように追い払っているのが、ジオの姉で、俺の伯母である。
帝国に恐れ慄かられている彼女の異名は【氷血の魔女】。
なんとまぁおっかない異名だろうか。氷魔術が敵の血で真っ赤に染まることからそんな異名が付けられたのだとか。
ジオでさえ頭が上がらず、リオンが出来れば会いたくない彼女の名前は、エリザベス・エルファルドであった。
「よぉ従弟、遠路はるばるよく来たな」
「お久しぶりです、伯母様(何だこの海賊女帝みたいな人は!?)」
フラグを回収することもなく、魔導飛行船で辺境の近くにある駐機場で降りると、そこから再び馬車を借りて祖父母の家に向かう。
夕方頃にようやく到着した祖父母の家は超大きかった。俺が住んでいる屋敷もそれなりにデカいが比べ物にならない。兵士の訓練場も備わっているみたいだし、最早小城と言っても過言ではないだろう。
そんな家で俺達を出迎えたのがエリザベス。
綺麗ではあるが男勝りな顔つきで、獣のひっかき傷のような傷跡がある左目は眼帯で覆われている。大きな身体を包むのは、獣の毛皮のようなふわふわとしたマント。
眼帯にマントって……なんというか、海賊女帝と呼ばれるのが相応しいほどの外見だった。とてもじゃないが貴族令嬢には見えない。
「それにセバスチャンと……」
「ひぃ……」
「申し訳ございませんエリザベス様。彼女は坊ちゃまの専属メイドのリコでございます」
「気にするな。恐がられているのには慣れている」
伯母に見られて震えるリコ。彼女の気持ちはよく分かる。俺もリオンの身体じゃなかったら情けなく腰を抜かしていただろう。
「そんでそっちが……」
「初めまして、エリザベス様。リオン様の婚約者のレイラ・ベルンツベルンと申します」
「お~そうかそうか! 会いたかったぞ! 私に似て可愛い女の子じゃないか!」
(どこがだよ……)
と心でつっこむだけで絶対に口には出さない。出したら殺される。
「積もる話でもしたいところだが、もう遅いから明日にしよう。まずはお父様とお母様にご挨拶に行くぞ」
「分かりました」
「セバスチャンはレイラ嬢とメイドを案内してくれ。レイラ嬢、何もない辺鄙なところではあるがゆっくりして行ってくれ」
「承知いたしました」
「お世話になります」
他の三人は別行動で、俺はエリザベスに連れられ祖父母のところへ向かう。大きな屋敷の中を歩いている途中、彼女に話しかけられた。
「リオン、これだけは言っておく」
「何でしょう」
「私に殺される前にお父様に殺されるなよ」
(え~~何それ~~)
「お父様はジオのように甘くない。下手に答えたら家に帰れないと思え」
「はい……」
はぁ、俺はカイトの前に祖父やお伯母に殺されてしまうのか。リオンの身体がここに来るのに拒絶反応を示していた気持ちが身に染みてわかったよ。相棒、お前も苦労してたんだな。
「お父様、リオンを連れて来ました」
「入れ」
「失礼いたします」
顎をくいっとするエリザベスに促され、祖父の部屋に入る。広くて豪奢な部屋の中にいるのは一人の老人。
ジオの父親で、リオンの祖父であるゼベル・エルファルド。
「お久しぶりです、お爺様」
「うむ」
(おっかね~~)
祖父はまさにジオが年を取ったような人だった。目つきも鋭いし、佇まいというか纏うオーラに年季が入り過ぎている。重厚感が凄まじく、対峙しているだけで圧し潰されそう。
うん、エリザベスの忠告通り下手なこと言ったら殺されそうだ。
「今年から魔術学園で学んでいるようだが、調子はどうだ?」
「お爺様やお父様のような立派な貴族になるべく、日々精進しています」
「ほう、それは良い心だけだ」
ふぅ、一先ずクリアしたか。
と安堵したのも束の間、ゼベルの声のトーンが一段重くなる。
「それでは何故、平民の生徒如きに二度負けた?」
「……」
「私が知らないとでも思ったのか? お前が自らけしかけた決闘、魔術大会の予選会。お前は同じ平民の生徒に負けているな」
「はい」
「リオン。お前は帝国の驚異から国を守っている誇り高きエルファルド家の顔に泥を塗ったのだぞ。それを自覚しているのか」
「自覚しております。俺が至らないばかりにエルファルド家の顔に泥を塗ったこと、深くお詫び申し上げます」
深々と頭を下げ謝罪する。
いやもう謝るしかできないよね。なんとか許してもらえるまで謝ろう。こちとらブラック企業で働いていたお蔭で謝るのには慣れているんだよ。
「……言い訳があるなら聞いておこう。言いたいことはあるか?」
「ありません。俺の実力不足です」
即答する。
カイトの能力に驚いたとか、物語通りにするためにわざと負けたとか言い訳はできるけどやめておいた。
下手に言い訳しても見透かされそうだしな。
「ほう、己の非を認めるか」
「はい」
「よかろう。もしくだらん言い訳を並べるようならこの手で殺していたところだ。その謙虚さに免じて今回だけは許してやる」
(あっぶね~!)
選択肢を間違えていたら死ぬかもしれなかった。流石に孫は殺さないと思うけど、このお爺ちゃんならやりかねん。そういうオーラを出しまくっているし。
「ゆめゆめ忘れるな、リオン。もしまたエルファルド家の顔に泥を塗るような真似をしたら許さんからな」
「はい」
と勢いよく返事はしたけど、この後もやらかすのが確定しているんだよな……。まぁこの人達に再会する前に死ぬから怒られることは二度とないんだろうけど。
物語では描写されていなかったけど、本物のリオンも挽回しようとして焦ってしまったのかもしれない。だから闇の魔術師なんかに唆されてしまったんだろうか。
「お前がエルファルド家を継ぐに値しないと判断した時は、ワイズに継がせると思え」
(ワイズ……?)
ワイズが誰なのかリオンの記憶を掘り返す。確かエリザベスの長男で、俺の従弟だ。今は確か八歳ぐらいだったか。
リオンが死んだ物語では、ワイズがエルファルド家を継いだのかもしれない。そこまで描かれる前に物語が終わるから分からないけどさ。
そもそも、何故長男のジオが本家であるこの家を継がずに家を出て、長女で嫁ぐはずのエリザベスがこの家にいるのか。
普通逆じゃね? と気になってセバスチャンに詳しく聞いたところ、どうやら祖父のゼブルは息子のジオを辺境に留まらせたくなく、王都付近のエルファルド領に屋敷を立てたそうだ。
要は息子を上京させてやりたかったんだと。それだけ聞くと良いお父さんだよな。
というか、この辺境に加え屋敷周辺の土地もエルファルド領なんてどれだけ広い土地を持ってるんだよって話だよな。流石は大貴族って感じで関心したよ。
そんでエリザベスが他所に嫁ぐことなく祖父の家にいるのは、彼女が余りにも好戦的な人間だから。
ゼブルも娘を名家の貴族に嫁がせようとしたが、「帝国のクソ野郎共を追い払うのは私の役目だ」と頑なに却下されたらしい。
その変わり結婚しろと言われたエリザベスは、そこそこ名家の次男と結婚し婿入りさせた。
エリザベスは「この家は私が守るから、お前は自分のやりたい事をやれ」とジオに言ったそうだ。案外優しいお姉ちゃんだよな。祖父や姉に対して頭が上がらないジオの立場がよく分かったよ。
「不服か?」
「いえ、それでよろしいかと」
俺は物語通り死ぬつもりなんてないし絶対生き延びるつもりでいるが、死亡フラグを回避した後はエルファルド家について余り考えていない。俺の代わりにワイズが継ぐならそれで全然良いと思うよ。
「……そうか。話しは以上だ。長期休暇の間はここに留まり、エリザベスに軟弱な身体と精神を鍛えてもらえ」
「分かりました。それではこれで失礼いたします、お爺様」
ふぅ、何とか殺されずに済んだな。
しっかしお爺ちゃん怖すぎだろ。危うく漏らすところだったぞ。
「はぁ……」
でもまだ一人残ってるんだよなぁ……ため息しか出て来ないよ。




