32話 ザッカート
「美味い。また腕を上げたな、料理長」
「いえいえ、リオン様がくださった包丁のお蔭です」
料理を褒めるも、料理長は謙遜するだけだった。
いや~朝から腹一杯食べたな。昨日の夜はご飯を食べずに寝ちゃったってのもあるけど、やっぱりエルファルド家の料理長が作るご飯が一番だな。
学園の出す料理も美味しいっちゃ美味しいんだけど、料理長の味を知っているとイマイチなんだよね。
さて、美味しいご飯もたらふく食ったことだし、軽く運動でもするかな。そう思って屋敷の庭に出ると、待っていましたと言わんばかりにセバスチャンが木剣を持って立っていた。
「俺の行動を読んでいたのか?」
「はい。坊ちゃまなら食事の後に身体を動かしたいだろうと」
「ふっ、流石だな」
何でもお見通しってことか。執事力が半端じゃない。
「丁度いい。少し付き合ってくれるか」
「勿論です」
セバスチャンもその気だったのか、即座に返事をもらえた。てか木剣も二本用意してあるじゃん。俺が頼むことまで読んでいたのかよ。ここまでくると流石に怖いって。
彼の執事力に慄きつつ、木剣を受け取る。最初は軽く合わせ、徐々に速度を上げていく。
「やるな」
「坊ちゃまも衰えていないようで何よりです」
そうかな~。学園でたまにゴーズとクラッドを鍛えるために触ってはいたけど、入学する前の死ぬほどやってた時と比べると全然鍛錬してしてなかったからな~。
剣を合わせていると、改めてセバスチャンの剣技が半端ないって感じる。
彼に比べれば、カイトとか大悪魔イフリートの剣技が子供のお遊戯に思えてくるよ。
「初級魔術限定で組み合わせてみるか。どうだ?」
「勿論ですとも」
味変にどうかなって提案してみたが、乗ってくれてよかった。初級魔術限定にしたのは、中級以上だと流石に庭とか屋敷に被害が及ぶからだ。
セバスチャンも乗り気だし、一丁張り切りますか。
「サンダー」
「アースバレット」
俺が放った電撃に対し、セバスチャンは土の散弾を撃ってくる。木剣に雷属性を付与させ強度と切れ味を強化すると、飛来してくる散弾を斬り払った。
セバスチャンに向かって駆け出すと、彼は片手を地面につけて魔術を発動する。
「アースウォール」
「はっ!」
土の壁が行く手を塞ぐが、雷で強化した木剣で斬り裂く。そのままセバスチャンに追撃しようとしたのだが、その場から姿を消えてしまっている。
横から気配を感じ取ると、セバスチャンが木剣で振るってきた。紙一重で躱すと、一度距離を取る。
「一本取れると思っていたのですが、甘かったですね」
「アースウォールは防御よりも目くらましに使ったのだろう?」
土の壁で敵の視覚から自分の姿を消しつつ、側面に回りこんでの不意打ち。俺もよく使う手だ。自分か敵の魔術を障害物にして、瞬雷で敵の背後を取ったりな。っていうかこの戦法ってさ、
「お前に教えてもらったことだ」
「いやはや、坊ちゃまの教育係として光栄に存じます」
「さて、次は俺の番だ」
「何を見せてくれるのか楽しみですね」
それからも俺達は魔術と剣術を合わせて戦ったが、決着は着かなかった。お互い手の内は分かり切っているし、初級魔術だけじゃ決め手にかけるからな。それに身体を動かすのが目的で、ムキになることもないし。
にしてもやっぱ強ぇなセバスチャン。圧倒的な剣才も凄いけど、魔術の戦い方も上手すぎる。
何でこの人がエルファルド家の執事なんかやってんだろう。武の道に進んでいれば名声を手に入れられたかもしれないのに……。
気になって本人に聞いてみたが、教えてくれなかった。最年長の彼の過去を知っているのはジオくらいか。う~ん、あの人怖いからあんま話したくないんだよね。
「リオン様、タオルとお飲み物をお持ちしました。執事長もどうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます、リコ」
はぐらかしてくるセバスチャンにもう一度尋ねようとしたらリコがやって来た。彼女の気遣いにお礼を伝えていると、いつの間にか側にいたサラから誘いを受ける。
「お兄様、この後のご予定はありますか?」
「今のところない」
「そうですか! それでは一緒に出掛けませんか?」
「いいぞ」
可愛い妹の頼みとあらば断わる訳にはいかないよな。
「それではリコに馬車を引かせるといいでしょう」
「リコが?」
「執事長に教えてもらって馬車を引けるようになりました! 私はリオン様の専属メイドですから、どこまでも御供させていただきます!」
俺が学園に行っている間にリコも成長していたんだな。俺も負けていられないな。尽くしてくれるリコのためにも良い主になれるよう頑張ろう。
「そうか。では頼む」
「すぐに馬車のご用意をいたします」
セバスチャンが用意してくれた馬車の荷台に俺とサラが乗り込み、リコが操縦席に乗る。俺達だけで大丈夫かと心配していたセバスチャンには留守番を頼んだ。今の俺なら盗賊に襲われようが全く問題ない。
「夕飯までには戻る」
「皆様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
セバスチャンに見送られ、馬車が発進する。カタコトと揺れながら、ゆっくりと大きな街へと向かった。
◇◆◇
「賑わっていますわね」
「そうだな」
俺達はエルファルド領でも一番大きな街、ザッカートを訪れた。
俺の世界で例えるなら、エルファルド領が神奈川県で、ザッカートが横浜って感じだ。流石にランドマークタワーみたいな高層ビルが建ち並んでいる訳ではないけど、大きな店も沢山あるしそれなりに栄えている。人も凄く多いしな。
馬車は門兵に預けてある。
最初は「子供たちだけで何の用だ?」みたいな訝し気な反応をされたが、エルファルド家の者だと知るや否やコロッと態度を変えて通してくれた。
領主の息子って分かったらそうなるのも仕方ない。特にエルファルド家は大貴族だし、ジオはおっかないもんな。
「どこに行けばいいか迷ってしまいますわ」
「なら俺が案内しよう」
「いいのですか?」
「ああ」
本物のリオンが勉強や鍛錬をサボって、ザッカートによく遊びに来ていた記憶がある。俺も何度かゴーズとクラッドを連れて来ているし、サラを案内するくらいはお茶の子さいさいだ。
「すぐ近くに大きな服屋がある。まずはそこに行ってみよう」
「服屋ですか? 是非行ってみたいですわ!」
服屋と聞いてサラのテンションが目に見えて上がる。女の子は服とか好きだもんな。特にこの世界は俺の世界より娯楽が少ないしさ。
「いらっしゃいませ、本日はどういった服をお求めですか?」
「この二人を見繕ってやって欲しい」
「承知いたしました!」
「リオン様、私は結構ですよ!」
「遠慮するな」
慌てて断ってくるリコに気にするなと伝える。
沢山買うと他のメイドたちに嫉妬されてしまうかもしれないけど、折角来たんだから一着ぐらいいいだろう。
「ありがとうございます」
「それではお客様、こちらへどうぞ」
それから店員による、サラとリコの着せ替えショーが始まった。店員さんもノリノリなのか、次から次へと服を持ってくる。
「どうかしら、お兄様」
「似合っている(ん可愛いぃぃ!)」
「リオン様……どうですか?」
「いいな(可愛いぃぃいいい!)」
いや~可愛い二人は何を着ても似合うし可愛いな~。目の保養になるし、見てるだけでも十分楽しい。
決めた。サラが着た服は全部買おう。これでも俺は大貴族の息子、お金は沢山あるのだよ。ふっふっふ。
「お客様方は可愛いので何を着ても似合います!」
「目利きが良いな」
「恐縮です。これでもプロですから」
確かにサラとリコが可愛いのもあるが、店員が持ってきた服はどれもセンスが良い。二人の良さが十二分に生かされている。
店員が居てよかった。二人にどれがいい? て聞かれても難しいからな。センスがなくても、俺が選んだものならこれが良いって言うかもしれないし。
「全部買おう」
「ありがとうございます! すぐにご用意いたします」
サラのは全部、リコには一番欲しいのを選んでもらい買うことにした。俺のことを太客だと認識してくれたのか、丁寧に包んでくれる。
お金を払いつつ、まだ街を回りたいので帰るまで取り置いてもらえるか頼もうとした時、近くから叫び声が聞こえてくる。
「あ~! こんな所におったんか~!」
ん? この関西弁、聞き覚えがあるような……。
「やっとこさ見つけたで、リオンはん!」




