25話 覚醒
「サンダー」
「はっ!」
「「おおおおおおお!」」
「魔術を斬ったぞ!」
「魔術を消せるというのは本当だったのか!」
俺が放った雷撃をカイトが鉄剣で斬り裂くと、観客席から歓声が沸き起こる。これでカイトの能力をお披露目は済んだな。ここからが本番だ。
その勢いで接近してくるカイトに対し俺の取る行動は、
「なっ!?」
「サンダー」
「くそ!」
“距離を取って攻撃する”だ。
カイトには遠距離の攻撃手段がない。ならば常に一定の距離を保ち、カイトに近づけさせなければいい話しだ。
この戦法は本物のリオンもやっている。彼も馬鹿ではない。決闘の時はカイトの未知の能力に困惑してしまったが、普通に戦えば遅れを取ることはないんだ。要は初見殺しに会っただけ。
そしてリオンには努力しなくても魔術を扱える才能と魔力がある。戦闘のセンスもあるし、カイトに負けることはないだろう。
「サンダーアロー」
「はぁ、はぁ……くっ!」
距離を取りつつチマチマと攻撃する。決闘の時のように鉄剣は持っていない。動き回るのに邪魔だし、あの時はカイトの剣術がどの程度なのか把握しておきたかっただけだからな。
「どうした平民、息が荒くなってきてるぞ。威勢が良かったのは最初だけか?」
「くそ!」
「何だ、魔術を消せるって言っても大したことねーな」
「やっぱり魔術師には勝てねーよな」
「頑張れカイト!」
「負けんじゃねぇ!」
防戦一方のカイトを貴族の生徒や観客が馬鹿にする。そんな彼の姿に居ても立っても居られないといったディックやガイ、平民クラスの生徒が必死に応援していた。
ここぞとばかりに、俺は嘲笑を浮かべてカイトを煽り散らかす。
「ほらほら、お友達が応援しているぞ。頑張れよ平民」
「はぁ、はぁ……」
この時本物のリオンは、大勢の前でカイトの醜態を晒せることが楽しくして仕方なかった。決闘での屈辱を晴らすためにも、このままじわじわとカイトをいたぶるつもりである。
まぁ……その油断が敗北の原因なんだけどな。
アホだよな~リオン。さっさと本気を出しておけば勝てたかもしれないのに。
さて、もう少しカイトを追い詰めますか。
「ホーミングサンダー」
「くっ――ぐぁあああああ!」
「はーはっはっは! いいぞその調子だ、もっと貴様の悲鳴を聞かせろ!」
同時に幾つもの雷撃を放つ。この攻撃魔術は四方から同時に標的へと襲い掛かるので、魔術を消せようが対応が間に合わない。
初めて雷魔術をくらったカイトは絶叫を上げて膝をついてしまう。そんな彼に、俺は追い打ちと言わんばかりに口撃した。
「これで分かったか平民。貴様のような魔術師でもない平民風情がノコノコと大会に出てきたのが間違っているんだよ」
「俺は……」
「これに懲りたら、二度とその面を俺の前に見せるな」
「俺は負けない!」
さぁ来い。覚醒しろカイト。
「これで終わりだ。ライトニング!」
「負ける訳にはいかないんだーーー!」
俺が放った中級の雷魔術を、カイトが鉄剣で斬り払う。地面を蹴り上げ、弾丸のような凄まじい速度で俺に肉薄してきた。
眼前にいるカイトの瞳の色は薄っすらと赤みがかっているのを確認した俺は、カイトが覚醒したことを確信した。
「――っ!?」
「うぉおおお!」
「ぐはっ!」
カイトから繰り出される渾身の斬撃を喰らった俺の身体が宙を舞い、決闘場の壁に激突する。
めちゃくちゃ痛い……多分色んなところの骨が折れたな。
(なんて速さと威力だ。これが覚醒したカイトの力か)
弾丸の如き移動速度と怪物と思うような怪力。覚醒したカイトは人間離れした力だった。とはいえ避けられないほどじゃない。今の俺なら覚醒カイトにも余裕で勝てるが、物語通り進めるために敢えて喰らってあげたんだ。
「がはっ……貴様ぁ! その力はなんだ!?」
「行くぞリオン! これで最後だ!」
「ほざくな! 負けるのは貴様だ平民! ライトニング!」
「はっ!」
「や、やめろ! 来るなぁああ!」
カイトは雷魔術の中を正面から突っ切り、無様に脅える俺に肉薄すると極限まで弓引く鉄剣を解き放った。
「はぁぁああああああ!」
「ぐはっ!」
アッパーのように振り上げられた鉄剣は腹部に直撃し、俺の身体はくの字に折れながら真上にぶっ飛ぶ。
地面に叩きつけられた俺を見て、審判のスレインが試合を止める。
「き、決まったーーー! 怒涛の勢いでリオン選手を打ち破り、勝利したのはカイト選手だーーー!」
「「おおおおおおおお!!」」
(はぁ……やっと終わった)
キアラの実況と今日一番の歓声を聞きながら、気絶したフリをしている俺は担架に乗せられ保健室に連れていかれるのであった。
◇◆◇
カイトにフルボッコされた俺のお見舞いには沢山の人が来てくれた。
「リオン様、大丈夫ですか!?」
「リオン様の身体が包帯まみれに……あの平民、やり過ぎだろ!」
「負けてしまった。二人の期待に応えられなくてすまなかった」
「そ、そんなこと気にしなくていいんですよ!」
「早く治してくださいね!」
ゴーズとクラッドが涙目で俺を心配してくれたり、
「こらえらいこっちゃ。リオンはん、生きてますん?」
「一応な」
ナナが俺の身体を見て仰天したり、
「カイトに意地悪したバチが当たったんだよ。これに懲りたら暫くは大人しくしておくんだね」
「うむ。筋肉を鍛えろ。さすれば精神も鍛えられるぞ」
「考えておくさ」
クラインとバッカスが俺の振る舞いを改めてきたり、
「おいリオン、どうして本気を出さなかったんだ」
「……出しましたよ」
「噓つくんじゃねぇよ。俺が勝てなかったあの闇の魔術師に勝ったお前が学生如きに負ける訳ねーだろ。上級魔術だって一度も使ってなかったじゃねぇか。俺はな、お前が予選会を軽々優勝すると思ってたんだぜ」
「相手が悪かったんです。ベルンツベルン卿も試合をご覧になったでしょう」
「確かにあのカイトっつう生徒が最後に見せた力には驚いたが……う~ん」
ラドクリフが俺の負けを疑ってきたり、
「……」
「……」
「平民の生徒なぞに負けおって。よくも宰相閣下や貴族たちの前で醜態を晒してくれたな。お蔭で私は笑い者だ」
「申し訳ございませんでした、父上」
「リオン、お前はエルファルド家の名に泥を塗ったのだぞ。それも一度だけではなく二度もな」
「……申し訳ございません」
「……平民なぞに調子づかれないよう、精進しろ」
ジオにしこたま怒られたりな。
けど、今思うと俺も結構慕われているんだな。お見舞いに来てくれる人がこんなにいるんだからさ。叱りに来たジオは除いて。
「はぁ……これでひとまず大きなイベントはクリアしたな」
予選会でカイトとリオンが戦い、カイトの覚醒を促して負ける。これで物語序盤のリオンの役目は終わりだ。当分の間はカイトとのイベントもない。
てか流石に今回は疲れたわ。身体もめっちゃ痛いし、暫くは大人しく休んでよう。
「リオン様……」
「レイラ……」
重要イベントを終えられてほっと安堵の息を吐いていると、レイラが見舞いにやってくる。まさか彼女が来るとは思ってなかったのでビックリしてしまった。
「こんな……お姿になって……ぐす」
「何故お前が泣く(泣かないで!)」
包帯まみれの俺の身体を見たレイラが突然泣き出してしまう。女の子に泣かれてどう対応すればいいか分からず狼狽していると、彼女はギュッと俺の手を握り締めてきた。
「リオン様のお考えは私には分かりません。ですが、お願いだから無茶だけはしないでください」
「……(レイラ……)」
それなに心配してくれるのか。
凄く嬉しいし、できるのであれば彼女の想いに応えたいけど、俺はこの手を握り返すことさえできない。それがとても辛く、奥歯を噛みしめるほど歯がゆかった。
「私にできることなら何でも言ってください。リオン様のお力になりますから」
「余計な真似はするな。お前の力など必要ない」
冷たく突き放し、レイラの手を振りほどく。
「リオン様……」
「もう行け。一人になりたい」
「……はい。お大事になさってください」
(ごめん、レイラ)
踵を返し、悲しそうに去っていくレイラに謝罪する。君の誠意を拒んでしまい申し訳なく思う。けどリオンは、君の手を握る訳にはいかないんだ。
「リオン・エルファルド君」
「誰だ(今度は誰だよ。いい加減一人にさせてくれ)」
「実は君に良い話しがあるんだ」
「何だ(怪しいセールスマンか?)」
「リオン君。君、力は欲しくないかい?」
……。
……。
……は?




