23話 ゴブリンパニック
「「ゲヒャヒャヒャ!」」
「ゴブリンだー!」
「きゃー!」
「逃げろー!」
「皆さん落ち着いて! 慌ててはダメですぐえ!?」
「ニック先生!」
この世界のゴブリンは、俺の世界にあるアニメや漫画のようなよくある「ヒャッハー! 女だー!」みたいに凶暴で人間を襲ったり女を強姦して繁殖するようなタイプのゴブリンではない。
知性があり、草を食べ、基本的に大人しい魔物だ。人間の言葉だって喋れるので、貴族の中には使い魔として使役する者もいるくらいだ。この森にいるゴブリンも大人しく、本来は深い場所で静かに暮らしている。
そんなゴブリンが何故、突然森の浅い場所まで来て人間を襲うのか。それは何者かがゴブリンをけしかけたからである。誰が何のためにゴブリンに生徒を襲わせるのか、黒幕の正体を俺は知っていた。
「ホーリージャベリン!」
「皆、落ち着くんだ!」
生徒達がゴブリンから逃げ惑う中、大貴族のクラインとバッカスが冷静に対応する。流石だな、二人がいれば貴族クラスは安全だろう。
「ゲヒャー!」
「うわぁ!」
「リ、リオン様!」
「サンダー」
俺達に襲いかかってくるゴブリンに電撃を浴びせる。電撃を浴びたゴブリンは身体が痺れて気絶した。
雷魔術は攻撃的だが、痺れさせ無力化することにも長けている。初級なら殺さずに済むだろう。
ゴブリンは殺さない。こいつらはけしかけられただけの可哀想な魔物だからな。
「流石リオン様!」
「ありがとうございます!」
「ゴーズ、クラッド。俺は平民クラスの方を見てくる。お前達はクラインたちから離れるな」
二人にそう言って、俺はバラバラに散らばった平民クラスの生徒の救助へと向かう。
すると、ゴブリンから生徒を守っているレイラを発見した。レイラはこのイベントに関っていないし、彼女の実力ならゴブリンに遅れを取ることもないので俺が手助けをする必要はないだろう。
レイラを素通りして他にゴブリンから追いかけられている生徒を陰から次々と助けていると、知っている者を見つける。
「こ、こっち来んなやアホー!」
「グヘヘ!」
「ひっ!」
「サンダー」
ナナに襲い掛かろうとしたゴブリンに電撃を浴びせる。腰を抜かしている彼女に近づき、手を差し伸べた。
「大丈夫か」
「リオンはん! ほんまおおきに、助かったで!」
俺の手を掴んで立ち上がるナナは、大袈裟に感謝を伝えてくる。その後、怪訝そうな顔を浮かべて首を傾げた。
「にしてもおかしいで。何でゴブリンがこんな浅いところまで来てるんやろか」
「そうだな」
悪いな、理由は知っているけど教えることはできないんだ。
さて、ゴブリンは粗方気絶させたし少しは落ち着くだろう。
(後はカイトたちだけか)
カイトは今頃仲間たちと共に特殊なゴブリンと戦っている。ゴブリンの進化系で、ゴブリンより大きくて頑丈なホブゴブリンと、魔術が扱えるゴブリンウィザードだ。
ゴブリンウィザードは魔術を消せるカイトが相手をして、ホブゴブリンはユイ、ガイ、ディックの三人が相手をする。
物語通りなら怪我もせず無事に撃退できるだろう。
「俺達も戻るぞ」
「せやな。なぁリオンはん」
「何だ」
「手を繋いでもええ?」
「……断る」
「も~乙女心が分からんやっちゃな~!」
◇◆◇
「そこの少年」
「はい(――この人は!?)」
ゴブリンの襲撃により課外授業は中断。無事に森からも帰れて、一人廊下を歩いていると背後から声をかけられる。
振り向いて声の主を見た俺は、目を見開いて驚愕した。
(ダニエル・ゴッドヴァルト!)
世界最高峰の魔術師の一角にして、王立魔術学園の校長先生。
そんな人が突然声をかけてきたのだから驚くのも無理はないだろう。
「儂の記憶が正しければ君は確か、エルファルド家のリオンじゃったかな」
「はい、校長」
「おお、そうかそうか!」
どうしよう……ダニエルと話すなんて聞いてないぞ。何故急に接触してきた。俺達に接点はないはずだ。
「のぉリオン、お主さえよければちょっと儂に付き合ってくれんかの?」
「……はい(何がどうなってんの?)」
突然付き合えと言われ、反射的に了承してしまった。ブラック企業で働いていた時、上司の誘いを断ることができなかった癖が裏目に出てしまう。
ダニエル校長に誘われた俺は、彼の後を大人しくついていくと学園の敷地にある湖にやって来た。
元々用意してあったのか、落ちている釣り竿を俺に渡すと勝手に釣りを始めてしまう。
「……」
「……(な、何だこれ)」
なんで湖? なんで釣り? てっきり俺に話があると思っていたのだが、ただ釣りをしたかっただけなのか?
いやそれなら一人でやってくれよ。そもそもリオンとダニエルが二人で釣りをするイベントなんて俺知らないんだけど。と胸中で疑問と不満を吐いていたら、ダニエルが話しかけてくる。
「儂はここで釣りをするのが好きなんじゃ。これでも校長じゃから仕事が山ほどあっての、気が滅入る時もある。そういう時は湖でボーっと釣りでもして、心を休めるんじゃ」
「そうですか」
「できれば、儂はリオンにも心を休めて欲しいと思っておる。運命に抗おうと常に気を張っておってはいつか倒れてしまうからの」
「――っ(この人、いったい何を知っているんだ)」
校長が口にする意味深な言葉に心臓が跳ねる。
まさかこの人、俺が転生者だと分かっているのか?
いや、そんなはずはない。
どれだけダニエル・ゴッドヴァルトが優れた魔術師であっても俺がリオン・エルファルドに転生したことなんて知り得ようがないはずだ。なら何故そんな話を俺にした。
(カイトの件か?)
ダニエルはカイトを常に見守っている。俺がカイトに決闘を申し込んだことやちょっかいをかけていることも勿論把握しているだろう。
自分が気にかけているカイトを守るため、俺に釘を刺しているとも捉えられる。
しかし、彼が口にした「運命」というワードがどうも引っ掛かるんだよな……。
「この学園は楽しいかの?」
「はい」
「それは良かった。さて、可愛い生徒と話も出来たことだし、そろそろ仕事に戻るとするかの。付き合ってくれてありがとう、リオン」
「俺の方こそ誘っていただきありがとうございました。校長先生のお言葉、しかと胸に刻んでおきます」
「うむ、それが良い」
◇◆◇
「リオン様! あの話聞きましたか!?」
「あの話とはどんな話だ」
「もう~あの話ったら魔術大会に決まってるじゃないですか~!」
(あ~もうそんな時期か)
部屋で休んでいたら、瞳を輝かせるゴーズとクラッドに話しかけられてふと思い出した。ここ最近は一般魔術とか魔道具とか魔術薬が楽し過ぎてそっちばかりに集中していたからな。
勿論ナナからカイトの情報を手に入れて物語の進捗具合も確認していたけど、リオンが絡むまでは放っておいた。
夏の長期休暇の前に、王立魔術学園では大きな催しがある。
その催しとは、冬に行われる各国の若き魔術師による魔術大会の予選会だ。
予選会は一、二、三学年を含めた生徒で試合を行い、勝ち残った上位四名が代表となる。四名の代表者は魔術大会に出場できるんだ。
因みに予選会は強制参加ではなく、出場したい者が決闘の盃に自分の名前を書いた用紙を入れることで参加できる。
「予選会で優勝したら宮廷魔術師が確約されるんですよね!」
「魔術大会で優勝なんかしちゃったら、偉大な魔術師の称号が手に入るんですよ」
「アークウィザードかぁ……憧れちゃうなぁ」
「そう言うならお前達も予選会に出ればいいじゃないか」
「そんな、俺達が出たって無理ですよ!」
そうかなぁ、俺が転生する前の二人なら到底無理だろけど俺が鍛えてきた二人ならそこそこイイ線いけると思うんだが。
「リオン様は予選会に出場されますよね!」
「ああ、そのつもりだ」
「リオン様なら絶対優勝できますよ!」
凄く期待してくれている二人には大変申し訳ないが、俺が優勝するのは絶対無理なんだよな。何故なら俺の一回戦の相手が――。
「さぁやって参りました、今大会の注目カード! 片方は大貴族エルファルド家が長男、リオン・エルファルド! その対戦相手は~、学園で話題沸騰中! 今やその名前を知らない者はいない! 魔術が使えないが魔術を消せる、カイト~~!」
――主人公カイトだからだ。




