22話 「幻の5.5階」
「リオンはん、カイトはんの情報を持ってきたで」
「ほう、どんな情報だ」
「何でもカイトはんとお友達三人がな、昨夜に歩く銅像に襲われたみたいやわ」
(もうそのイベントか)
ナナから渡される情報を聞いて、物語の現在地点を確認する。
歩く銅像というのは、「知恵の塔」にある禁止区域を守る門番のことだ。5階と6階の間には「幻の5.5階」が存在し、その禁止区域には重要物が保管されてある。
重要物の中には「魔法の杖」という、どんな魔術でも使える伝説の魔道具があった。皆のように魔術を使いたいカイトは、魔法の杖を手に入れようとするんだ。
禁止区域の「幻の5.5階」には幻惑魔術がかかっていて生徒達は見つけることさえ不可能だけど、魔術を消せるカイトなら辿り着くことができるからな。
なので闇の魔術師の一人が、「魔法の杖」とその在り処である「幻の5.5階」の存在をカイトに教えてたんだ。闇の魔術師もある目的のために「魔法の杖」を欲しているから、唯一辿り着けるカイトを利用しようと企んでいる。
が、禁止区域に辿り着いたところで入ろうしても強力な門番が立ち塞がっているから侵入することは難しい。カイトたちは禁止区域に入ろうとしたところで門番に襲われ、止む無く断念したのだろう。
「情報感謝する。カイトの様子を教えてくれ」
「あれ、特ダネと思ったのにあんまし興味なさそうやな。まぁええわ、カイトはんの様子やな。う~ん、戦闘魔術に授業に関しては参加しておるけど、一般魔術の授業に関しては苦労してるみたいやで」
「だろうな」
魔道具や魔術薬学は魔術を扱わないし、戦闘魔術の授業についてはカイトも対魔術戦闘として参加できる。
ただし、一般魔術に関して別だ。カイトは他の生徒達のように魔術を扱えない。同級生が次々と新しい魔術を覚えていく中、自分だけ指を咥えて見ているだけというのは彼にとって歯がゆいのだろう。
だからカイトは禁止区域にある「魔法の杖」を是が非でも欲しいんだ。
「感謝する。これは取っておけ」
そう言って、ポケットから金貨一枚を取り出しナナに投げ渡す。
「いらん言うてるのに」
「タダより怖いものはないからな。労働に対する対価を払っているだけだ」
「おおきに。リオンはんのそ~いうキッチリとしたところ、わては好きやで」
「お前の感情などどうでもいい」
「も~いけずやな~。さて、わてはそろそろ戻りまっか。また何か情報が手に入ったら来ますわ」
「ああ」
ナナのやつ、最初はどうなることか不安だったが予想以上に役に立つな。カイトの情報を知ることができるし、やっぱり協力者を作って正解だった。
(さて、情報も手に入ったことだし、物語を進めるためにもリオンの小イベントをやっちゃいますか)
俺は一度学生寮にある自室に戻り、ぐーたらしているゴーズとクラッドを連れて平民クラスに訪れる。
教室には教科書とにらめっこしているカイトに、友達のガイとディックが付き添っていた。俺は背後から忍び寄り、カイトの教科書を取り上げる。
「貴様には教科書いらないだろう」
「そ~だそ~だ!」
「魔術が使えない癖に勉強なんかしても意味ないだろう」
俺の挑発にゴーズとクラッドも乗ってくれる。いや~、俺もそうだけどこの二人もなんて憎たらしいんだろうか。本当悪役に向いてるよ。
「返せよリオン」
「様をつけろよ、平民。まだ身の程を弁えていないようだな」
「身の程を弁えてねーのはテメーの方だろ! カイトに負けた野郎が偉そうにしてんじゃねぇ!」
「そ、そうだよ! 早く返してくれ!」
ガイとディックがカイトを庇う。物語通り、なんて良い奴等なんだろうか。こんな奴等に悪いことをするのは胸が痛むよ。
「ちょっとリオン! アンタまたカイトにちょっかいかけてるの!?」
「ふん、まぁいいだろう。いくら読んだところで貴様に魔術を使うことができないのだからな。精々頑張れ」
ユイがカイトを探しに教室に入ってきた頃合いを見て、俺はカイトから奪った教科書をぞんざいに返す。
「ゴーズとクラッド、行くぞ」と二人で教室を出ようとすると、ユイがカイトに駆け寄り、
「あいつらまたカイトに何か言ったんでしょう。私がとっちめてきてやるわ」
「いいんだ、ユイ。あいつの言う通り、俺が教科書を読んでも魔術は使えないからさ」
「カイト……」
よし、これでミッションクリアだ。
ゴーズとクラッドのお蔭で良い感じにカイトを煽ることができた。俺に煽られるまで、失敗して諦めようとしていたからな。これで彼は、魔術を使えるようになりたいと願い再び「魔法の杖」を手に入れようと禁止区域に入るだろう。
まだ先ではあるが、着実に物語通りに進んでいる。
その調子で頑張ってくれよ、カイト。
◇◆◇
「今日は二クラス合同で森に入ります。いいですか皆さん、森の中は危ないので絶対に先生の言う通り行動してくださいね」
「規則を破るような愚か者には罰を与えてやるから覚悟しておけ」
「「はい」」
(もうこのイベントが始まるのか)
貴族、平民クラスの生徒達は、課外授業で学園の裏側にある森へとやってきていた。授業内容は森に入って魔物を観察したり森でしか採れない植物を確保するなど。
引率するのは二人の先生。
丸眼鏡をかけている穏やかな先生がニック。平民の彼は魔術薬を専門としている。
もう一人の目つきが鋭く、とてもおっかない先生がスレイン・ファフナー。
バチバチの純血派の貴族で、平民でありながら魔術を消せるカイトを目の敵にしている。戦闘魔術を専門にしており滅茶苦茶強い。
因みにこの学園には担任教師がいない。大学みたいにそれぞれ専門分野の先生に授業をしてもらうスタイルだ。
「それでは森に入ります。皆さんはぐれないようについて来てくださいね」
「リオン様……森の中って怖いですね」
「魔物が襲ってきたりしませんよね」
「心配するな。俺がいる」
「「リオン様、頼りになります!」」
森に入ってから脅えるゴーズとクラッドを落ち着かせる。森の中は不気味で二人が怖がるのも無理はない。殆どの生徒も彼等と同じような反応だしな。
森といっても生徒達が散策するのは極手前で、深く入ったりする訳ではない。
しかし脅えている二人には可哀想だけど、これから俺達は魔物に襲われてしまうんだよな。
「わ~綺麗な花」
「あれ、何の魔物かな?」
森は怖いが神秘的でもある。見たことない色や形をした花や草が生えているし、亀とカブトムシが合体したような不思議な魔物も沢山いる。
俺としてはファンタジーな世界勘を感じられて凄く楽しい。叶うならばずっとここに居たいくらいだ。
「それでは皆さん、ここに生えている薬草を採りましょう。後日授業で使うので必ず手に入れてくださいね。それと、遠くには行かず先生の目の届くところにいてください」
「「は~い!」」
ニックが指示すると、生徒達は別れて薬草を採りに行く。俺もゴーズとクラッドと三人で薬草を採取していると、どこからか「きゃー!」と悲鳴が聞こえてくる。
その悲鳴は一度だけではなく、あちこちで連鎖するように森の中に響き渡った。
「ゴ、ゴブリンだーーー!」




