18話 主人公カイト
「魔術学園の無能力者」の主人公カイト。
黒髪黒目、中肉中背、そこそこイケメンのどこにでもいる平凡な少年だ。しかし彼は特別な力を持っていて、困っている人に手を差し出すお人好しで、数々の困難を不屈の闘志で乗り越えていく英雄である。
そんな主人公カイトが、俺の目の前にいる。
(何だろう、よく分からないけど腹が立ってくるな)
カイトと会っただけで、腹の底が煮えたぎってくる。俺自身はカイトに思うところは一つもない。この怒りの感情は恐らく、この身体の持ち主であった本物のリオンのものだろう。
おいおいリオン……どんだけカイトのこと嫌ってるんだよ。
「貴様がカイトとかいう平民か」
「そうだけど、アンタは?」
「俺はリオン・エルファルド。貴族だ」
貴族だと名乗ると、カイトの顔に警戒心が浮かぶ。警戒して正解だよ、カイト。俺はお前の敵だからな。
「貴族が俺に何の用だよ」
「貴様、魔術が使えないそうだな」
「ああ、そうだよ。それが何だ」
俺が尋ねると、カイトは嘘偽りなく答えた。後ろめたさなど微塵もない、真っ直ぐな眼差しで。やっぱこいつかっけぇな。
「えっ!? あいつ魔術が使えないのか!?」
「新入生の中に魔術が使えない平民がいるって噂を聞いたけど、本当だったんだ……」
「あいつ、何者なんだ?」
カイトが魔術を使えないことを知って、教室にいた平民クラスの新入生たちが騒がしくなる。魔術学園に魔術が使えない平民が入学するなんて前代未聞だからな。彼等が気になるのは至極当然だろう。
「ちょっと待ちなさいよリオン」
「ユイか。悪いが邪魔しないでくれ」
ユイが横やりを入れてくるが手で制した。
カイトへの怒りとは別に、ユイが出てくるだけで喜びの感情が溢れ出てくる。相変わらず三割増しで可愛く見えるし、相棒の身体には困ったものだよ。
「はぁ!? アンタこそ何なのよ。カイトに手を出すんじゃないわよ」
「やけにそこの平民の肩を持っているようだが、二人はどんな関係なんだ?」
「私とカイトは幼馴染なのよ」
「お、幼馴染だと?(うん、知ってます)」
既に知っている情報だけど、知らないフリをして眉間に皺を寄せる。ユイが好きなリオンとしては彼女に仲の良い幼馴染がいるなんて知らなかったし、許せなかった。
俺としてはど~でもいいが、リオンを演じるには怒るフリをしないといけない。
「益々気に入らないな。貴様はこの学園に相応しくない。今すぐここから消えろ、平民」
「何でお前にそんな事言われなくちゃならないんだ」
「そうよ、カイトは正式な手続きに則って学園に入学したのよ。アンタにあーだこーだ言われる筋合いはないわ」
「筋合いならある。ここは由緒正しい魔術学園であり、俺達貴族が魔術を学ぶ場なんだ。そこに平民の、ましてや魔術も使えない者が混じっているなんて言語道断。貴様は貴族である俺達にとって邪魔者でしかない存在なんだよ」
「「……」」
はっきりそう告げると、教室にいたカイト以外の平民の生徒がそれぞれ反応を見せる。言い返せず俯いていたり、俺を睨めつけてきたりな。
酷いこと言ってごめん。でもこれは仕方がないことなんだ。
「なら、どうすれば俺を認めてくれるんだ」
その言葉を待ってたぜ、カイト。
「貴様に決闘を申し込む。俺と戦い、貴様が勝てば学園にいることを認めてやる。だが貴様が負けた場合、大人しく学園を去れ。二度と俺の前に現れるな」
「何てこと言い出すのよ!? アンタいい加減にし――」
「いいぜ、やってやる」
(それでこそカイトだ)
お前なら絶対に乗ってくると思っていたよ。逆境を跳ね返してこそ主人公だもんな。
「ちょ、カイトまで何言ってんのよ!? 魔術師の決闘は神聖なもので、後から無かったことにするなんてできないのよ!」
「いいんだ、ユイ。いつかはこうなると覚悟はしていた。リオンみたいな奴に俺を認めてもらうためには、戦わなくちゃならないってな」
「カイト……」
「俺が勝てば、俺のことを認めてくれるんだよな」
「笑えるな。魔術を使えない癖に俺に勝つつもりでいるのか?」
「ああ」
「ちっ」
自信満々なリオンに腹が立ち舌打ちをする。という演技をする。
俺とリオンが睨み合い、一触即発の雰囲気が漂う中、パンと手を叩く音が鳴り響いた。
「おい新入生共、入学早々揉め事を起こしてるんじゃねえよ」
「誰だ貴様」
「今年の一年生は口答えがなってね~な。俺はリヒト。三年生で、お前達の先輩で、これからお前達を連れて学園を案内しなきゃなんね~んだよ」
うん、知ってる。この頼りがいがありそうな先輩は物語でもそこそこ登場し、同じ平民という立場からカイトが困っている時に味方するお助けキャラだ。平民なのに魔術師としてもめっちゃ強い。
「そんでお前等は何を揉めてんだ」
「それが――」
ユイがこれまでの経緯をリヒトに説明すると、彼は面倒臭そうに大きなため息を吐いて、
「入学初日に決闘とか今年の一年はマジでやべ~な」
「お願いします先輩、二人の決闘を止めてください!」
「う~ん、無理だな」
「ど、どうしてですか!?」
「魔術師の決闘は一度決まっちまったら取り消すことはできない。例え吹っ掛けられとしてもな。それだけ神聖なもんなんだよ、決闘ってのはな。他の奴等も、迂闊に決闘なんかすんじゃねーぞ!」
「そんな……」
決闘を取り消せないことが分かって落ち込むユイ。カイトはそんな彼女の肩に手を置き、安心させるように勝ち気な笑顔を浮かべながら宣言する。
「大丈夫だユイ。俺はあんな奴に絶対負けないから」
「もう……勝たないと許さないんだからね!」
「おう!」
「話はついたな。学園の案内の予定だったが、しょうがねぇ。今から貴族クラスの新入生も連れて、全員で決闘場に行くぞ」
上級生の先輩に促され、カイトを含めた平民クラスの新入生たちがぞろぞろと教室を出て行く。
俺も出て行こうとしたら、まだ残っていたユイに恐い顔で睨み付けられながら怒られた。
「アンタのこと、変わったって見直したのに……見損なったわリオン、アンタ最低よ」
「……(辛い)」
分かってはいたことだけど、誰かにはっきりと嫌われるのってしんどいな。しかもその相手がリオンが大好きなユイだってんだから、尚更心にクる。
はぁ……俺はこれからもユイに嫌われるようなことをするけど、その度にこんなキツい思いをしなくちゃならないのか。
悪役貴族も大変なんだな、リオン。お前よく素でこんなことできたな……嫌味ではあるけど尊敬するよ。
「ふぅ……」
今後の行く末を憂いながら、小さなため息を吐きつつトボトボと決闘場に向かう。
(リオン様……どうして……)
そんな俺の後ろ姿を、レイラが困惑して表情で見ているなんて知る由もなかった。




