17話 入学
「新入生の諸君、入学おめでとう」
王立魔術学園。
敷地面積はおよそ東京ドーム十個分。広大な敷地の中心に聳え立つのは「知恵の塔」である。ここは教室や講堂、図書室や実験室といった学業に専念する校舎だ。大きな食堂も備わっているし、一日の半分はここで過ごすことになるだろう。
「隣に座っている者しかり、ここにいる全てが君の友人になり、ライバルとなろう」
「知恵の塔」の周りには幾つもの施設が存在している。
まずは学生寮。一年生、二年生、三年生。各学年毎に学生寮があり、進級毎に移動などはせず三年間同じ場所で暮らようになっている。
学生寮は男女共同ではあるが、男女の部屋は左右別れているため基本的に会うことはない。男子が女子の部屋に入ることは禁止されているし、話す機会があるとしたら談話室になるだろう。
「ここには君たちが学べる物が全て備わっておる。それを生かすも殺すも、全ては君たち次第じゃ」
学生寮の他には、運動場、魔術訓練場、決闘場、魔道具や魔術薬を作るための研究室、魔術や魔術薬に使うための素材を作るための菜園や湖など、ありとあらゆる設備が完備されている。魔術師になりたい者にとって理想的な場所だ。
「それと、学園の裏側にある森には許可なく入ってはならんぞ。勝手に入っても命の保証はできんからの」
学園の裏側には広大な森がある。森には魔法生物――通称魔物が生きているので、生徒は立ち入り禁止だ。魔物の中には自然の物もいるが、学園が飼っているものもある。後者は主に授業用だ。
魔物が学園に侵入してこないように結界を張っているので安全ではあるが、こちら側から入った場合は魔物に襲われてしまう。禁則を無視して無断で森の中に入り怪我を負う生徒は後を絶たない。
「ふむ、こんな所じゃの。余り年寄りの長話を聞いても退屈で疲れるじゃろうし、後は先生達に任せて挨拶は終わろうかの」
今は新入生の入学式を行っている。
広い講堂の壇上に立ち、約六十名の新入生の視線を集めている老人はこの学園の校長を務めているダニエル・ゴッドヴァルト。【最高】の魔術師と謳われている。
見た目は柔和な顔立ちに優しそうな声色と優しそうなお爺ちゃんではあるが、隠せないほどの貫禄が滲み出ていた。
「それでは新入生諸君、三年間しっかり学び、立派な魔術師となるべく精進せよ」
(ああ、しっかり学んでやるよ。死なないためにな)
俺はリオン・エルファルド。
一年前、大好きなライトノベル「魔術学園の無能力者」の世界に転生したのだが、転生した先がなんと死亡確定の悪役貴族リオン・エルファルドだった。
醜い怪物になって死んでしまう運命に抗おうと、物語が始まるまでの一年間必死に己を鍛えつつ、“未来の悪行”を贖罪すべく相棒である本物のリオンと共に未来を変えてきた。
そしてついに、「魔術学園の無能力者」の物語を迎える。本番はここからだ。
準備は万全。やれることはやってきた。
原作の知識を生かし、なんとしても生き抜いてやる。例えそれで、愛する人に嫌われるとしても。
◇◆◇
「リオン様、ここはガツンと一発カマしてやりましょう!」
「リーダーに相応しいのは誰かってことをここにいる奴等に知らしめるんです!」
「はぁ……やめろ馬鹿ども(やるわけないじゃないか! アホなの!?)」
リオンの友人かつ取り巻きでもある弱小貴族のゴーズとクラッドが俺に無茶ぶりをしてくる。
本物のリオンだったら二人に唆されて「ふっ、お前達の言う通りだな」とか言って馬鹿な真似をしたと思うが、俺はそんなの絶対にやらないからね。
入学式を終え、新入生は各教室に移動した。
教室は二つあり、貴族クラスと弱小貴族+平民クラスにそれぞれ三十名ずつで別れている。別れている理由としては、前者と後者では身分も力の差も離れていて相容れないからだ。
この世界で魔術が扱えるのは全体でも二十パーセントほどで、その殆どが貴族の血筋に限られてくる。貴族の中でも大貴族の血は魔術の才能があり、弱小貴族の血は平凡な才能。
平民に関しては魔術が使えないのが当たり前。しかし稀に魔術が使える平民もいるので、弱小貴族のクラスに数人ねじり込んでいるんだ。
勿論大貴族エルファルド家の子である俺は貴族クラスに配属されている。ゴーズとクラッドも本来弱小貴族のクラスだったが、リオンの取り巻きということで特別措置をしてもらっているらしい。
でも今の二人は俺が魔術を教えているから、実力的には貴族クラスでも申し分ないはずだ。
そして今年の貴族クラスには俺以外にも大貴族の新入生がいた。
「やぁリオン、元気そうだね」
「うむ、筋肉に磨きがかかっているようで何よりだ」
「お前達もな」
ゴーズとクラッドと話していたら、銀髪のイケメンとどう見ても十四歳には見えないマッチョが声を掛けてきた。
イケメンの方がクライン・クラディウス。マッチョの方がバッカス・ディスチーノ。二人共俺と同じく大貴族の子供だ。
気軽な挨拶を交わすと、クラインが教室を見渡しながら口を開く。
「ここにいる殆どはあの時のパーティーで顔見知りそうになった子だね」
「そうだな」
二人とは以前、貴族の子供だけのパーティーで顔を合わせている。平民による襲撃を撃退したことで一目置かれており、それなりに良い関係を築けていた。
「だが、居ない者もいるな」
「ああ」
バッカスの言葉に短く答える。
貴族の子供のパーティーに参加した者の中で、この教室に居ない有名人が二人いる。
第一ヒロインのユイ・アストレアと。
第二ヒロインのレイラ・ベルンツベルンだ。
二人は俺達と同じく大貴族であるが、両家とも平民を慮る優しい貴族なため、自ら率先して平民クラスに志願したんだ。
俺としてはレイラと同じクラスが良かったんだけど……。
「平民のクラスにいきたがるなんて考えられないよ。全く、あの二人は貴族としての自覚がないんじゃないのかい? あーそうだリオン、平民の話で思い出したんだけど、君は噂を知っているかい」
「どんな噂だ」
「何でも、“魔術を使えない平民”が平民クラスに入学したそうだよ」
「そうなのか。知らなかった」
嘘です。知ってます。
そんで俺は今からそいつに会いに行って事を起こします。
「噂が本当ならあり得ないよね。魔術を使えない者が魔術学園に入学するなんて前代未聞だ」
「クラインの言う通りだ。そんな事はあってはならない」
そう言うと、俺は静かに席を立ち上がり歩き出す。
「どこへ行く。上級生が来るまで教室で待てと指示を受けているだろう」
「止めるなバッカス。今からその平民に会ってくる」
「何だって!? おいリオン、何を考えているんだ!」
止めようとしてくる二人を振り切り、平民クラスの教室の扉を叩きつけるように開く。すると教室の中にいた子供たちが、何事だ? と言わんばかりの戸惑った顔で一斉に見てきた。
「リ、リオン?」
「リオン様?」
大勢に注目される中、俺はある一人の生徒に歩み寄る。
「貴様、魔術が使えないそうだな」
「ああ、そうだよ。それが何だ」
俺の問いに答えた生徒に、続けてこう言い放った。
「貴様はこの学園に相応しくない。今すぐここから消えろ、平民」
さぁ、リオン・エルファルドの最初のイベントを始めよう。




