14話 ユイ・アストレア
「うお~すっげ~!」
「リオン様、美味そうな食べ物沢山ありますよ!」
「そうだな」
ゴーズよ、お前はこんなところに来てまで食い意地を張るのか。
(それにしても盛大なパーティーだなぁ)
来年度入学する魔術学園からパーティーの招待を受けた。
このパーティーの目的は、来年入学する“貴族の新入生たち”を入学前から顔を合わせ、親睦を深めようというものだ。
なのでこの場には平民の生徒が一人も居ない。貴族の力を一致団結させようという趣旨のパーティーに平民の生徒を入れる訳にはいかないからな。
因みに全員という訳ではない。貴族でもゴーズやクラッドのような弱小貴族の子供は呼ばれていなかった。
二人に関しては俺がエルファルド家の力を使って招待させた。今までずっと放置していたお詫びというのもあるけれど、二人にとっても人脈を広げる良い機会だと思う。
(ここにいる子供たちが俺の同期になるって訳か)
煌びやかに彩られ、広々とした会場を見渡す。
タキシードやドレスを身に纏った貴族の子供たちが食事したり、会話に興じていた。
「ねぇ、あの方ってエルファルド家のろくでなしかしら?」
「何でも逆らう奴は皆殺しだとか……」
「恐いなぁ……余り関りたくない相手だよ」
「でも顔だけは良いわよね」
会場に入った俺に、子供たちの不躾な視線が集まる。じろじろと無遠慮に見てくる彼等は、ひそひそと聞こえない程度の声で話していた。きっと俺の悪口を言っているんだろうな。
俺が転生する前のリオンは、貴族の界隈で“エルファルド家のろくでなし”と呼ばれている。妹のサラが「リオンは心を入れ替えて真面目になった」という良い噂を一生懸命広めてくれたそうだけど、素直には信じられないだろう。
今までのリオンの振る舞いを知っていれば信じないのも無理はない。俺に目をつけられたら一巻の終わりと言わんばかりに、子供たちは俺のことを避けている。
「以後お見知りおきを、リオン・エルファルド様」
「ああ、よろしく」
そんな中でも、俺に声をかけてくる子供はちらほらといる。それは俺がエルファルドという大貴族だからだ。人脈を広げたい者にとっては俺を無視することができない。まぁそれでも深く突っ込んでこず、挨拶程度で終わるけど。
(俺よりも違うところに行くよな)
この会場の中には、俺以外にも大貴族の子供がそこそこいる。その一人があそこにいる――、
「きゃ~~!」
「クライン様~! 素敵です~!」
「こっち向いて~!」
「ははは! 参ったな子猫ちゃんたち。僕の身体は一つしかないんだ」
クライン・クラディウス。
銀髪に、自他認めるイケメンのキザなお調子者。光属性の魔術を得意とするクラディウス家の長男だ。
女子に囲まれキャーキャー言い寄られている彼は、「魔術学園の無能力者」にも登場している。
「バッカス様、今日も良い筋肉ですね!」
「キレてますよ!」
「どうしたらバッカス様のような筋肉をつけられますか!?」
「うむ。日々筋肉と対話し、真摯に向き合うことだ」
「かっこいい! 痺れます!」
華やかな女子に囲まれているクラインと比べ、むさくるしい男子に囲まれているのはバッカス・ディスチーノ。土属性魔術を得意とするディスチーノ家の次男。
はち切れんばかりの筋肉を身につけた身体つきに、糸目でしぶいおっさん顔。とても十四歳とは思えないほどのナイスガイだ。
筋肉馬鹿のバッカスはカイトと余り関わりがないが、学園の窮地の際に間接的にカイトを手助けしたりしている。見ての通り男子から憧れており、平民にも分け隔てなく接しているから生徒たちの信頼が厚い。
「レイラ様、相変わらずお美しいですわ」
「賊に襲撃されたとお聞きしましたけど、大丈夫でしたか?」
「レイラ様、僕とお話していただけないでしょうか」
リオンの婚約者でもあるレイラ・ベルンツベルン。身に纏っている青色のドレスは彼女の白色の髪によく似合い、輝くほど綺麗だった。
多くの子供たちがレイラに群がっているが、特に男子が多かった。
おいお前ら、俺のレイラたんに何ナンパしてんだ。婚約者が目の前にいるってわかってやっているなら身体が痺れるぐらいの電気を浴びせてやってもいいんだぞ。
(本当に、助けられて良かった……)
多くの子供たちに囲まれている彼女を遠くから眺め、俺は心から喜んだ。
もし俺がベルンツベルン家を襲撃した闇の魔術師――魔族のヴァーリ――からレイラを守っていなければ、彼女の顔には大きな傷跡が残っていた。
父を失い、顔に傷を負っていたらあんな笑顔を浮かべることはできなかっただろう。今頃、悲しみに暮れ暗い部屋の中に閉じこもっていたと思う。
そうならずにレイラが笑顔を浮かべていられるのなら、命を懸けた甲斐があったってもんさ。
「へぇ、アンタも来てたんだ」
「っ!?」
そんな風にレイラのことを見つめていた時だった。不意に声をかけられ振り返ると、まさかの人物に目を見開いた。
「ユイ・アストレア……」
「久しぶりね、リオン・エルファルド」
ユイ・アストレア。
火属性の魔術を得意とする大貴族アストレア家の長女にして、「魔術学園の無能力者」における第一ヒロイン。そして主人公カイトの幼馴染にして、リオン・エルファルドが恋心を抱いている女の子だ。
燃えるような真っ赤な長髪に、大きくて勝ち気な目。誰もが見惚れてしまうような可愛くて綺麗な顔立ちと、大きな胸を携えつつも引き締まった身体。
ユイとレイラなら俺は断然レイラ派だけど、なるほど確かにユイはリオンが惚れ込んでしまうほどの美貌だった。
(なんだこれ……身体が熱い!)
ユイを前にした途端、身体に異変が起きる。
具体的には、カーッと全身が燃えるように熱くなり、バクバクと心臓が早鐘を打つ。それに加えユイのことが三割増しに可愛く見えてしまい、好きっていう感情が溢れ出てくるんだ。
(おいリオン……どんだけユイのこと好きなんだよ!)
恐らくこの異変はリオンの身体によるものだろう。好意を抱いているユイに会えたことで初恋をした男子みたいな反応が出ているんだ。
「ここ最近は静かだったし、学校にも来ないで何か企んでいるわけ?」
「……」
彼女が訝しむのも当然だろう。
リオンの記憶を掘り起こすと、リオンは貴族学校でユイに付きまとっていた。レイラという婚約者がいる癖に、彼女に手紙まで送っていたしな。学校では全く相手にされていなかったし、手紙の返事も一回だって返ってきていないのは少し同情してしまう。
リオンに転生した俺は死亡フラグを回避するために強くならなければいけなかったので、学校に通っている暇なんてなかった。
まぁろくでなしのリオンは殆ど学校をサボりがちだったけど、ユイからしたらあれだけ付きまとっていたリオンが急に音沙汰がなくれば疑問にも思うだろう。
「アンタが心を入れ替えたって噂を耳にしたけど、アタシは信じてないから」
「ああ。信じなくていい」
「えっ?」
本物のリオンには申し訳ないけど、これからする事を考えればユイには嫌われていた方が都合が良い。どうせ後で嫌われるんだから、変に良い人だと思われても困惑させてしまうだけだ。
(ごめんな、リオン)
心の中で相棒に謝る。
お前の恋を実らせてやりたいけど、物語に沿うにはユイと結ばれるわけにはいかないんだ。
「アンタ……やっぱり少し変わった?」
(なんか怪しまれてる?)
ユイが胡乱気な眼差しで見つめてくる。
しまった……対応が塩過ぎたか。「ユイ!」って自分から声をかけるのがリオンの反応なのに、「ああ、ユイか」みたいな冷めた反応だったら彼女が怪しむのも分かる気がする。
「そ、そんな事はないぞ! ずっと君に会いたいと思ってい――」
今からでも愛情表現を振りまこうかと思ったその時、突如けたたましい爆発音が鳴り響く。
「きゃ~~~!!」
「な、何だ今の!? 爆発!?」
地面が揺れるほどの爆発に子供たちがパニックに陥る中、会場に侵入者が現れた。人数は十人ほど。全員が黒い服を身に纏った怪しい連中だ。
いかにもな侵入者の代表が近づいてくると、奴は俺達にこう告げた。
「この会場は包囲した。貴族の子供たち、お前たちには我々の人質になってもらう」
こんなイベント知らないんですけど~~~~!!!




