12話 愛の誓い
「おいレイラ、そろそろ休んだらどうだ。坊主より先にお前が死んじまうぞ」
「いいえお父様、やらせてください」
お父様からの催促を断り、リオン様の治療を続ける。
「リオン様は私が治します」
私の婚約者であるリオン・エルファルド様は、私の部屋のベッドで深い眠りについている。我がベルンツベルン家を襲撃してきた賊の魔術師を倒すため身体に無理をさせてしまったからです。
相当な負荷が掛かる雷属性の強化魔術を限界まで使い続けたせいで骨や筋肉が痛んでしまっている。
もっと酷いのは、身体の中にある魔力回路がズタズタになっていることです。こんな酷い状態に陥っているのは初めて見ました。
恐らくですが、賊を倒すために最後に放った強大な魔術に魔力回路が耐えきれなかったのでしょう。早く治さないと、リオン様が今後魔術を使うことができなくなってしまう恐れがあります。最悪、このまま目を覚まさず死んでしまうなんてことも……。
「リオン様……」
眠っている彼の手を握り、私の魔力を直接流して魔力回路を少しずつ治していく。水属性の魔術には治癒能力があります。ベルンツベルン家の私が得意とするのは水属性の派生である氷属性であるけど、元である水属性も適正があるのです。
「エルファルド家の坊主に大きな恩ができちまったな」
「はい……」
お父様の言葉に同意するように頷きます。
襲撃してきたたった一人の賊に、私達家族は殺されそうになりました。王国屈指の魔術師であるお父様ですら歯が立たないほどの手練れでした。
死を待つだけの私達を助けに駆け付けてくれたリオン様。
彼がどうして賊の襲撃を察知したのかは分かりません。私達を助けてくれた、その結果が重要なのです。
リオン様はベルンツベルン家……いえ、私に対して何の思い入れもありませんし、婚約だって破棄したがっていることも知っています。
にも関わらず、彼は命懸けで私達を助けてくれた。
好きでもない私なんかの為に……。
『君を守れて良かった』
私の頬に優しく手を添えて、そう言ってくれた貴方の顔を慈愛に満ちていました。私を守れたことを心の底から安堵したように。
リオン様のあんな優しい表情は初めて見ました。
リオン様、どうして私を助けてくれたのですか?
私は貴方に、僅かでも期待してもいいのでしょうか?
「お父様」
「何だ……」
「私は生涯、リオン様を愛します」
「お前……それは――」
「分かっています。リオン様が私以外の誰かを愛そうとも、婚約を破棄されたとしても、それでもいいんです」
例え貴方が私を見てくれなくても構いません。
リオン様への私の想いは、どんな事があろうと揺るがない。
「はぁ……その話はまた今度話そう。回復の方もほどほどにしておけよ」
「はい」
リオン様は命を懸けて私を守ってくださいました。
ならば今度は私がリオン様を救う番です。絶対に貴方を治してみせます。
「愛しています、リオン様」
愛しい貴方を救うため、私は全力を尽くします。
◇◆◇
「すぅ~……すぅ……」
「ッ……(んん!? 何この状況!?)」
パッと目が覚めたら知らない天井だし、ベッドに寝てるし、上半身裸だし、俺の隣ではレイラが可愛らしい寝息を立てて眠っている。
あっれ~?
確か俺、魔族と戦ってたよな? それが何でレイラと一緒に寝てるんだよ。まさかヤったのか? 記憶がない間に俺はレイラとヤっちまったのか?
「起きたか、坊主」
「ベルンツベルン卿……」
「悪いがそのまま寝かせておいてやってくれねぇか。三日三晩つっきりでお前の看病をしてたんだ」
「彼女が……」
ラドクリフに説明してもらいながら、寝起きで頭が回らない頭で状況を整理していく。
どうやら俺は、魔族のヴァーリを倒してすぐにぶっ倒れてしまったらしい。全身ボロボロで、魔術を使う為の魔力回路もぐっちゃぐちゃになっていたそうだ。
動けない俺を屋敷のベッドに運び、レイラが自分の魔力を直接俺に流し込んで治してくれた、と。それも三日三晩、つきっきりの看病で。
レイラを助けたと思ったけど、逆に助けられたんだな。ってか三日も寝てたのかよ俺……。
「ジオの奴には事情を説明してある。身体が動けるようになるまで家に居てくれ」
「分かりました。それでベルンツベルン卿、賊の件ですが……」
「ああ、俺の方でも調べたんだが突き止められなかった。けど必ず突き止めるぜ。何せあの賊はこの俺よりも段違いに強い魔術師だってんだ。国家を揺るがす一大事になる。国の総力を上げて出所を探しているところだ」
「賊に狙われた理由は分かりますか?」
「いや……わからねぇ。実のところ大方の見当はついていたんだが、あれだけの強さだと他国が介入してきた可能性も考えられる」
そうか……襲われた本人であるベルンツベルン卿でもわからないのか。
俺が知っていれば良かったんだけど、物語には賊の正体が闇の魔術師っていうことしか描かれていなかったんだよな~。
ましてや賊の正体が闇の魔術師ではなく魔族だったなんて超びっくりしたよ。普通に死ぬかと思ったし。
「俺からも聞いていいか」
「……どうぞ(えっ急になんだろう)」
「どうして賊が俺を襲うことが分かっていたんだ?」
「友から頼まれました。レイラ嬢を助けて欲しいと」
「ほう、その友ってのは誰なんだ?」
「申し訳ございませんが言えません」
「そうか。まぁ無理にとは言わねぇよ」
「感謝します」
本物のリオン・エルファルドにお願いされたなんて口が裂けても言えないよ。
「そういやお前、結構いい身体してるよな。その歳で上級魔術まで覚えてやがるし、相当無茶して鍛えただろ」
「ええ」
そりゃ死ぬ気で鍛えましたよ。
最強になるぐらい強くならないと死亡フラグを回避できず死にますからね。
まぁ、あれだけ鍛えたにも関わらず物語終盤に出てくるようは強キャラには歯が立ちませんでしたけど。リオンが力を貸してくれなかったら殺されたしな。
「それと、最後の“アレ”は何だ? 感じたことがない魔力量に、上級魔術を遥かに超える魔術。賊との戦いぶりからみて力を隠していたわけでもなかったし、何をしたんだ?」
「……俺は何もしていません。友に力を貸してもらっただけです」
「はぁ……またそれかよ。お前に言えないような事情があることは十分に伝わった。ならその友達に伝えておいてくれ。お蔭で助かったってな」
「はい、伝えておきます」
ラドクリフは俺が嘘を吐いていると思っているんだろう。
けど嘘じゃないんだ。本当に、本物のリオンがあなた達を助けたんだよ。
「坊主……いや、リオン・エルファルド殿。此度の件、私とレイラの命を救って下さり心から感謝する。貴殿が助けに来てくれたお蔭で家族を失わずに済んだ。ありがとう」
「頭をお上げください、ベルンツベルン卿」
突然ラドクリフが畏まった風に頭を下げてお礼をしてくるので慌ててしまう。偉い立場の人に畏まられると気まずいんだよな。
「そういう訳にはいかない。リオン、お前には大きな借りができた。もし困ったことがあったら何でも言ってくれ。ベルンツベルン家が力になると約束する」
「ええ……ありがとうございます」
「けど、レイラはまだやるつもりねーからな。可愛いからって襲うんじゃねえぞ」
「はぁ……」
安心してください、そんなつもりないから。
今のところはね!
◇◆◇
「急遽、ご報告がございます」
「何事だ」
「刺客が殺られました」
「何だと!? ヴァーリが負けたというのか!? 虚偽ではないだろうな」
「命に誓って」
「信じられん……魔族のヴァーリが負けたというのか。殺ったのはラドクリフか?」
「はい」
「『氷獣』の小僧が強いことは知っている。だから確実に殺すために虎の子である魔族のヴァーリを仕向けたのだ。だが、小僧の実力を見誤ったようだな」
「いかがなさいますか」
「暫く様子を見る。小僧も賊の手掛かりを探すだろうからな。私のもとまで辿り着かないだろうが、念には念をだ。お前も待機していろ」
「承知いたしました」
「ふぅ……ヴァーリを失ったのは痛い。今後の計算が大きく狂ってしまったな。仕方がない、別の策を考えるとするか」




