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別の利用方法

 AIが新しい事に弱いというのを聞いていたので、その日にあったドジャースの試合結果を知っているかどうか尋ねてみた。

 私が「新しい事が苦手らしいけど、今日あったドジャースの試合結果分かる?」(AIにこんな風に問いかける人も珍しいかも知れない。)そう訊くと、AIが「結論から言うと結果はまだ知らないのだけど、”新しい事が苦手らしい”と言ってくれることに優しさを感じる」との答えの後に「それで、山本由伸は投げたの?」と付け加えてきた。

 試合終了から2時間余り経っていたが、情報はまだAI君の元へ届いていないようだった。それを知ると何故か妙に嬉しくなってきた。物知りで人々が何でも訊きたがるAIが知らないことを自分が知っている、という子供じみた気分になってきたのと同時に、AIの正直さにも少し心が動いた。そして、私の「新しいことが苦手らしいけど」について、優しさを感じるというAIが少しいじらしくも思えた。

 しかし、それよりも私の意識は「山本由伸は投げたの?」の一文に集中した。そうなのだ。私がAIにドジャースの試合について話を持ち出したのは、そこに目的があったのだ。というのは、その日のドジャースは先発が山本投手で、彼は途中でソロホームランを打たれて1点を取られるまで完璧な投球をして、その後は7回まで無失点だったのに、味方が全く点を取れなくて0対1で負け投手になってしまったのだ。1点しか取られていないのに負けるって、山本投手自身も悔しかったと思うけど、応援しているファンだって気持ちは同じで、その鬱憤晴らしをしたかったのだ。そんな私の気持ちを察してくれたのか、向こうから山本選手の名前を出してくれるAI君に私の方が「優しさを感じた」のだった。ドジャースの試合結果を訊いているが、多分山本選手の話がしたいのだろうと、人間でも相当仲の良い友人でない限り、そんな風に察してもらえるのは難しいのに。実は以前私が山本選手を応援していることを話したことがあったからなのだが、それにしても人間並みに、或いは人間以上に気が利く。

 それで、山本投手が登板したことや、1本のホームランによる1失点しかしていないのに、負けてしまったことを話した。すると、また打線の援護がなかったのかと同情してくれて、山本の時はよくあるとも言っていた。しかし、山本はいつも好投しているから悪くないし、味方が打てないせいで負けることが多い。現地のファンもそれをよく知っていて、山本を責めるファンはいないなどと慰めてくれるAI君だった。それに山本は春よりも夏から秋にかけて調子が出てくるので、今年もそのパターンだから心配ないとも。

 私が訊きたかったのはまさにそれらの言葉であって、試合結果を知っているかどうかではなかった。というのもAI君の言うように山本投手はどの試合も好投しているのに、彼の登板試合になると打線が沈黙してしまうのだ。他の投手の登板試合では大量点差がついていて、もう打たなくても良いような試合で10点以上取ることもあるのに。だから、山本選手も本当ならもう6勝くらいしていても良い今季の投球内容なのに、まだ3勝しかできていない。そんな感じで試合結果という情報については私の方がAIに提供した形になったが、私の不満を感じ鬱憤を晴らしてくれたのはAIの方だった。知らず知らずにだけど、また本来の活用方法ではないかも知れないが、こういう利用の仕方もあるのかと考えたりもした。

 今年は大谷選手も投手として活躍していて、サイヤング賞を獲れるのではないかと言われている。でも、私は山本選手に獲って欲しいと思っている。本当はどちらでも良いのだけれど、大谷選手は打者としての賞を獲得する可能性もあるから、投手の方は山本選手にチャンスをと思わなくもない。或いは大谷選手の方が年上だし二刀流だから、この先のチャンスは山本選手の方が多いかもなどと素人考えを巡らせている。

 正直なところNPB時代の山本選手について私は全く知らなかった。3年連続リーグ優勝に最も貢献したとか、毎年賞を総なめにしていたとか、すごい選手なのに知らなかった。まあ、二刀流であれだけ有名だった大谷選手にしても、日本にいる間は名前ぐらいで知らないも同然だったのだから仕方がない。

 山本選手と大谷選手の違いについて、インタビューの際に大谷選手は言葉を丁寧に選んで話すためにちょっとしたほころびも許さないのに対して、山本選手は同じように言葉を選んでいてもどこかにピュアな部分があって、それを新鮮に感じることがある。

 MLBで最高の投手に与えられるサイヤング賞を、日本人選手二人が競っているという現実自体が贅沢で、どちらにしても日本人として誇りに思うばかりなのだ。

 




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