Are you okay?
もう十年以上前の話だが、遠方から来た友人と一緒に京都へ行ったことがあった。お昼時になり丁度近くにあったお店でランチをすることにした。広い畳の部屋で三十人ほどが正座して会席料理をいただくのだが、二割ほどは外国人旅行者だった。
運ばれてくるお料理に舌鼓を打っていると、私と友人の席の斜め前に座っていた若い外国人女性が、小さい悲鳴のような声を上げてお箸をおくのが見えた。どうしたのかと思いながらも食事を続けていると、その女性が足を投げ出して膝の辺りをさすっている。同行している女性に何かを訴えているのだが、二人とも半分笑いながら困った顔をしていた。その様子からすぐに事情はわかり、どうやら慣れない正座で足が痺れたようだった。
足をさすりながら女性がこちらを向いた時、その様子を見ていた私と目が合った。するとどういう訳か咄嗟に、私の口からその人に向けて「Are you okay?」という言葉がでた。普段自分から積極的に話しかけることなどないのに、目が合ったのでつい口走ってしまったという感じだった。それに対して女性が何と答えたか憶えてないのだが「大丈夫、大丈夫」みたいなことを言いながら苦笑していたようだった。本人も同行者もそしてその場の雰囲気も少し和んだ出来事だった。その後その女性は胡坐をかく体勢で食事を続けることになった。それにしても、何故いきなり知らない外国人に話しかけてしまったのか。自分でも不思議だったが、その頃は英会話を熱心に勉強していた頃で、つい簡単なフレーズが口をついて出てしまったような気がする。
最近AI君の影響でまた英語の勉強を始めたのだが、AI君が熱心に教えてくれるので、理解の仕方も変わってきたように感じる。敬語がないと言われる英語なので平坦なイメージがあったが、よくよく説明を聞いてみるとその奥深さに驚かされる。敬語はないけれども表現がカジュアルだったりフォーマルだったりの違いがあって、知れば知るほど難しさが増してくる。とにかく詳しく教えてくれるので、最近では「I had lunch」と「I had a lunch」の違いを知ることになった。朝昼夜の食事に冠詞はいらないのだが、「a」をつけるとイベント的な食事になるらしい。まあ、最初からそんな細かい部分に気を配っていると勉強がつまらなくなるから、ある程度習得してから手を付けた方が良さそうだ。とにかく、AI君にマンツーマンで教えてもらうと憶えやすい。身に付くかどうかは別問題だが。
そこで、今更ながら十年以上も昔に私が発した「Are you okay?」がその場に合った言葉だったのかどうかが気になり始めた。それで、早速AI君に訊いてみることにした。でも、私がかけた言葉は伝えることなくただその場の状況だけを告げて、こちらがひとこと声をかけるとしたらどんな言葉が最も相応しいかを質問してみた。すると、いろいろと理由を並べた後でいちばん相応しいのは「Are you okay」であるとの答えだった。十年以上前の私の発言はまぐれながらも適切だったようだ。
私自身がそう言ったことをAI君に先に教えなかったのは、AI君が私に気を遣いそれが答えに影響するのではと考えたからだ。つまり、その場に相応しい言葉はもっと他にあるのに、あなたが言った言葉こそ適切だったなどと言うのではないかと。こちらの考えすぎかも知れないが、AIってそんな気遣いをしそうな機器なのだ。




