第九十話 アユのアバター
夜の静寂を切り裂く激しい雷鳴と炎の喧騒から少し離れた場所で一人静かに牙を研ぎ澄ます影がありましたが、その一方で重なり合う二人の時間はいつしか当たり前の日常へと姿を変え、語り合う言葉やふとした指先の動きが凍りついていた過去を少しずつ溶かしていきます。
仮想と現実、それぞれの場所で運命の糸が「ある場所」へと手繰り寄せられようとしている、そんな予感に満ちた夜が更けていきます。
キキャー!
「よ、よし、慣れてきたぜ!あと数日だ、あと数日で、リナが現れるぞ。
それまで少しでもレベルを上げて、ゴブリンキングを倒してやる!
それにしても……最近夜になると、あの向こうの森、雷が舞ったり、炎が上がったり、ヤバそうなのがいやがるな。
ゴブリンキングの仕業か?
まあいい、ゲーマーの変態どもかもしれねえからな。俺は地道に目標まで辿り着くぜ。」
◆
「ファイヤ!」
ズオーー!
モンスターはチリとなる。
花とアユはハイタッチする。
アユは無言のまま、花の首に手をかける。
「………」
「さあ、行きましょう?」
ヒョイ。
花はアユをお姫様抱っこして、飛んだ。
この十日で、もうルーティンとして定着していた。
境遇が似ていたこと、ハプニング、プライベートな話。
距離はすぐ近くなった。
だが、あくまで互いに仲間には誘わないし、求めもしなかった。
そう。花は基本的に自分から勧誘しない。
人のプライベートや自由を尊重しているからだ。
そして、それはアユも同じだった。
アユの場合は、人と特別な関係になりすぎることへの恐怖がまだ残っていた。
花は、ある程度の距離感を保つ。そして人生を割り切っている点で、安心できる存在だった。
アユは、閉ざしていた人との繋がりを、花と過ごすことで少しずつ取り戻しつつあった。
いつもの場所に到着した。
「なんか、今日は雰囲気が違うな。髪を後ろに結んでいるからか?………あ!」
「あ!気がついた?この耳。」
「種族、変えてたのか?」
「イエス、見た目は面倒だからそのままだけど、種族はエルフにしたの。魔法使いっぽいでしょう?」
「どうせなら、そんなセクシーな格好じゃなく、丸いメガネもかけて、黒いローブでも纏ったらどうだ?」
「それ、あの映画のやつじゃん!わたしは、セクシーな方がいいのよ。昔、プレステ2になって、そのシリーズで最初に出た超有名ロープレの魔法使い!」
「ふ。俺はその情報だけでわかるぜ。
そのシリーズは、もはやファミコンの時代から続いてるもんな。プレステ2になった時のあのシリーズの画質ったら、そりゃあもうハマりまくったぜ。懐かしいなあ。」
花は青春時代を思い返していた。
(あんときは、ストーリーに感情移入してたっけ。恋愛要素もあったもんな。未来が明るいと信じきっていたからな、ガキの頃の俺は。)
「もしもーし!また、何か考え込んでるの?
ダメじゃない、そんな寂しそうな顔してたら、せっかくわたしがいるん、だ、か、ら。」
いつも通りのボケとツッコミで大笑いする二人。
「けど、その髪型、かなり似合ってるな。」
「わたしとしては、三つ編みも好きなのよねー。結構自信あるのよ〜。魅了が無くてもわたしに恋しちゃうかもよ?」
「ほう、なら見せてくれ。」
「え〜、どうしようかしら〜、あ!いけない、手が急に痺れが〜、これじゃあ三つ編みはできないわ〜」
「面倒なだけだろう。ぷ。ったく、ちょっとあっち向け。」
「え?こうかしら?」
「ちょっと髪触るぞ?」
「へ?まあ、別に構わないけど、何するの?」
花は、アユの髪を三つ編みにする。
慣れた手つきで、簡単に完成した。
「え?す、すごい、慣れた手つき。」
「よし、一丁上がり!こっち向いてみ?」
アユは少し照れて振り向く。
「おお!うん!似合う似合う!こりゃあ自信持つだけはある!すげえ似合うぜ!」
「あ、うん……ありがとう。」
(もしかして……)
「すごいね、花は、美容師さんかスタイリストさんですか〜?」
「いや、全然ちがうちがう。
こんなの、もう何年も子供にやってりゃ、自然にできるもんさ。誰でもできるよ。」
(やっぱり……そりゃあ、誰でもできると思うけど……世の中の父親が、娘の三つ編みをいったいどのくらいできるものなの?
わたしは父親に三つ編みなんてしてもらった記憶がない……)
アユは、花がどれほど子供との時間を大切にしているか、この場面だけで十分だと思った。
アユは、花の肩にパンチする。
「もう。ちょっと惚れそうだったじゃないの。
どうしてくれるの?」
「え?三つ編みで惚れるのか?それは褒めすぎだぜ、カッカッカッ。」
(んもう!そうじゃないっつーの!あなたの優しさや人間性が、伝わったってことよ!
イジったつもりが、華麗にスルーだわ……まあ、まんざらでもないんだけど……わたしはまだ、その辺のことが、怖い。でも、冗談でも、こうして異性と話していくことが、きっと良いリハビリになるのね。)
アユは、花に感謝した。花の鈍感さがいい具合にアユにフィットしている。
「ありがとう……花。」
「??……そんなに気に入ったのか?なら、次は少しアレンジを。ちょっとあっち向け。」
「んもう!だ、か、ら、そうじゃないって〜!あははは。」
◆
「よし、勉強終わり!今日も頑張ったぞー!」
(あと少しで。みんなに会える、楽しみだなぁ。)
リサは、最近は休憩時間に沖縄の本を読んでいた。
◆
ピリリリ。
「はい。……はい……ロケの場所が?
はい……ええ、そこでも全然大丈夫です。
わかりました。失礼します。」
(沖縄………はじめて行くが、まあ、なんとかなるだろ。)
第九十話 完
物語はここから、さらに大きく動き出していきます。もし「二人のやり取りに癒やされた!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、下部にある評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)やブックマーク、そして作品の魅力を広めていただけるレビューで応援いただけると、作者としてこれ以上ない励みになります!また、皆様からの感想コメントも一通一通大切に読ませていただいております。一言だけでも大歓迎ですので、ぜひお気軽に足跡を残していってくださいね。
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