第九十一話 隠しスポット
静寂を切り裂く喧騒の果てに辿り着いたその場所はどこか懐かしく温かな空気に満ちていましたが重なり合う二人の時間はいつしか当たり前の日常へと姿を変え語り合う言葉やふとした指先の動きが凍りついていた過去を少しずつ溶かしていきます仮想と現実それぞれの場所で運命の糸がまだ見ぬ「ある場所」へと手繰り寄せられようとしているそんな静謐な夜が更けていきます。
「ビギナ大陸に出現させた、ゴブリンキングの討伐の様子は?」
「はい、それが、まだ誰も討伐に向かっていないそうです。」
「んー、やはり、いくら賞金があるとはいえ、メリットがないのね」
「いえ、そういうわけでは……もう五十人以上のプレイヤーが返り討ちにされています。」
「強すぎたということか。やっぱり、早すぎたのかも……ま、しょうがないか!」
「…………も、もう入れてしまったものは仕方がないですね。誰かが討伐しない限り。」
◆
(いよいよ明日、ランスとゴブリンキングの討伐か。
さあ、今日も狩りの時間……ん?!)
「どうしたの花?さあ、いつもの狩りへ行きましょう?」
「こ、この大陸にも反応が!
そんなに遠くない!丘の辺りだ!」
「い、いったい、なんの話を……うわ!」
花はアユを抱き抱える。
「しっかり捕まって!」
ドン!!
花は地面を蹴りながら進む。
「わーお!速いーー!」
ズザザザザーー!
「ついた。……あったぞ、ここにも。」
「な、なにここ?!りょ、旅館?!」
丘の展望台の近くに、かつてはじまりの都で見たままの旅館がそこにあった。
「ちょ、行くの?!」
「ああ、アユにとっては、いいところだ。」
(まったくわからない、けど、花が言うんだから、行ってみましょうか)
ガララ…。
「いらっしゃい、おや、久しぶりだねえ、花」
「やっぱり女将だ!お久しぶりです!」
「おや?今日は、またまた別嬪さんを連れてきたねえ。」
「はじめまして、アユと申します。」
アユは頭を下げてニコリと笑って見せる。
(ほほう〜、この子はリサよりも、だいぶ歳上だろうねえ、落ち着きがある。なにやら抱えてんのかね?)
「女将さん、この子は、魔法使いなんだ。
せっかくだから、ここ使ってもいいですか?」
「ああ、いいとも!ささ、アユはこっちへおいで!あたしが説明してあげるから!」
アユは慌てながらもついていく。
「行ってらっしゃい〜、さて、俺も入るとするか!」
露天風呂。
「アユー、そっちはどうだ?」
「ええ、とても良いわ。こんな場所があったなんて、知らなかった。」
「いつ出てくるかわからないスポットだからな。今日は運が良かったよ。」
「けど、なんで花はわかったの?」
「女将さんから、この旅館のサーチアイテムをもらったんだ。行ったことのあるマップ上で出現すると、反応が出るような仕組みさ。」
「それって、レアアイテムじゃん?まだ、ネット上にも流出してない情報よ?」
「そうなのか?ま、その辺りはどうでもいいけど、温泉に入れたらそれでいいよ」
(相変わらず、独占欲とか、そういうのが無いわね。ま、そこが良いところなんだけど。実際にわたしを簡単に連れてくるし。)
花は先に上がることにした。
「じゃ、ごゆっくり〜、俺は先に上がる。
リラックスルームにいるから、後で声かけてくれ。」
そこに、入れ違いで女将が入ってきた。
「湯加減はどうだい?ゲームとは思えないだろ?」
「ええ、とても良いわ。本格的な温泉なんて、都会にはそうそう無いから。」
女将は、この旅館を建てる経緯を説明する。
「え?!女将さんは花と同郷なんですか?しかも、この前お会いしてる?」
「アッハッハ!里帰りしたとき、偶然ね!
まさか、隣に座ると思わなかったよ!会話でかまかけたらどう考えても花だった!ま、あっちは気づいてるかわからないけどね!」
「いいなあ…わたしも、いつか行ってみたい……」
「ん?なんだい、行けばいいのさ。花が案内してくれる。」
「け、けれど、花にはご家族がいるでしょう?
迷惑になります。そ、それに、まだわたしは……」
「なんだい、もしかして訳ありかい?」
アユは、元々あまり人に自分のことを話さない。しかし、女将が花と仲が良いことが、親近感を生んだ。
アユは女将に事情を打ち明けた。
「それは、辛かったねえ。あんたもこのゲームで、花とおんなじことやってたのかい。
そりゃ仲良くなるわねえ。
んで?それがまだ怖いから、なかなか前に進めないのかい?」
アユは俯く。
「いいのさ、ゆっくりで!けど、花はいいやつだろう?どこにでもいそうな、パッとしない見た目だけどねえ。
人の痛みを知ってるのさ。
だから、お前さんみたいな美貌があっても、口説いてきたり、迫ったりしないだろ?
バカそうで、案外わかってるのさ。
この前来た仲間の子もそうさ。
花に気がありそうだが、花の方から距離をとってる。
あたしとしては、もっと楽しめば良いのにって思うんだけどねえ!アッハッハ!」
「ふふふ、それは同感です。かなり奥手ですよね、けど、わたしにとってはありがたかった。
最近、少しずつ前に進めてる気がしてるんです。」
「ほほう。あたしは応援するよ?けど、早くしないと、あいつは歳をとるごとに倍率上がりそうだからねえ!しっかりマーキングしとくんだよ?」
「ま、マーキングって、それこそゲームじゃないですかぁ。女将さん、面白いわ。好きになりそう!」
「アッハッハ!けど、冗談抜きで、あいつは良いやつだ、お勧めしとく!」
「奥様がおられますよ?嫉妬されちゃいますわ。」
「どうだろうねえ。話を聞く限りでは、花を好きというより、自分にとって都合が良いから一緒にいるだけな気もするよ。
あいつはねえ、ちょっとくらい人から愛された方がいいのさ。
頑張りすぎなんだよ。」
「愛された方がいい、というのはわたしも同感です。」
女将はアユをチラッとみる。
「で、ですから、奥様がおられるので、そんな変な気を誘導しないでください!好きになったら、どう責任とってくるんですか、お、か、み、さ、ん?」
「おやおや、否定しながらも、このやりとりを楽しんでるじゃないかい!
けど、これだけは言っとくよ?
ずっと嫁さんといるとは限らない。
もし、花が壊れるまでいるんなら、そんときは全力でひっぺがえすつもりさ!
あいつの精神状態がおかしくなったら、それこそ、何のために生きてんのか、あんまりだからねえ!
あいつには、そばで支えてくれる人が、必要なのさ。」
「女将さん……」
「まあ、余計な小言を言ったけど、あんたはあんたのペースでいいんだよ!」
「はい……ありがとう、女将さん。わたし、少しずつ、自分を変えていこうと思います。」
「アッハッハ!あんたも、なかなか良い子だねえ!
まあ、ゆっくりしていきな。
出たらまた声かけておくれ、ここからがこの旅館のメインだからねえ!」
そういって女将は去っていった。
(……"ずっと一緒にいるとは限らない"か……。
花は、この絶望の先を、どう生きていくのかなあ。)
第九十一話 完
第九十一話をお読みいただき、ありがとうございます!隠れスポットの旅館で、女将とアユの濃密なガールズトーク(?)が展開されました。女将さんの「花は愛された方がいい」という言葉、そしてアユの決意……。仮想世界での安らぎが、現実の二人の関係にどう影響していくのか、じっくり見守っていただければ幸いです。
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