第八十七話 アユの過去
アユが突発的に見せた、心の「隙間」。
それを埋めたのは、花がふと思い出した懐かしいメロディでした。
圧倒的な歌唱力の裏に隠された、彼女の挫折と再出発。
一方、現実ではランスと共に「ゴブリンキング」討伐の作戦会議が始まります。
少しずつ、でも確実に、物語の歯車が噛み合い始めます。
「今日から働く子だよ。みんな、仲良くしてやりな。」
ここは、小さなスナック。
年齢層高めの客が多く、歌好きが集まるスナックだ。
客層も良く、変な絡み方をしてくる客はおらず、純粋に歌を楽しみに来ている客ばかりだ。
スナックのママは、70代だが、とてもパワフルで、歌唱力は抜群。
「あ、ほら、次、歌えるかい?あたしゃ酒を使わなきゃならないんだよぉ、お願い!」
マイクを渡される。
平成半ばに流行った曲だった。
みんな、ママの歌声を聴きに来ている客ばかり。
そんな中、とんでもない歌唱力で歌いきる。
少しの静寂の後、スナックは大盛り上がり。
これが、彼女の再出発の初日だった。
◆
ガバ!!
「うお?!アユ?」
「少しだけ……」
花は、会話の中からある程度察した。
過去に辛いことがあったこと。
おそらく、誰かに裏切られたこと。
花はそっと頭に手を置き。
何も言わずにそのまま受け止めた。
パッ
「ごめんなさいね。酔っちゃってたのかな、わたし!」
「ああ、随分酔ってるみたいだな。」
冗談混じりのやりとりだが、二人は察していた。
その後、二人は解散した。
それからしばらく、平日はこうして狩りの後、アユと話した。
◆
週末。
珍しく妻が、子供の習い事に連れていけるらしく、午前中はフリーとなった。
ランスにメッセージを送り、ゴブリンキングの討伐の打ち合わせを予定通りすることとなった。
「すまんな急に。時間早めちまって。」
「いいよ、前は連休だったし。今日は普通の休日だからね。みんな、プライベートがあるのはわかってるから。」
(こいつはつくづくできたやつだな。将来モテるだろうな。)
「時間が無いから、端的にやろうか。
花、愚問だと思うけど、雑魚の方は……」
「ああ、とっくに終わった。」
「だろうね。ごめん、きっとそうなんじゃないかと思って、僕は特訓してたんだ。
今回はパーティ登録制みたいだから、だれが討伐してもカウントされるからね。」
「謝る必要はねえよ。狩りは俺の生きがいだからな。後は、ゴブリンキングをぶっ倒すだけだな。」
「そうなんだ。兵士に聞いたら、何人もやられてるって。けど、この時点のボスだから、そこまで強くないと思うんだ。とは言っても、並のプレイヤーは苦戦する程度に設定してあるだろうけど。多分花ならすぐ終わると思う。
後は、どうやって見つけるかだけど、川の近くに現れるらしいんだ。」
「みたいだな。なら、川沿いに歩き回って、出会したらやればいいか。」
「いや、ゴブリンキングは賢いからね。
人間の匂いで、隠れながら近づいてくるらしい。
だから、二手に分かれて行動して、一人が囮。もう一人がとどめを刺す。」
「よし!じゃあ、俺が囮だな。」
「なんでそうなんの?!防御の高い僕が囮で、攻撃の高い花がとどめが普通でしょ!」
「ん?そうなのか?俺を囮にして、きたらぶっ倒す。無理そうだったらランスが加勢する。
かと思ったぜ。」
「でも、確かに花の実力だと、それもありな気もするな。反応速度も加味すると、ゴブリンキングの初動に対応できるのも、花の方が確実か。てか、僕いらないじゃん!」
「そんなことはねえぞ?
川を移動する時、カレッジ付近から登るとする。
なら、俺のすぐ前をランスが走ってくれ。
なら、後ろにいる俺を狙いにくるんじゃねえか?」
「なんでそう思うの?」
「前のやつと出くわしたら、後ろから増援が来るだろ?だが、後ろのやつは消えても前のやつは気づきにくい。
多少賢いなら、そうなんじゃねえかなと思ったんだ。」
「な、なるほど……言われてみればそうかも。」
「おい、意外そうな顔すんな!」
「え?いやいや、そんなことないよ。
じゃあ、それでいこうか!いつにする?」
「来週の土曜日は確か、リサが少し顔出すんじゃなかったか?
俺もちょうど空いてるから、リサが来る午後までに、2人で討伐しに行くのはどうだ?」
「わかった!じゃあ。また来週の土曜日に!」
二人は解散した。ランスは花に勝つために、猛特訓しているらしい。
◆
王宮屋上。
「アユ、時々鼻歌まじりでいるが、歌好きなのか?」
「ええ、歌は好き。わたしの特技なの。何か歌ってみせようかしら?」
「じゃあ、平成半ばに流行った、よくゲレンデで流れてた、バラードを歌ってみてくれ。」
アユは目を丸くした。
「あ、すまん、古かったら謝る。つい思い出の曲がその時期でな。
歌いやすいのでいいぞ?」
「大丈夫……わたしも、その頃の曲で、思い出の曲があるから。もしかして、こんなメロディの歌だったりする?」
アユは鼻歌で確認する。
「そう!それだ!」
アユは立ち上がり、サビを歌って見せた。
花は、その歌唱力に驚き、拍手した。
「す、すげえ……すげえのを聞いちまった。」
「ふふっ。今の歌、500万円になりま〜す。」
「高えなあ!けど、ほんとにすげえよ。プロ顔負けだ。」
「ま、一時期目指してましたからね。
事情があって……その道を辞めて、再就職した先で、初めて歌った曲だから。わたしにとっては思い出の曲なの。」
(その事情ってのが、トラウマになってるってことか。少しわかってきたぞ。)
「花になら、いいかな。全部は言えないけど。
話してもいいかもしれない。」
(な、なに?!自分から話すのか?)
第八十七話 完
第八十七話をお読みいただき、ありがとうございます!
アユの意外な特技が判明しました。花の思い出の曲と一致するあたり、運命的なものを感じますね。
そして久々のランス登場! 花の戦術眼には彼も脱帽のようです。
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