第八十六話 秘密の場所
喧騒を離れ、二人が辿り着いたのは王宮の最上階。
夜風に吹かれながら酌み交わす酒は、偽物の世界とは思えないほどに「本物」の味がした。
現実での断片的な告白、そしてアユが抱える心の傷。
「裏切らない」――花の静かな誓いが、アユの閉ざされた心を溶かしていく。
「やっぱり、前作の引き継ぎってのは、すごいな。あんな威力の魔法は、はじめて見た。」
「ひたすら魔力を上げてたからねぇ。効率よく倒せるように。」
「ぷ。俺と同じだなあ。」
「さて、どうしようかなぁ、時間は大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。この前の店か、それとも別に、王都におすすめの店はあるのか?」
「うーん……店に入るのもいいけど……周りに人がいないところがいいかなぁ。」
花は周囲を見渡す。
「なるほど……あそこなんかはどうだ?」
花が指差した場所を見る。
「え?王宮の屋根の上?!」
「どうだ?少し丸みを帯びてるが、デカいから十分人が座れるかと思ってな。」
「そんな発想なかった……あそこなら、最高ね。
けど、お酒も飲みたいわね。」
「それなら心配いらん。俺はアイテムをアバター内に収納できる。
そこらで買い込んでいけばいいさ。」
「な、なんてハイテクなの。それじゃあ、すぐ近くの酒場で、買い込みましょう!」
二人はお酒を買い込んだ。
そして、お決まりのように、花がアユを抱えて移動する。
アユは、花の首に手を回す。
「では、よろしくね、花。」
「手慣れたもんだな。よし、行くか!」
ヒョイっとお姫様抱っこし、王宮の一番高い塔の屋上へ辿り着く。
スタン。
「わお!すごい眺め!」
「ふむ。意外と平地なんだな。外から見ると円に見えるが、むしろ、人が来れるように、転倒防止の低い壁もあり、過ごせるスペースになっているな。」
二人はその壁に座り、王都を見下ろす。
王都の周辺には、港街の街灯も見える。
シャ!
花は酒を手渡す。
「ありがとう。じゃあ、乾杯!」
「やっぱりこのゲームはすごいな。きちんと味を感じる。」
「そうよね。いくら飲んでも、リアルの方の身体には影響ないもの。」
「これなら、身体を悪くした人や、制限のある人の救いになるかもな。そうだな。高齢者なんかは、このゲーム内では自由に動き回れる。
医療や福祉では、画期的だな。」
「…………花は、そっち方面の人なの?」
「…………あ、ああ、まあ、そんなところだ。」
「知られたくなかった?」
「そんなことはない。ただ、誰にも話したことがなかったんだ。」
「なら、二人だけの秘密にしておくね。わたしから他の人にしゃべることは無いから、安心して。ちなみに、わたしは飲食業よ。」
「飲食業か、かなり幅が広いが、あえて聞かないでおこう。」
「ぷ。多分想像してる通りだと思うわ。あなたとわたしはなぜか、そういう勘が近いもの。
けど、わたしは一つの場所にいないわ。
定期的にいろんな県を渡って、働いてる。東京、大阪、沖縄……色々行くけど、最近は東京と沖縄との往復が主かな。体力的にしんどくなってきちゃった。」
「そうなのか?すごいな。沖縄か……」
「まさか、沖縄の人?!」
「いやいや、全然違うよ。まあ、西日本エリアなのはそうだけど。
仕事でたまに行くんだ。支部が沖縄にあるから。」
「そっか、なら、どこかで会うかもね〜。
あ〜、こんなに話したの、いつぶりだろう。
不思議だな……昨日会ったばかりなのに、昔からの友人みたい。」
「あ、それよく言われるんだ。ぷ。俺は影が薄いんだろうな。」
「………それは逆だよきっと。……みんな、花といると、安心するんじゃないのかな。
気がつくと仲良くなってるし。なんというか、警戒心がなくなっちゃうんだよね。」
「すぐ魅了かけたのにか?」
「あ、あれは反射的にというか、クセなの。
どんな人に騙されるか、怖いの。」
アユの表情は一気に暗くなった。
花は確信した。おそらくアユは異性とのトラブルか、なんらかのトラウマを持っていると。
「アユは……昨日会ったばかりの俺を、どう見てるかわからない。だけど……俺は、アユを裏切ったり、自分から見放したりはしない。
仲良くする人には、そうする。
そうやって、じいちゃんから教わったんだ。」
アユは、心を見透かされたことを自覚した。
価値観が近いため、何も不思議じゃなかった。
ただ、それを踏まえた上での、花の言葉に、心を打たれた。
「昨日、会ったばかりのわたしを、信じるの?
あんなに迷惑かけたのに?」
「それは、グリグリで、チャラさ。」
「なんて、お人よしな人なの。そっか……だから……」
そこから続く言葉を、花は理解していた。
だから、騙されるんだと。
だから、人生が詰んだのかと。
「わたしは……奪ったりしない……花、あなたから、時間も、人生も、わたしは奪わないからね?
だから、わたしといるときは……無理しないでね?」
「ああ……ありがとう、アユ。だけど……」
「だけど?」
「アユも……あんまり無理すんなよ。
俺には、なんでもぶつけていいからな。」
「昨日会ったばかりなのに?」
「ぷ。それは、お互いさまさ。」
二人はお酒を酌み交わし、静かに笑い合った。
似たもの同士、少ない会話で察してしまう。
だからこそ、時間は必要なかった。
「それにしても、この場所最高ね。また来たいなあ。」
アユはチラッと花を見る。
「だな。可能な限り、俺がここに連れてくるよ。」
「ほんとう〜?あら嬉しい〜、じゃあ、明日も、明後日も、お願いしちゃおうかしら〜。」
意地悪そうに花を見る。明らかにネタのフリだ。
「ああ、いいよ。明日も、明後日も、連れてくるよ。」
花は静かに笑った。
その瞬間、アユはなんとも言えない感覚に襲われた。
恋愛のドキドキでは無い。少し似ているが、また違う。小さい頃に、迷子になった時、親が見つけて抱きしめてくれた、その時の感覚に近かった。
次の瞬間、アユは頭で考えるよりも先に、体が動いていた。
第八十六話 完
第八十六話をお読みいただきありがとうございます!
王宮の屋根の上、月明かりの下での晩酌……VRならではの贅沢なシチュエーションですね。
二人の過去や現実の姿が少しずつ重なり合い、物語が大きく動き出そうとしています。
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