第八十三話 城壁
夜の王都を連れ立って歩く二人。
平穏な散歩になるはずが、アユの「あるスキル」がきっかけで事態は思わぬ方向へ……。
最強クラスの兵士を前にした時、花が見せた「圧倒的な力」とは?
そして、二人の距離がほんの少しだけ近づく、特別な夜の終わり。
「あの、本当に、抜けるんですか?このバンドを」
「おうマネージャー、そうさ。才能あるやつに託すのが一番だ。
俺はここらで引く。もう十分楽しんだ。
ま、夜の方に興味があってな。
そっちに行くことにするわぁ」
そういって、事務所を出て行った。
「あんなに売れてるのに、夜って、いったい何をするつもりなんだ……ヒロシさんは。」
◆
王都。
「ところで、なんで、プレイヤーが、兵士やってんだ?冒険しねえのか?まあ、価値観はそれぞれだが。」
「それはズバリ、お給料かな。
王都護衛や任務を行うことで、定期的に給料が出るから、ゲーム内のギルが増えるの。
モンスターと戦うのもありだけど、効率よく大金が入るのはこっちかなぁ。」
「ふーん。なんか、リアルなら、戦争や暴動とか、王都を守るってわかりやすいが、ゲーム内では、とくにピンとこないなあ。」
「ゲーム内にも、一応シナリオや、秩序があるの。あとは、NPCたちにも設定や寿命があって、現実世界と同じように、こちらでも世界として機能してる。だから、こちらのNPCと、お付き合いすることも全然ある話だし、運営は、そのリアルさを狙ってる。」
「そうか、なら納得だな。
そうなれば、その仕事一つ一つに、意味があるからな。
そういえば、アユは王城の関係者だよな?
何か仕事に就いてるのか?」
「ええ、わたしは医務室の担当なの。
主に、兵士たちの回復が仕事。」
「そうか、アユはもう安定したゲームライフを送ってるんだな。」
「……………ええ。安定しているといえば、そうね。」
「どうした?大丈夫か?」
「え?ええ、大丈夫。ほら、あそこが案内所よ。近くで兵士たちが訓練してるわ。」
「こんな夜中に、熱心なこった。」
二人が歩いていると、兵士から声をかけられる。
「おい‼︎そこのお前!アユ様と腕組みなど、どんな身分だ!見た感じ、上級民では無いな?!」
花は何も聞こえなかったように、素通りする。
(ああ、うるせえ。絵に描いたようなやつだな。面倒だからもう無視だ無視。)
「ちょ、ちょっと花?そんなあからさまに無視して大丈夫なの?」
「ん?ああそうだな。てか、声かけられる原因は。これ、なんだけど、それでも離さんのは、わざとだろ?」
花は笑いを堪えている。
「ぷ……いえいえ、そんなはずはありません。わざとなど、ぷ……そんなことをしたら、彼らに火に油、ムカ着火ファイヤーですわよ?」
「なーなが、ですわよ?だ。ぷ。
おい、あいつプルプル震えてるぞ、どーすんだよ。アユのせいだからな?俺は目立ちたくないんだ。」
「き、貴様ー!舐めた態度とりやがってぇ!
しかも、アユ様と腕組みだと??」
「ほら、嫉妬されてるじゃねえか!俺は討伐の詳細聞きにきただけなのに!」
ズン!
あからさまに、先ほどの兵士が目の前に通せんぼする。
「あ?なんだ?俺は討伐の詳細聞きにきただけだ。お前とはなんも関係ない。とっととそこどけ。」
「そうはいかん!アユ様と腕組みなんぞ、百年早いわ!」
「そんなの、お前に関係ねえだろが。いや、まてよ?なんかおかしくねえかこいつ。」
花はアユの顔を覗き込む。すると、アユは顔を上げて、ウインクをして舌を出した。
「ア、ユ、さん?まさか、何かしたのかな?」
「つべこべ言わずに、PvPを受けろー!このモヤシがー!」
ピク
「あん?」
キッ!
花は威圧を発動する。
兵士は全身ガタガタしている。
「これでもやるか?」
(す、すごいわ、まさかこんな。いけない。わたしの魅了が解かれちゃう。ごめんね、兵士さん!えい!)
アユは、指先で兵士に魔法をかける。
「ぐぬおお!PvP。受けろーー!」
花は仕方なしにとため息をつく。
「離れてろアユ。後でじっくり聞かせてもらうからな。」
「なんのことかわからない〜、こわ〜い。」
アユは討伐説明のある小屋の方に走って行き、建物の影からPvPをみる。
アユが魅了したのは、兵士の中でも最強クラスの兵士だった。戦えば周辺は危ない。
バトルが認証されて、始まった。
「くらえー!モヤシ野郎ー!」
ヒョイ
ドゴーン!
地面が抉れる。
シャ。 花の手に大剣が現れる。
(うぜえから、一発で終わらす。)
「うおりゃあ!くらえ!ジャガイモ野郎ー!」
花は大剣を大きく振りかぶり、刃ではなく、面を使って、思い切り兵士の横っ腹をぶち当てた。凄まじい衝撃波と共に、兵士は弾丸のような速度で吹き飛んだ。
ドゴーーン‼︎‼︎
兵士は城壁を突き破り、吹き飛びながらポリゴン状にバラバラに散った。つまり、PKされたのだ。
城壁は爆風も相まって一部大きく崩れた。
「え?な、なにあれ……花って……あんな化け物だったの?」
花はスタスタ歩いてアユの前を通り過ぎる。
その後、討伐の説明はすんなり終わり。
訓練所を出た。
「アユ。」
ビクー!
アユは花にびびっていた。
「な、なんでしょう?」
花はアユの前に立ち片手を振り上げた。
「ヒぃ!」
アユは、身体をこわばらせて身を丸める。
ガシ!
花は片手でアユをホールドする。
そして、もう片方の手で、頭をグリグリする。
「痛たたたたた!ご、ごめん!ごめんなさい!悪気は……あったかもー!……痛たたた!許してー!」
パッ
花は手を離す。
アユはその場にぺたんと座り込んだ。
「痛ててて。ごめんなさい。つい、花の実力が見たくって。その……スキルの魅了を使ったの。」
「やっぱり魔法だったのか。魅了…あんなこともできるのか、魔法ってすごいな。
なあ、俺にも魅了って、通じるのか?」
「いえ、通じないわ。」
「なんでだ?」
「す、すでに、試したから。」
アユは花をチラッとみる。
ガシ!グリグリグリグリ!
「痛いー!いてててて!ごめんなさいー!」
またぺたんとへたり込む。
「ぜぇ、ぜぇ、はじめに路地に入った時、即座に魅了を使ったの。でも、全く効かなかった。
けど、さっきのバトルでわかった。
多分、わたしの魅了の力よりも、花の威圧の方が勝ってたんだと思う。」
「なるほどな。だから俺には通用しなかったのか。」
「でも、もしわたしの魅了がレベルアップしたとしても、花にはもう使うつもりは無いわ。」
「お仕置きが怖いからか?」
「それもだけど……なんか、ズルしてる気がして、嫌なの。」
一瞬沈黙する。
「ん?ズル?なんかよくわからんな。」
アユは、花の肩にパンチする。
「わ。わたしも、よくわかんないの!だから、花には魅了、使わない。」
「ああ、そうしてくれ。実際、魅了がなくても、十分だと思うぞ?少なくとも俺は引っかかる自信がある。」
(花。それって?)
アユは顔が赤くなる。
(な、なんでわたしは赤くなってるの?よくわからない。なんで?ま、考えても仕方がない!冗談で乗り切ろう!)
「もう、あんなマネはしないでくれよ?
目立つのは嫌いなんだ。今度したら……」
花はグリグリの構えをする。
「もうしません!やだ怖い〜、もう、そんなに怒らないでよぉ。ほら、ちょっとくらい揉んでもいいから、許して〜」
「アホ!
それこそ、なんか負けた気分になるわ。そんなの、納得できねえ」
(え?それってどういう………)
二人は向かい合って、互いに顔が赤くなる。
二人の考えは似通っていた。
好きとか、いやらしい意味ではなく。お互いに。"魅力的な相手には正々堂々と"という意味合いだったのだ。
たった一夜の出来事だが、
はじめて、"自分と似た価値観の人に出会えた"。二人はそう思うのだった。
第八十三話 完
第八十三話をお読みいただきありがとうございます!
ついに花の規格外な強さの一端が、アユの前でも露わになりました。
二人の絶妙な距離感、楽しんでいただけていれば嬉しいです!
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