第六話 ALO
人生は、積み重ねで変わる。
そう信じてきた男が、
それでも報われなかった現実の先で、
もう一つの人生を歩み始める物語です。
塵も積もれば、山となる。
そんな言葉を知っているだろうか。
俺の好きな言葉だ。
どんなに小さく、無意味に見えることでも、積み重なればいつか意味を持つ。
俺はそう信じて、今日までやってきた。
夜中に起きてミルクを作ること。
理不尽な言葉を飲み込むこと。
何も変わらない、停滞した日々に耐え続けること。
――だが、現実にはどれほど積んでも「山」にならない努力がある。
それでも、俺はやめなかった。いや、やめられなかったんだ。
やめてしまえば、俺という人間そのものが崩れてしまいそうだったから。
『ALO』は、そんな俺に。
「積み重ねてきた意味」を、初めて目に見える形で見せてくれた。
◆
最新のギアを装着する。
ハードウェアも一新され、かつての重厚なヘッドギアは驚くほど軽量でスタイリッシュなものに進化していた。
こめかみ辺りにあるスイッチを押し、システムを起動する。
ソフト名と合図を口頭で伝えれば、本起動が始まる。
「――アナザー、ライフ、オンライン。スタート」
視界に、流れるような美しい映像が通り過ぎていく。
やがて辿り着いたのは、真っ白で、キラキラと輝く、どこまでも透明な空間だった。
プレイヤーの感覚が最も快適になるよう調整されているらしく、驚くほど心地よい。
「……ああ、ここは天国か。俺もついに、疲れ果てて逝っちまったのか……。ふっ、それも悪くないか。……って、んなわけあるか!」
一人でノリツッコミを入れている間に、新規ログインのアナウンスが始まった。
『Another Life Onlineへようこそ。これから、この世界を始めるにあたって、いくつかご質問をさせてください。
もし、前作をプレイしていた場合、一部のデータの引き継ぎが可能となっております。
長らくサービスをご利用いただいたプレイヤーの方々への、運営からのささやかなプレゼントです。
よろしければ、前作のアカウント情報を入力してください』
「ん? 前作の引き継ぎ……? まあ、どっちでもいいが、少しでも時短になるなら、とりあえずやっとくか」
そう。
この「とりあえず」で行った引き継ぎこそが、俺の運命を劇的に変える、最大級のアップデートになるなんて。
この時の俺は、微塵も思いもしなかったんだ。
ここから、この『ALO』という舞台で。
止まっていたアラフォーの俺の時は、静かに、しかし力強く動き出す。
第六話 完
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ついに新世界『Another Life Online』へのログインを果たした花ですが、この「引き継ぎ」が一体どのような波乱を巻き起こすのか……。
5年間の地道すぎる積み重ねが、最新のシステムと出会った瞬間に何が起きるのか、ぜひ次話も楽しみにお待ちください!
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