第五話 大型アップデート
※この物語は、現実に疲れ切った一人の男が、
仮想世界で「もう一つの人生」を歩み始める物語です。
共感できない方もいるかもしれませんが、
それでも、誰かの心に引っかかれば幸いです。
結婚して、子供ができると、妻は人が変わったと、
よくそんな言葉を耳にする。
あんなにおっとりしていたのに、今じゃ教育ママだ。
財布の紐握られて、もうかなわない。
家事育児全部やってるよ、もう頭が上がらない。
どれも皆、家庭を守るため、とても素晴らしい変化だ。
しかし、うちの妻は何一つ変わらなかった。
夜中、子供が泣き叫んでも起きない、俺が起きてミルクをやる。
日中はほぼ寝ている。でも夜も俺が起きる。こいつはいつなにをしているんだ?
義母が料理をする。家事もする。
離乳の時期、夜中俺一人でめんどうを見ろと、よその家庭のやり方を真似て、ことあるごとに俺を使おうとする。
じゃあ、お前はいったい1日のうちで何をしてるんだ?
仕事もしてない。家事もしてない。
ただ、子供と寝るだけ?
ふざけるな。
世の中には、誰も助けてくれない人もいる。
ならせめて、しおらしく謙虚になれよ。
わあわあ怒鳴り散らし、自分から家事をしようとしない。
金銭感覚もでたらめで、考えてお金も使えない。
いったいこいつはなんなんだ。
と、言いたいところを口には出さず我慢する。
そう、、、口に出しても変わらないことを、この時の俺はわかっていた。
どうせ逆ギレしてキレ散らかすだけだ。
それすらももう面倒だ。
結局、何も変わらなかった。
しかし、子供が生まれたから、もう後戻りは出来ない。
最後の希望だった。
だが、、、、人は変わらない。
俺の努力も何も実らなかった。
そんな絶望を感じて、5年の月日が流れた。
◆
ここはフルダイブ型VRの中だ。
いつものように受付で換金を済ませると、受付嬢のNPCからお知らせがある。
「本サービスは今年の12月31日を持って、終了となります。ゲーム自体はプレイ可能ですが、新しいイベントや、クエストなどの更新はありませんのでご了承ください。
なお、本作は12月24日に新作が販売となっており、本体、ソフトともに大型アップデートがございます。」
と、新作発表のアナウンス。
「さて、まだ日もあるし、ギリギリまで遊び尽くすか。アプデが無くなるだけで、ゲーム自体は出来るんだ。なんも問題はない」
12月
今年も、子供、妻、義母の分のプレゼントを用意した。
そして、、、俺は誰からもプレゼントなどもらうわけがない。
あれから5年か、、、
ネットや広告などで、大々的に宣伝しており、内容をみていた。
今までやっていたものとは比べ物にならないリアルさと、広い世界観。
前作の検証データを元に、世界のクリエイター、富豪など、あらゆるところの協力を元に完成された新作。
その名前も
Another Life Online (世界共通版)
略してALO
「、、、、、かなりリアルだな。より実際に近い動きと、爽快感、、だと?」
俺は5秒くらい考えたが、答えは決まっていた。
「買うっきゃない!」
即決していた。すぐに予約。
すっかりこのゲームにハマっていたのだ。
もうこの憂さ晴らしの方法からは抜け出せない。
その年のクリスマスイブ。さっそくプレイすることにした。
俺の人生は、何年も前から止まっていた。
だが、この時はまだ知らなかった。このALOをプレイすることで、、、
それが更新される瞬間が、すぐそこまで来ていたことを。
第五話 完
第五話まで読んでいただき、ありがとうございます。
ここから物語は大きく動き出します。
現実が止まってしまった主人公が、
「Another Life」で何を得るのか。
ぜひ、続きを見守ってください。




