第二百二十七話 新しい未来
いつも『Another Life 〜現実が詰んだので、フルダイブVRで人生やり直します〜』を応援いただき、本当にありがとうございます!
ダイスリー王国の広大な宿屋エリアにやってきた花とロット。
「探すのが面倒」という理由で一番巨大なタワーの契約に踏み切った花でしたが、最高ランク「Aランク」の驚愕の特典により、本来7000万ギルの最上階を自己負担100万ギルで契約することに成功!
空中に浮遊するセキュリティ抜群の豪華フロアを確保し、その圧倒的な規模と豪華さに二人で大興奮するエピソードでした!
無事に拠点も決まり、和やかな時間を過ごす二人ですが……!?
注目の第二百二十七話、ぜひお楽しみください!
「こ、この人……」
パ!
画面が切り替わり、中の人物が見えなくなる。
ピコン……
女の子はヘッドギアを外して起き上がる。
「あ!いけない、検温の時間だった!
すみません、つい夢中になってしまって!」
「大丈夫よ。菜月さんも、もう随分良くなったわね。ゲームは楽しい?」
「はい!とても楽しいです!あのね、最近とっても面白い人と出会ったんだー!何もかも規格外でね、異常なの!」
(さっきの人かな?)
「へえ、それは良かったわねぇ。しかも、異常なの?」
菜月はそれまでの経緯を話す。
「え?ずっと憂さ晴らし?5年間も?……ぷ!あははは!それは面白い人ね!」
(憂さ晴らし……か。……わたしと同じじゃん。)
「どうしたの葵衣さん?」
「ん?あ、ごめんね!違うこと考えてた!またゲームのこと教えてね。」
「うん、葵衣さんも、気が向いたらやってみてね!お仕事忙しいと思うけど、そんなの忘れるくらい、スッキリするよ!」
「それは気になりますなあ〜、ありがとう菜月さん、じゃあ、わたしはこれで失礼しますね〜」
「一ノ瀬さん?チラッと聞こえたわよ?患者さんに下の名前で呼ばれて、なんで苗字で呼ばせないの?まあ、患者さんが勝手にそう呼んでるなら別にかまわないけど、距離感だけは間違わないようにね。」
「は、はい、すみません……」
一ノ瀬葵衣は、菜月の担当看護師。
菜月は海外で大きな手術を受けて、日本に帰国後、この病院で入院している。
(わたし……苗字で呼ばれるの、嫌なんだよね……なんでこうなっちゃったんだろう……)
◆
数年前の出来事。
葵衣は仕事から帰宅する。
「葵衣?帰ったのか?早く飯作ってくれよ。明日は母さんがくるから早起きしなきゃならないんだ!」
「うん、今する。」
葵衣は手洗いを済ませてすぐに食事の支度に入る。
「お風呂はもう入った?」
「入るわけねえじゃん、沸いてねえんだから。」
「そっか。そうだよね。」
「意味わかんねえこと言ってねえで、早く飯作ってくれよ。母さんなら俺が腹すかせる時にはすぐに飯作ってくれてたぞ?」
「ごめん、すぐやるから。」
葵衣は無表情で淡々と料理を作っていた。
(もうやだ、こんな生活がずっと続くのかな……)
「ねえ、あの子は?」
「あ?知らねえよ。保育園じゃない?」
「へ?あ!保育園からこんなに着信が!
今日は仕事休みよね?休みの時はあなたがお迎えに行く約束よ?」
「今日はダルかったんだよ。昨日も仕事で疲れててさあ。」
ピンポンー。
玄関のドアが開く。そこには、義母と子供が立っていた。
「ママ!ただいま!バァバが迎えに来てくれたよ!」
子供をすぐに中に入れる。すると夫が出てきた。
「おかえり!さあ、パパと手洗いうがいをしようなあ〜、今からお風呂も沸かすからな〜。」
義母の手前、夫は子供の世話や家事をするアピールをする。
「ちょっと葵衣さん!保育園から連絡があったわよ!なんでちゃんと迎えに来ないの!?」
「あの、今日はわたしは仕事で、その、コウキさんがお休みなのでお迎えを…」
「あの子はフルタイムで仕事しながら、こうして家事も育児もやってるじゃない!あなたがやらないでどうするのよ!あの子はほんとにいい子なの、優しい子!今は夫婦で助け合う時代なんだから、忙しいあの子を支えないと!わかった?」
言いたいことをいって、義母は帰っていった。
(全部嘘……あの人は家事も育児もまともにやりゃしない。稼ぎだって、わたしの方が多い。むしろ、フルタイムはしんどいからって、勝手に時短に切り替えて……何度も話を持ち掛けても、応じない。お義母さんも、話もろくに聞いてくれない。自分の息子がよくできた子だって、勘違いしてる。
もうやだ……こんな生活……。)
子供が少し大きくなった頃。しばらくして葵衣は全てを失った……。
裁判の結果も虚しく。義母側の経済力が高すぎるため、親権を夫に取られて子供とは離れ離れになる。
仕事に家事育児を懸命にしていたと言う証拠も証言もないため、逆に夫が家事育児を積極的に行なっていたという義母の証言が優遇された。
普通であれば、母親優位だが、義母が孫に対してなんでも買い与えて甘やかした結果、パパとバァバと暮らしたいと子供の口から言ったことを証言に、葵衣は負けた。
子供がいなければただの離婚。しかし、自分の産んだ愛している子供と離れる辛さを背負いながら、葵衣は生きていくこととなった。
◆
ガチャ……
静かな家の中で、葵衣は食事や入浴など、身の回りのことを済ませてソファに腰掛けた。
「ふう……今日も一日終わった……。現実は、こんなにも残酷なんだね。それにしても……似てたなあ……菜月さんの出会った人、あの人にそっくりだったなあ。」
葵衣は昔の同僚を思い出していた。
(いい感じになったかと思えば、付き合っている人がいて、結婚までしてしまった。懐かしい……わたしって、本当にクズばかりと出会うんだなあ。自分にも原因があるんだろうけど、もう少しまともな出会いがあってもいいんじゃないって思っちゃう。)
葵衣はヘッドギアをつけて横になる。
(菜月さんには、ゲームしないって言ったけど……ごめん、嘘なんだ。わたしはもう……数年前からこのゲームをやっている。
そう……わたしも憂さ晴らし……彼と一緒……前作から何も変わってない……でも……この世界は、わたしにとっては、新しい未来なの。)
葵衣は今日もログインして、憂さ晴らしに出かける。
◆
時は戻り、ダイスリー王国、中央の宿泊都市。
「わ、わたし、この部屋にします!」
ロットはホログラムをタップして、部屋を拡大する。
「お?決まったか、じゃあ、この部屋は自由に使ってくれ。」
ロットは部屋を登録した。
「本当にありがとう。わたし、アップデートしてから、ずっと孤独だったんだ。
新しいスタートをしたはずなのに、ずっと一人で。人と密に関わるのが怖くて。」
「…………じゃあ、そこまで真面目にならんでいいと思うぞ?ゲームなんだ、気楽にいこう。」
ロットはパッと明るくなる。
(花……異常なところが多いけど、なんというか、安心する。
真面目過ぎず、強制もしない。自由な人。
わたしも、こんなふうになれたらいいな……いえ、なるわ。わたしは、新しい未来に進むんだ!)
ロットは花を見つめたまま、心の中で声を出していた。
「ん?俺の顔に何かついてるか?こんなおっさんの不細工な顔見ても、ご利益のある顔じゃねえぞ?」
「は!えっと、ごめなさい!ぼーっとしてた!おっさんって、そんな歳じゃないでしょう!面白いね花って!」
「ん?少なくともロットよりかなり歳上だと思うがなぁ……知らんけど。」
「またまた〜、でも、わたしの周りにも、意外と歳なのに、見た目がすごく若い人いるよ。
看護師さんなんだけど、すごく細くて、可愛いの。ちょっとオタクっぽいけど、わたしと同じ目線になってくれるというか、話しやすいんだよね。」
「ふーん……ロットは歳上の友達がいるんだな。良いことじゃないか。」
「友達は大袈裟かな。向こうは仕事でわたしの相手してるだけだから……」
(ん?仕事でロットの相手……看護師?なら、ロットは患者ってことか?いや、同僚の先輩や知人っていう線もある。)
「あ!いけない!つい時間を忘れてた!もう帰らなくちゃ!今日は葵衣さんが検温だったんだ!
そ、それじゃあ花!今日は本当にありがとう!また、タイミングが合えば一緒にゲームやろうね!」
「あ、ああ、そうだな、じゃあ、またな。」
ダダダダ!
ロットは自分の部屋に向かうため走り出した。部屋に入るなりすぐにログアウト。
(聞き間違いか?今、検温って……やっぱり、ロットは入院中なのか?
いやそれより、何か引っ掛かる、なんだ?
俺は何をモヤモヤしてるんだ?)
花は、ロビーから、部屋に向かう。
正面のエスカレーターを登り、さらにエレベーターを登ってマスタールームという場所へ行く。
ウイーン……。
マスタールームの部屋が開く。
「す、すげえ。まるで大金持ちになった気分だ。」
マスタールームの中はかなり広い空間になっており、その中でもいくつも部屋がある。
一番奥の部屋に入るとそこにも広い空間があり、どうやらそこが個室で一番広い部屋らしい。
「広い、広すぎる。寝室も別だし、この個室だけで一軒家と同じか、いや。それ以上の間取りになってるぞ……」
花は、個室から出て、マスタールーム内にさらにエレベーターを発見する。
「まだ上があるのか?」
上に上がると、そこは、屋上庭園だった。
あたりは夜。
庭園内はライトアップされていた。
花はゆっくり歩きながら、庭園奥のベンチを発見する。
庭園の端のベンチ前に立ち、下を見下ろした。
すると、ダイスリー王国全土の夜景が目の前に飛び込んできた。
「すげえ……圧巻の夜景だ。
夜景か……そういえば、独身時代はよく夜景を見に行ったり、夜な夜な出かけたり……懐かしいなあ……」
圧巻の夜景を観ながら、花は県外の病院へ修行に行った時のことを思い出していた。
(ほんとに懐かしいな……ああ、あの頃はまだ未来があった……そう、まだ独身で…….中には良い感じの人も……あの時俺の目が曇ってなけりゃ……ん?………看護師………)
「あーーーーーー!!!!」
第二百二十七話 完
第二百二十七話を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
今回は、これまで謎に包まれていたリアルの人間模様や過去が大きく動く、大注目のエピソードでした!
まずはロット(菜月ちゃん)の現実での姿。大手術を乗り越え、担当看護師である「葵衣さん」との温かいやり取りや、花との出会いで「新しい未来に進む」と前を向く姿に胸が熱くなりましたね。
そして明かされた葵衣さんの壮絶すぎる過去……。モラハラ夫と身勝手な義母に追い詰められ、親権まで奪われてしまった現実の酷さに言葉を失うとともに、彼女もまた「憂さ晴らし」としてVR世界へログインしているという事実に運命を感じずにはいられません。
さらにラストシーン! 絶景の夜景を見ながら昔(独身時代の病院修行)を思い出していた花さん。
「検温」「看護師」「葵衣」というワードが脳内で繋がり……ついに過去の甘酸っぱい(?)記憶と現実の点と点が結びついた瞬間の「あーーーーーー!!!!」に爆笑と鳥肌が同時に押し寄せました!
「葵衣さんの過去が辛すぎる…救われてほしい!」「花さんの『あーーーーーー!!!!』で爆笑したw ついに気づいたのか!?」「花さんの過去の『良い感じの人』って葵衣さんのことだったの!?」など、たくさんの熱い感想をお待ちしております!
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ついに過去の記憶と「一ノ瀬葵衣」の存在に気づいてしまった花さん!
二人の過去に一体何があったのか、そしてVR世界での再会はあるのか――!?
気になる第二百二十八話も、どうぞお楽しみに!




