第二話 フルダイブ型VR
※この話には、結婚生活や家庭に関する個人的な体験が含まれます。
少し重たい内容ですが、物語上のプロローグとして読んでいただけると嬉しいです。
皆さんは、結婚ってどんなものだと思いますか?
好きな人と一緒にいること。
助け合って生きていくこと。
たぶん、どれも間違いじゃない。
これは、そんな「当たり前」を信じていた一人の男が、
現実から逃げ込むようにフルダイブ型VRにのめり込んでいくまでの話です。
皆さんは、結婚ってなんだと思いますか?
好きな人と一緒にいたい?助け合って生きていく?お互いの夢を叶えたい?タイミングが合って子宝に恵まれた?
、、、どれも正解だ。
俺は、、、自分の母親から理不尽な目に遭わされてきたから、結婚相手は家族想いの子が良いと決めていた。
そう、、、それは間違えてはいなかった。
俺の妻は、母親と二人暮らしで、その母親のことをすごく大切にしていた。
そして、近くに住む親戚たちとも仲良くしていた。
そんな妻を見て、スレてないというか、この人は家族を大切にするんだなと、付き合っている時も思った。
しかし、、、現実はそう甘くはなかった。
大切にする。は、妻にとっては依存し合う関係であり、あくまで小さな頃から慕ってきた親戚にのみ、であったのだ。
俺は、助け合って生きていけると思い込んでいた。
しかし、、、結婚して同棲した瞬間から悲劇は起こった。
付き合っている頃は、俺が仕事から帰る前に、俺の家にきて夕食を用意してくれていたりし、献身的な子と錯覚していた。
早く帰った方が夕食を作る。
共働きのためルールを決めた。
が、たいてい俺の方が早かった。
当然、夕食を作って待っている。
妻が帰ってくると、俺が作った食事を済ませて、俺が風呂掃除して沸かした風呂に入り、「じゃあ、もう眠いき、寝るき」
とだけ言って寝室に行く。
食器洗い、洗濯物、全てを残して。
翌日「うん、ありがとう」
この一言。
そんな日々が何日も何日も続き、9.5割俺がやっていた。
これは助け合いなのだろうか。
そこまでやらせていても何も思わない妻。
そう、、、実家暮らししか経験がないため、母親がやって当たり前の生活しか知らないのだ。
それでも、何度も諦めずに分担しようと言った。
人は変われると信じていた。
ふと、そんなことを思い出した。
◆
ピコン、、、
ゲームを起動。
夜中、妻も子も寝静まった。
誰もいないリビング。
ソファに横になり、ヘッドギアを付け、ついにゲームの世界へ。
「ん?ここは、、、」
辺りには、ホテルのロビーのような、洋風な雰囲気の場所。
手足の感覚、一通り動かしてみると、現実のようだった。
身体を触ったり叩いたり。飛んでみたり、どれも現実と同じ感触。
「これはすごい、、、リアル過ぎる!」
とりあえず受付に行く。
受付はもちろんNPCで一通りのチュートリアルだけ受けた。
俺にとってはチュートリアルなんて関係無かった。
そう
とにかく攻撃方法さえわかれば良かった。
街の外には初心者用から初心者の少し上まで網羅できるレベルの森が広がっている。
街は中世ヨーロッパのような街並み。
リアル時間とは異なる日とそうで無い日があり、まちまちの時間帯を経験する。
なかなか景色もよくリアルだった。
とりあえず、初手はスライム、ゴブリン、虫のような魔物、魔法に特化した魔物や、たまにアンデッド、一通りの種類の敵が出てきた。
どれもザコモンスターだった。
しかし、、、
俺は感動してしまった。
はじめはモンスターと対峙することに、正直ビビると思っていたが、武器を振りかぶってモンスターに当たる。これがまたリアルだった。
ズガッ!ドガ!バキ!
がぎゃーーという、モンスターの断末魔。
「全然疲れない!全然痛くない!これ、最高だ!」
ここでは、どんなにモンスターを攻撃しても、構わない、、、
どんなに八つ当たりしても構わない、、、
ストレスで壁を殴った時、手を痛めたことがあった。
そんなことも思い出し、このゲームに感謝した。
それから俺は無我夢中でモンスターを狩りまくった。
長年溜め込んでいたストレスをぶつけるかのように。
そして、、、毎日、仕事、家庭、ゲームのルーティンが出来上がり。
なんと俺はストレスを溜めなくなった。
そう
このフルダイブ型VRが俺を救ってくれた。
この爽快感、俺はなんと沼ってしまったのだ。
だから、ゲームの内容はそっちのけ。
次に進むことすら面倒。
誰かとパーティを組んだりするのも面倒だ。
ひとまず、冒険者登録だけはしないといけないらしく、モンスターを狩尽くしてゲームを終わる際。
換金するだけの作業。
これだけでも非常に爽快だった。
「あースッキリした!このゲーム開発した人、ほんとに天才だわ。まるで救いの神だ!」
いや、、、俺はただ現実逃避しているに過ぎなかった。
当然、現実は何も変わらなかった。
理不尽なことは毎日ある。
だが、
溜め込むストレスを吐き出すだけで十分マシだった。
「○ね!○ね!!○ねーーー!!!俺の気持ちなんてわかってたまるかー!馬鹿野郎ー!どうせわかんねえよあの馬鹿にゃあー!」
これはモンスターに発した言葉、、、と言うことにしよう(笑)
俺はなんと、ここから数年、このルーティンをひたすら繰り返すことだけに没頭するのだった!!
第二話 完
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
第二話は、主人公がなぜこのゲームに強く依存していくのか、
そのきっかけとなる過去の一部を描きました。
この作品は、
「ゲームで無双する話」でもあり、
「現実からどう向き合い直すかの話」でもあります。
次話からは、いよいよゲーム世界での描写が本格化していきます。
よろしければ、続きをお付き合いいただけると嬉しいです。




