第百二十五話 七夕
七月七日、七夕の夜。
王宮の屋上から見下ろす街明かりは、静かに二人の時間を祝福するように輝いています。
これまでの重苦しい時間から解き放たれ、花が選んだのは「今、自分に必要なもの」との対話でした。
アユとの絆が深まり、物語が新たな季節へと足を踏み入れます。
「花! できたのか?!」
「できました! しばらく工房を使わせていただき、感謝します」
花はハンマへアイテムの説明をする。
「ほほう、これは面白いな、これなら衣装チェンジをしても装着できる!
そしてこれもなかなか! アユの課題はクリアだな!」
「本当はもう少しハイテクにしたかったんですが、この短期間ではこれが精一杯でした。
多分、俺がまだまだ勉強不足なのもあると思う」
「そうだなあ! 花、もしかして武具屋とアイテム屋しか回ってねえだろ?
そこまで回るだけでも大したものだ! だかなあ! もっと行ったほうがいいところがあるんだ! 気づいたか?」
「ああ、気づいた。鍛冶屋だろ?」
「正解だ! 灯台下暗しとはこのことだ!」
花は、笑いながらため息をつく。
「試行錯誤して、完成した時思ったんだよ。
もしかして、こうして出来た武具やアイテムも、素材として分解できるんじゃねえか? とね」
「その通り! だが、お前の鍛冶スキルじゃあ無理だ! 最低でももう一つ上げないとな!」
「やっぱりそうか、だよな。じゃないとチート武器が次々とできてしまう」
「そういうことだ! だから、今の段階では最後の贈り物だと思うぞ?
それに……あの子のことを思うなら、これくらいで丁度なのさ!
あんまり武具やアイテムに頼ると、本人が成長しねえからな! ぶわっはっはっは!」
「ありがとう師匠。明日、渡してくる!」
「おう! しっかり祝ってやんな!」
◆
王宮屋上。
「ごめんなさい花、仕事が入ってかなり遅い時間になってしまったわ」
「なにも問題ない。今日は誕生日だ。仕事ではイベントだったんだろ?」
「ふふ、よくわかったわね。地元ではどこか飲み歩いているのかしら?」
「仕事の付き合いだけだ。自分からは行かない」
「本当かしら〜」
「言ったかもしれんが、あるはずの貯金が無くなってたんだ。そんな余裕はないな」
「奥さんのことね……悪く言うつもりは無いけど、一人で生きているわたしから見ると信じられないわ。きっと、生活費は花が養うものだと思っていたのね」
「いつの時代の考え方だよな、ほんとに」
「でも、家事も育児も花に色々させてきたんでしょう?
ふふふ、それって、花が頑張る比重があまりに多いじゃない。算数が苦手なわたしでも、それはわかるわ」
「一つわかったことは、物事を“点”でしか見てないってことだ」
「これが嫌だからやらない、だから任せた。これも嫌、だから任せた。
って、一つ一つ“嫌”をして行くと、結果的に花がやらなくちゃいけなくなるものよね。
ふふふ……ごめんなさい花、笑ったらいけないのに、ちょっとおかしくって……わたし、本当に性格悪いと自覚してるわ。
わたしは花の味方だから、どう転んでも。あなたが悪いと思えないもの」
「もういいんだ。どんなに伝えても変わらなかったんだ。
変わらないものを変えようとする時間はもう辞めたんだ。
そのかわりに、変わるものに賭けないといけないって気がついたんだ」
「例えば?」
花は一息ついて答える。
「誰と、どんな風に過ごすか。仕事、友人、趣味、そして家族、つまり人生さ。
無駄だと思うものに時間をかけない。
自分に必要と思うものだけを残していく。
なぜなら、時間は無限じゃなから」
「同感だわ………わたしも………何もかも失って、これからの人生を考えた時、出会う人、関わる人がどれだけ人生を左右するか、身をもって感じたわ」
「やっぱり、似たもの同士だな」
「花……今日は七夕よ。願い事は書いたの?」
「いや……ここ数年願い事は……」
「じゃあ、短冊、書きに行きましょう!
宮殿にイベント用の場所があるの! そこに行ってみましょうよ!」
二人は、宮殿内のイベントコーナーへ。
宮殿内は本来、一般プレイヤーは入れない。
だが、花はゴブリンキングを倒しているので、宮殿の出入りの許可が下りていたのだ。
巨大な笹が飾ってある。
「わたしは書けたわ! 今年の願い」
『自分磨きをする!』
「俺もできた」
『安らげる時間を過ごす』
「花、それって、今年どころか永遠の願いじゃない」
「だな。結局願うことってそれしかねえんだよな。
てか、アユはこれ以上どこを磨くんだ?」
「たくさんあるわよ! 見た目、性格、そして、魔法!」
「お! 魔法良いね! 面白そう!
見た目と性格はもう、十分すぎるけどな!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。なら、わたしの魅了にかかってよぉ」
「心配せんでも、効いてるから安心しろって。ちゃんと美人に見えてる」
(んもう! もう少し先まで効いてよね!
まあ、焦らない焦らない! 花には、花の事情があるもの)
◆
「アユ、願い事もしたし、そろそろ誕生日のお祝いしないか?」
シャ
アユの好きなワインを取り出す。
「え? ここで? まあ誰もいないからいっか! 景色もいいし〜」
巨大な笹の奥には中庭があり、そこから王都を見下ろす。
二人は乾杯をする。
「はい。これ」
「わお! 本当にプレゼント作ってくれたの?? 開けてもいい?」
アユは妖艶な雰囲気から一気に幼い雰囲気になった。ワクワクして目が輝いている。
「わあ! 綺麗なブローチ!」
アユのアバターにフィットする。
ステータスとのリンクを行い、アバター内(脳内)でのコントロールも可能になった。
「おお、わたしの顔の前にスクリーンが!」
「これは外からは見えない。自分が取り出したいものを視線や脳内でコントロールするんだ」
「他のアイテムたちと同じようにできるのね。凄い! 収納機能がついて……ん? 杖が2本入ってる!」
アユは選択する。すると目の前に杖が出てくる。
シャ
「ワオ! 便利ー! しまう時は……えい」
シャ
「もう一つの杖も……」
シャ
「おお〜、大きいー!」
「接近戦で何かあった時用だ。振り回してみ?」
ブン! ブブン! クルクルクルクル、ブォン!
「これは素晴らしいわ! 頭をかち割れそうよ?!」
……………
「お、思ったより操作が身体に馴染んでるような……
ま、まあ、何かの時に使ってくれ」
「あははは、わたし昔バトンやってたから、サイズは違うけどその応用よ!
ほんとにありがとう花!」
アユは、子供のような笑顔で笑っていた。
はしゃぐ姿を見て、花はとても微笑ましく感じていた。
「ねえ! 今からさっそく狩りに行かない?!」
「え? 今から?!……っしゃ! 行くか!」
第百二十五話をお読みいただき、ありがとうございます!
アユの誕生日を祝う花。二人の距離が少しずつ、しかし確実に近づいていく様子は、読んでいてとても温かい気持ちになりますね。いよいよ狩りへ向かう二人、どんな展開が待っているのでしょうか!
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