第百十六話 ガラス
過ぎ去ろうとする時間の中で、言葉にできない想いが積み重なっていきます。
沖縄での数日間は、夢のように濃密で、けれど確かに現実に根ざした温かさでした。
最後の時を惜しむように、二人は明日への道を語ります。
数年前。
「そういえば、指輪、つけないのね」
「………仕事で手を使うからね。無くしたら大変だから。それに当時より太ったし、サイズが合わなくなったよ」
(指輪……もうつけようとも思わない。
鎖で拘束されてるみたいだ。幸せでもないのに、周りに見えるように着けて、なんの意味があるんだ。
お揃いのものをつけているだけでもストレスだ)
◆
「わお、これはなかなか綺麗ね!」
「夜になると光るタイプか……月?」
「その下の方に。人がいるわ。これ、ビギナ大陸で王都を見ている時にそっくりだわ」
「…………これ、買おうかな」
「いいわね! このモチーフ、とても綺麗で、家族や大切な人へのお土産にはピッタリよ? きっと喜ぶわ」
花は即購入した。
「なかなかいい買い物したわね! ガラス作品はオリジナリティがあって、見るのも楽しいわ」
「ああ、来られて良かったよ」
「ご主人、なかなか目の付け所が良いねえ! このグラスは飾っても楽しめるから、二人で毎日楽しんでね」
その後も二人は工房を見て回る。
今度は風鈴やサンキャッチャーが並べられていた。
「ここも好きなのよね〜、よく一人でふらっと見にきたりするわ」
「いらっしゃい! 新婚旅行かい? いいのあるから見ていってね!」
「また新婚旅行……多いのか?」
「ええ、ここは新婚旅行や観光で多いわ。男女できていたら、たいていカップルか夫婦だと思われちゃうわね!」
「ぷっ、まじか。どう見てもカップルじゃないのにな。みんな勘違いしてるよ」
(二人で来てるんだから、カップルと思われるわよ普通は〜。それ以外にどう見えるっていうのかしら?)
花は、娘にもキーホルダーを購入。
(あの子はまだ俺のことを好いてくれてるからな、きっと喜ぶだろうなあ。それが唯一の楽しみだ。けど……大人になったらあいつみたいになるんだろうか……)
アユは窓際のサンキャッチャーを見ていた。
「これ買おうかなあ、とても綺麗〜」
「良いんじゃないか?」
「どう良いのかしら〜?」
「なんか、こう……明るい気持ちになれるというか、うまく言えんが」
「あははは、感覚を言葉にするのって難しいわよね?
ごめんなさい、いつも『良いんじゃないか?』って同じ反応だから、意地悪しちゃった!」
「ワザとか! まあ、俺もあまりコメントが上手くないから、いつも『そっけない』って怒られるんだよ」
「目に浮かぶわ。その、怒るのって、リサちゃんでしょう?」
「な、なんでわかるんだ?」
「わかるわよ。わたしには……」
(だって、あの子もきっと……)
「買ってくるから、ちょっと待っててね。このお店で終わりだから、この後少し移動しない?」
「わかった。時間的にもそうなるか……」
◆
二人は海の見える展望台で、のんびりした。
「ほんと、この数日は、夢のようだったわ。
ゲームの知り合いと会うなんて、しかも花と会うなんて、思いもよらなかった……」
「だな。こっちの魔力も、破壊力凄かったとはな」
「あら? なんの破壊力ですって?」
アユは花の前でポーズをとる。
「お、おい! 胸元を強調すな!」
花は顔が赤くなり、視線を逸らす。
「ちょっと〜、これだけ一緒にいるのに、まだそんな初々しい反応するの?
ふふふ。ほんと、花といると飽きないわ。
ねえ、こっちに異動は無いの?」
「んー、そうだなあ。希望を出せば、出来ないこともないが……」
花は真剣な顔で、その時考えた。
それをみて、アユはクスッと笑う。
「ごめんなさい、また意地悪言っちゃった。
無理なんでしょう? 所長さん、『あいつは必要な人材だ! ガッハッハー!』って言ってたから……本社に残らないといけないのよね?」
「ああ。所長はいつも褒めてくれる。本当にありがたいよ。けど、俺が会社にとって必要とされているかは、社長を含めると、正直どう思われてるかは微妙なんだ。でも、今の仕事を誰かに引き継がない限り、自由にはならない。まだ、下が育ってないから……」
「けど、今回は幹部として来たんでしょう? あなたも中心人物の一人に見えたわよ?」
「ふ。なんでかいつも俺がそこに入ってるんだ。けど、俺だけそのポストの役職はついてないんだよな。仕事はその位のものがふってくるけどな」
「それは、もう幹部も同然じゃない〜。
そっかぁ、花はしばらく地元なのね〜。つまんないなぁ。近くにいれば、いつもこうして会えるのに、残念だわ」
「だな。俺も、もしこっちにいたら、多分アユとばかり会うだろうなあ。
こんなに素で話せる人は、今は近くにいないんだ。
この数日、それを実感したよ」
「あら、なんて嬉しいことを言ってくれるのかしら、ふふ。わたしに『魅了』を使ったわね?」
アユが笑いながら意地悪そうに言う。
だが、花は困り顔になって笑った。
「ぷっ。そうかもな……もし、今独身だったら、ダメもとでもアタックしてたよ!
多分、俺は色々勘違いしてんだろうなあ。カッカッカ!」
(んもう! 今そうなったらダメなのはわかってるけど、少し勘違いしてるくらいで、ちょうどいいのにー!
恋愛まではいかなくても、それでも、なかなか心の距離が遠いんだから花はー!)
「ん? 何か言ったか?」
「え?! いえ、なにもー。
ねえ花?
もういろんなこと、あれこれ考えずに、少しくらい勘違いしてる方が、幸せなんじゃない?」
「………たしかに……そうなのかもな………」
ガシッ!
アユが花の手を強く掴んだ。
「!? お?? どした?」
「何が起こっても、わたしはあなたを嫌いになったりしないからね。それだけは、信じてね?」
アユは、掴んだ手を離し、花の胸に、トンと拳を当てる。
花は、安堵の笑みを浮かべて答えた。
「ああ、ありがとう。信じるよ」
さりげなく、軽くアユの頭にポンと触れた。
それから、いつもの掛け合いをしたり、二人はお互いに笑い合って、車に戻った。
「あ、バッグ持ってて! わたし、飲み物買ってくるね」
アユは近くの自販機で飲み物を買う。
その間に、花はアユのバッグを車に乗せて、エンジンをかけて待っていた。
「お待たせ〜、売り切れてたから少し向こうまで行ってたわ。はい、どうぞ」
「サンキュー! じゃあ、送ってくな」
アユは、帰りながら、もし次に花が沖縄に来た時に行ってみたい場所などを話した。
花も、興味津々で話を聞いた。
沖縄は、花にとっても修学旅行で思い出もあり、好きな場所だったのだ。
「ふふふ。けど、飛行機が苦手だったとはねぇ。ゲームでは、あんなに飛んでるのに!」
「だ、か、ら、ゲームは死なないだろ? 実物は怖えんだよ」
「あははは。そのギャップが、ツボなのよねー!」
「ぐっ! おちょくりおってぇー!」
終始、笑いの絶えない二人。
だが、現実の時間はあっという間に過ぎていった。
アユの自宅の駐車スペースへ到着する。
「また向こうでな、沖縄は暑いから、身体に気をつけろよ?」
「ぷっ。バテバテの人が誰に言ってるのかしら〜? 花こそ、色々無理しないでね……ちゃんとわたしが味方だ、か、ら、ね?」
「おう、心強いよ。じゃあ……」
「あ! 花! ちょっと前見て! あそこ!」
「ん? なんだ?」
花は頬に一瞬、何かが当たるのを感じた。
!?
「な?!」
「ふふ、また引っかかったわね。じゃあ、気をつけてね」
そう言って、アユは車を降り、手を振った。
花は、静かに車を走らせ、皆の待つホテルへ戻っていった。
車内で一人、この数日のことを走馬灯のように思い返すのだった。
第百十六話 完
第百十六話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに沖縄編、結びの時となりました。
最後の「いたずら」には、誰もがドキッとしたのではないでしょうか。
二人の心が、確かな「味方」として繋がった瞬間を感じていただけたなら幸いです。
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