第百十四話 グレーだとしても
夜風が、二人を包み込みます。
都会の喧騒から離れた屋上の庭園で、言葉にできなかった迷いが、少しずつ形を変えていく。
白か黒か、正しいか間違いか。
そんな問いさえ忘れてしまうほど、ただ触れ合う手のひらが伝えてくる、静かな「安心」についての対話です。
(え!? アユ? いやいや、それは……)
花の気持ちが追いつかないことをよそに、アユは花の手を掴む。
ガシッ!
アユはニカっと笑う。さっきと同じ、子供みたいな笑顔だ。
「ふふ〜ん、もたもたしてるから、掴んじゃったわ」
「お、おい」
「いいじゃない、これくらい……すごく落ち着く……うん……全然違う……ただ、手を繋いでるだけなのに……」
花も、不思議と落ち着いていた。そして、お互いに気がついていた。
「花……『安心できる』ってこういうことなんじゃない? それは、わたしもなんとなく今わかった。
あなたとゲームの中で冒険してるとき、なんとなくだけど、不思議と安心感があった。
花……すぐに白黒つけなくていいんじゃない?
今、全てに白黒つけてたら、何十年後の未来の白が、黒になっちゃうでしょう?
だって、あなたが求めている『安心』って、どれも今は黒だもの……だから、今全て黒一色にするんじゃなくて……白の可能性を切るんじゃなくて……グレーだとしても、白になる可能性があるなら、上手に生きてみてもいいんじゃないかしら?」
花は少し沈黙して答えた。
(こんな俺が……そんなこと求めていいのか?
こんな俺が、数十年後の未来に、誰かと幸せになるなんて、望んでいいのか?
そんな気持ちで、生きてもいいのか?)
花は葛藤していた。不遇の人生。
繰り返してきた絶望。
そして今も詰んだ人生。
何かをやりきり、そして、捨ててこそ得られる自由。
その選択肢以外……『誰かと幸せになってもいい』
アユは、花にそんな選択肢もあると示してきた。
「なんだか、心の中を全て覗かれた気分だよ。
俺がモヤモヤしてること、こんなに言葉でわかりやすく言えるなんて……」
「わたしも、たまには役に立つでしょう?」
「とんでもない……感謝しかないよ。ありがとう」
「わたしの方こそ。花には感謝してるわ」
「俺に?」
「さっきも言ったけど、わたしには家族がいない……けど、花はこうしてわたしと少しでも時間を過ごしてくれる……わたしにとって、信頼できる人とこうして触れ合うのって、婚約破棄以来なかったの……だけど、今日一歩を踏み出せた。
本当に感謝してるわ」
「俺たちは、似たもの同士なのかもな。境遇や求めるものは違うけど」
「ええ……似てるわ。だから……これからも、仲良くしてね、は、な、さん」
二人の共通点、それは『安心感』だった。
生きていく上で、関わる人との信頼、そして安心感は、欠かせないもの。それは、恋愛も、家族も、友達、仕事、あらゆることにおいて重要だと……
二人はこの時、強く実感したのだった。
第百十四話 完
第百十四話をお読みいただき、ありがとうございます!
アユの言葉に、花の心がゆっくりと動く様子が描かれました。「白黒つけなくていい」「グレーのままでもいい」という考え方は、今の花にとって、未来を照らす小さな灯火になったのではないでしょうか。二人の間に流れる空気が、これまでよりもぐっと深まったように感じます。
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花の抱えるトラウマや劣等感に、アユが寄り添う姿は本当に素敵でしたね。もし「二人の距離感に胸キュンした」「アユの信頼の深さに感動した」と思ってくださった方は、ぜひ下部の**評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)**やブックマークをお願いします!皆様の応援が、執筆の何よりの活力です。
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