第百九話 やり直したい
夜景の見えるベンチで、静かに語り合う二人。
話題はやがて、昼間に起きたあの騒動へと移ります。かつての自分と重なるタクへの複雑な想い、そして「やり直したい」という切実な願い。現実の夜風に吹かれながら、花とアユの絆は、ゲームの中とはまた違う確かな温度を持ち始めます。
コンビニで少し買い込んで、展望台に到着する。
少し歩き、ベンチに腰掛ける。
海と夜景が見渡せる、静かな場所だ。
買い込んだ飲み物を手渡して乾杯する。
「まさか、本当に花と会うとは思わなかったわ。おかげで、花の住んでるところ、わかっちゃった〜」
「アユから見れば、田舎の中の田舎さ。本当に何もない。これという大きな商業施設もなく、どれも中途半端だし。ていうか、なんでわかったの?もしかして、所長?」
「そう、あのイケイケの! 来週には部下を連れてくるからなーって言ってたから、まさかと思ったけど、ビンゴだったわ。なんとなく、そんな気がしたの、勘だけど」
「すごい勘だな。まあ、俺も今日は冴えてたな」
「あ! それよそれ、ちょっと教えてくれる? いったい何があったの?」
花は、一連のことをアユに話した。
「すごい偶然ね。まさか、その二人が遭遇する現場に鉢合わせるなんて」
「俺も驚いたよ。というか、スイーツの順番待ち頼まれる時点で驚いたけどね。今時の子、恐るべし」
「あははは、先生と間違えられたんでしょう?
歳の差があると、こんな珍事件があるのね。その時のあなたの顔、見てみたかったわ」
「ああ、こんな顔だったよ」
その時の反応をやってみせる。
「あははは! んもう! 笑わせないでよー、吹きそうだったじゃないー!
……でも、間一髪だったね。花がいなかったら、どうなってたことか」
「ああ、あれはマジな目してたよ。透明感のある顔が、目をギラギラさせてな。ありゃ怖えわ、普通」
「けど、見事に誰も傷つけずにおさめたね。さすが花。わたし、花のそういうところが凄いと思うわ。
正義感がありすぎる人だと、つい、相手を敵扱いするじゃない?
けど、花はそういうことしない。
タクにすら、なんらかの感情を持ってる気がするもの」
「やっぱり、そう見えるか?
アユはすごいな、さすがは魔女。
そう、その通り。俺は、タクをそこまで悪いやつとは思ってないんだ。
見た目は違うが、昔の俺を見てるみたいなんだよな。まだ未熟っていうか、自分の価値観しかわかってねえというか。
だから、リサも守りたいが、タクにも、今大きな失敗をして、その先の可能性を無にしてほしくねえんだ」
「……二人がくっつく可能性を、完全には消さないってこと? 何のために?」
「チャンスだよ。ここで完全に切れたら、もうタクにはチャンスが無くなっちまう……チャンスがねえってのは、マジで絶望だ。
俺は、何度も絶望を経験した。
その時の俺では到底叶わないのに、無謀にもチャレンジして、そして、二度とチャンスが無い状態になってしまうんだ。
けど、それがもし、今くらい成熟したタイミングだったら……落ち着きと視野があれば、同じ失敗でも、まだマシな展開になったんじゃないかって、時々思うんだ」
「タクは、まだその時じゃないってことね?」
「ああ、今のあいつじゃ、嫌われる未来しかねえ。そんなあいつを見てると、悲しくなっちまうんだ。
ああ、今じゃねえ。ああ、もっと心が大きくなってから接してやらねえとダメだ、ってな。
ランスは単純にタクを退けることを考えてるだろうが、俺は違うんだ」
「あわよくば、タクを救いたい。そう思っているってこと?」
「ああ。その通り。うまくいくかわからねえが、タクはリサが好きだ。それは見ればわかる。今日も必死で追いかけてた。
けど、今の下手くそなタクが行動しても、何も誠実に伝わらねえ」
「それを、気づかせて、成長へ導く。ということね?
花……やっぱりあなたは優しいわ」
花は首を横に振る。
「いや、俺は……過去の自分に対して、やり直したいだけなんだ。きっとな。
だから、似た失敗をしそうなやつを目の前にすると、どうにかして克服させたい。
その失敗をさせなかったことで、過去の自分が、なんか報われた気がするんだよな。
めっちゃ意味わからんわな、すまん」
「いいえ、なんとなくだけど、言いたいことは伝わってるから大丈夫。
ふふ。リアルでも、なんだかゲームの中にいるみたい。ねえ、遠慮せず、もっと話して?
こんな時間、滅多にないわ」
「今のタクは、とにかく猪突猛進なんだ。ファンへの対応を見る限り、本来、仕事も真面目でストイックだ。多少気性の荒さはあるかもしれないが、多分、熱いやつなんじゃないかと思う。
まあ、勘だが。
もし、次にあっちで攻めてきたら、PKじゃなくて、諌めてやろうかと思ってる」
「ふふ、ほんと、おせっかいね花は。けど、それがある意味自分の気持ちでもあるなら、わたしも応援する」
「わけわからないよな? ただ、追い払ってもモヤモヤするだけだと思うんだ。
だから、お互い納得いく形に持っていきたい。
誰かの可能性を、無惨に貶めるんじゃなくて……もちろん、あいつの本性が、ズレたヤバいやつだったら、お構いなしにやるけどな」
「今のところは、まだ、『可能性がある』ということね。上手くいくといいわね」
「そうだな。たかだかゲームだが、ここまでリアリティがあって、世界中と繋がれる。
現実じゃできないこともできるんだ。それを活かす。
もっと強くならなきゃな」
「あら? まだ強くなるつもりなの? 化け物みたいな破壊力なのに」
アユは大笑いしている。
「俺の防御は紙切れらしいからな。けど、いまいち防御にステ振りしようと思わねえんだよな。だって……」
「『憂さ晴らしに、関係ないから』でしょう?」
「ぷ。よくわかったなあ!」
「わかるわよぉ。あなたほどわかりやすい人は見たことないわ。しかも、わたしもそうだもの。魔力ばっかり!」
「さすがは魔女! 魔法か……興味はあるんだよなあ、憧れもある……」
「じゃあ、向こうの大陸に行ったら、魔法も覚えたらどう? 花は、ノーマルアバターのヒューマンなんでしょう? 多分、何でもスキル取れるんじゃない? ジョブ持ちより威力は落ちると思うけど、使えると思うわよ?」
「そうなのか? てっきり魔法使いしか使えないのかと思った!」
「基本的には誰でも習得できると思うわ。ただ、ジョブによって威力や、MPが違うんだと思う」
「よし、なんか面白くなってきたぞ。女将のイベントで、MPも上げなくちゃな!」
しばらく二人はいつも通り話をして笑い合った。
「そろそろ時間だな。行くか」
車を走らせて家まで送る。
「今日は本当に楽しかったわ。また、会えるかしら」
「まあ、生きてりゃ会えるだろう。多分な」
「んもう! いつもそっけないんだから! あ! 花、目の前に虫がいるわ」
アユが指差す方を向く。
すると、頬に何かが一瞬だけ当たった。
「ちょ、おま、何を??」
「あら、可愛らしいものでしょう?
じゃあ、またね花!」
そう言って、車から降りて手を振る。
(沖縄初日、なかなか濃い一日だったな。まさか……現実でみんなに会うことが、あるもんなんだな)
現実とゲームが混同する中、現実は変わらず流れていく。
しかし、確実に現実にも影響を与えていた。花はまだ、そのことに気がついていなかった。
第百九話をお読みいただき、ありがとうございます!夜の展望台で明かされた、花の「おせっかい」の正体。それは、かつての自分と同じ過ちを犯そうとする若者への、不器用な救済の形でした。花の深みのある人間性がアユに伝わり、二人の距離がぐっと縮まった瞬間の頬へのキス……。読んでいるこちらまでドキドキしてしまいました。
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現実の壁を抱えながらも、ゲームでの絆を糧に歩み出す花。そんな彼に、アユが送った「可愛らしいもの」の余韻。もし「花の過去に涙した」「アユの最後のアプローチが可愛すぎる!」と思ってくださった方は、ぜひ下部の**評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)**やブックマークをお願いします!皆様の応援が、物語をさらに輝かせます。
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