第百七話 沖縄の夜
一日の仕事を終え、誘われるままに足を踏み入れたのは、夜の街に佇む高級クラブでした。煌びやかな空間で花の前に現れたのは、息を呑むほどに美しい一人の女性。彼女が耳元で囁いた言葉に、花の心臓は大きく跳ね上がります。
本社から幹部を招いて、事業者に挨拶をした。
少しの緊張が走る。
相変わらず、責任者はこちらに胡麻をすってくる。
(このタヌキが、まあ落ち着け、明日の面談で全て丸裸になる。)
初日は挨拶を済ませて、本社組はその後飲み会となる。
ご当地や、所長のおすすめの店は全て当たりであり、皆満足した。
その後はもちろん、夜の街へ繰り出す。
花は妻の地元での出来事から酒が飲めない状態になったため、運転手を引き受ける。
「やっぱり那覇は都会ですねー!」
観光客も多く、皆テンションが上がっている。
「今日は、お前らにおすすめの店がある!」
所長の先導に皆ついていく。
そこは、高級クラブだった。
(こ、ここ?!え、俺たちが入って大丈夫か??)
皆、ついていくため、花も続けて中に入る。
煌びやかな店内、ちょっとしたステージや、ピアノも置いてある。
とある一角にまとまって座った。
所長は自分のお気に入りを指名。
「花峰!お前は酒が飲めないのに、運転手でよく付き合ってくれた。ここに、とびきりの子がいるから、指名してもいいぞ!」
それを聞いた周りは自分こそはと名乗り出るが、それは制される。
「お前らはどうせ酔っ払うんだからダメだ!
どうだ、花峰?」
「で、では、お言葉に甘えて、お願いします。」
所長はニカっと笑い、指名した。
(てか、俺、シラフで大丈夫だろうか。いつもより高級そうだし。俺なんかに指名って勿体無いよな。)
「こちらでよろしいでしょうか?」
「おおおお!」
皆、やってきた子に面食っている。
とびきり若いというわけではないが、明らかにレベルが違っていた。
整った顔に、妖艶な雰囲気。スタイルは抜群だった。
(え?これはレベルがヤバすぎるだろ……俺、何話せばいいんだ?)
花は、一瞬だけ見て、直視できずにいた。
「はじめまして、アユです。お名前を聞いてもいいかしら?」
「は、花峰です。」
「あら、そう!……なら、花ちゃんって呼ばれてたりする?それとも………"は、な、さん"の方が、馴染みがあるかしら?」
クル!
花は、それを聞いて、初めて彼女の方を振り向いた。
花は固まっている。
(こ、この話し方、声……この顔……)
ニコ。
「どうも、はじめまして、は、な、さん。」
(ま、ま、ま、まさか!)
花が驚いていると、アユは人差し指を口に当てる。
(え?秘密のサイン?やっぱり、アユなのか?)
まだ確信が持てずにいたため、大事にしない方向で話をすることになった。
「今日は、どんなご予定でこられたのですか?」
慣れた手つきでお茶を差し出す。
「あ、あの、俺まだ注文してな……」
「お酒は確か……飲めないとお聞きしてましたが、違いましたか?」
(な、なんで知ってるんだ?所長か?)
「所長から、聞いたのですか?」
「ええ、まあ、そんなところです。ふふ」
花はテンパってしまい、何を話せば良いか混乱していた。
「ふふふ、そんなに緊張しないでください。
"いつもの花さん"で接してほしいわ。」
周りからすると、普通の会話に聞こえるだろう。しかし、この意味深な会話で、少しずつ確信に変わるのだった。
ここで、アユがステージに呼ばれる。
花は、何も言えずに、静かに見送った。
「おい!お前についてる子が歌うぞ!
よく聞いとけよ!すごいからなあ!」
ピアノの前奏が流れる。
(こ、これは、あの歌手の、若い頃の代表バラード!教師と生徒のラブストーリー…ドラマの主題歌だ!)
アユは静かに歌い始める。
騒いだりイチャイチャしていた客も、皆アユの歌に釘付けとなる。
普通はキャストたちは嫉妬するものだが、アユは桁違いなため、この時ばかりはむしろ休めると、他のキャストにとっても好都合なのだ。
サビも、全く外すことなく、むしろ本人に匹敵するレベルで歌いこなす。
(こ、この歌唱力……もう間違いない、アユだ!)
最後まで歌いきって、大きな拍手に包まれた。
その後は、また店内は元の雰囲気に戻る。
そこに、アユが帰ってきた。
花は驚いており、固まっている。
ガバ!
(え?!)
アユは座りながら、花に抱きついた。
周りからも、よくわからない雄叫びが聞こえてくる。
少しハグした後に、また座り直す。
アユがニッコリと笑った。
「花!会えて嬉しい!」
なぜだか、アユの目はウルっとしていた。
花は、もう観念したという感じで、素を出すことにした。周りは夢中になっており、花に気を取られてはいない。
ガシ!
花はアユの顔を両手で掴んだ。
じっと顔を見る。
スタッフが駆け寄ろうとするのを、あゆがジェスチャーで、しっしっと払う。
「ふふふ、ね?わたしでしょう?よ〜く見てね。こっちも悪くないでしょう?」
花は、スッと手を離す。
「はぁ……参った。本物だ。まさか、アユにも会うなんて……今日はどうしたんだ。」
「おーい、わ、た、し、の感想は?」
「………参った。降参だ。」
「なにが、降参なのかしら?」
「だから、びっくりするくらい、可愛いってことだ!」
「ふふ、嬉しい〜。」
そう言って、花の腕に絡まってくる。
「お、おい、それはまずいんじゃないか?」
「全然平気、わたしが勝手にしてるんだもん、スタッフの忠告なんか無視無視〜。」
「アユは、自由にやってんだな。さすがだな。」
「こんなにあからさまにするのは、はじめてかも。あなたの影響よ?
ところで………やっぱり、向こうとこっちでも、見た目は若いわね、イメージ通りだわ。」
「俺はアユみたいに飛び抜けてねえからな。普通のキモイおじさんだよ。」
「あ!またそんなことを!人は見た目じゃないぞ?」
「このなりで全然説得力ねえんだけど!」
二人はいつもの掛け合いで笑っていた。
「そういえば、さっき、意味深なこと言ってたけど、まさか、リサちゃんに会ったの?」
「………ああ、ちなみに、タクにもな。」
!?
アユは驚いて目を見開いた。
「だ、大丈夫だったの??」
「ああ、もう漫画みてえな展開だったぜ。また今度詳しく話すよ。」
「今日は?会えないの?」
「ぷ、流石にゲーム持ってきてるわけねえだろ〜」
「ちがうわ……こっちで……」
「…………いいのか?」
「まったく問題ないわ。ここは沖縄、わたしを束縛するものは何もない。」
「今日は、送迎なんだ。みんなを送って行った後なら、時間は作れそうだ。それでも大丈夫か?」
「ええ、問題ないわ、わたしもこの後も仕事だから、あなたたちがハシゴしても、ちょうどの時間になると思うわ。」
「じゃあ、またみんなを送っていったら連絡するよ。」
「すごく楽しみ、まさか、本当に会えるなんて思ってなかった。」
「おい、俺は冴えないおっさんだぞ?
ゲームみたいにチート技も使えん。お前みたいなレベルの子を、完璧にエスコートなんてできんから、あんまり期待するなよ?」
「まーた、そうやってー。こっちじゃいつもそんな感じなの?別にそんなの気にしなくていいのに……でも、色々あるよね、現実は。
でも、今日はゲームの中にいるみたいに、楽しく話さない?」
「………わかった。ありがとうアユ。また後でな。」
こうして、沖縄の夜は幕を開けた。
第百七話 完
第百七話をお読みいただき、ありがとうございます!タク、リサに続き、ついにアユとも現実で繋がった花。高級クラブというステージで、最高のパフォーマンスを見せつけた彼女の姿は、まさにゲーム内の「歌姫」そのものでした。
花の腕に絡みつき、「会えて嬉しい」と瞳を潤ませるアユ。二人の「アフター」は一体どのような夜になるのでしょうか……。
【読者の皆様へお願い】
現実世界で加速する再会の連鎖。アユの積極的なアプローチに、たじたじの花。この二人の「大人の時間」にドキドキした方は、ぜひ下部の**評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)**やブックマークをお願いします!皆様の熱い応援が、沖縄の夜をさらに熱く彩ります。
【コンテスト&他作品告知】
現在コンテストに参加中です。皆様からいただく一票が、花島さんの情熱を支えています!
また、圧倒的な力の差を覆す逆転の物語
『Ultimate Wars 〜 才能なしの人生だった俺、宇宙の危機で人類の切り札になる 〜』
(Nコード:N6980LM)
こちらも運命が激しく火花を散らす展開が続いております。本作とあわせて、ぜひチェックしてみてください!




