第百六話 なんとなく
騒動のあと、走り去る一台の車。リサはその車に乗り込もうとする男の横顔に、ある「確信」を抱きます。思わず叫び、駆け出した彼女でしたが……。現実と仮想、二つの世界を繋ぐメッセージが、震える彼女の心を優しく包み込んでいきます。
「リナ!どこ行ってたの?タクも追いかけて行ってたけど、ちゃんと会えたの?久しぶりの同僚でしょう?」
「う、うん。会えたよ。」
「スイーツも買えて良かったじゃん!けどさあ、わたし、あの人先生だとばかり思ってたけど、全然違ってた!ごめん!」
(え?なら、なんで、あの人わざわざわたしを助けにきたんだろう……あ、そうか、バッグに名前書いてあるから……いや、そこじゃなくて……見ず知らずの人が、わざわざ助けに来る?……………わたしは、ただ走っていただけ。
その後ろをタクがただ走っていく。その光景だけで。わざわざ追いかけてくるものなの?
スイーツが呼ばれたから?
……………しかも、あんな演技までして?
どう考えても、わたしの事情をすぐ理解できる人じゃないと、わざわざ助けないよね。だって、カップルの喧嘩かもしれないし、わざわざ止めるかなあ。)
リサは頭の中をフル回転させていた。
バスに乗り込むまでの数分、もはや友達の声は耳に入らなかった。
バスのすぐ後方、反対側に車が止まる。高口が窓を開けて大声で叫んだ。
「花峰さーん‼︎着きましたよー‼︎おーい!聞こえますか、花さーん‼︎」
(恥ずかしいからやめろ‼︎)
「ああ。すぐ行く。」
花はサングラスを外して車に乗り込もうとする。
(あ。さっきの人だ。………花峰?花さん?………まさか!)
ガバ!!
リサは列の輪から抜け出して、後方の車に乗り込む人を見た。
「あ!あの顔って!ええい!間違えてもいい!
おーーーい!あのーー!待ってくださいー!!」
ビク!
花は乗り込む一瞬、横目でチラッと見る、そこにはリサらしき女子高生が、少し離れたバス前の集団からこちらを見ていた。
ダダダダ!
リサは走り出した、花の元へ行こうとする。
すかさず、花は車へ乗り込む。
「高口!早く出せ!」
「了解!」
「あ!」
ドタン!
リサは転んだ。
先ほどの恐怖で足がもつれやすくなっていた。
「おーーーい!なんで逃げるのーー!?おーーーい!花さーーん!!」
リサは必死に叫んだ。
「は、花峰さん、後ろ、めっちゃ可愛い女子高生が何か叫んでますけど、いいんですか?
呼んでるの、花峰さんじゃないですか?」
「いや、人違いだろ。多分。そんな別嬪が俺を呼ぶはずがない。」
(そう。俺は会っちゃいけないんだ。相手は女子高生だぞ。)
「ちょっとリサ!大丈夫?なに叫んでたの?
あの人誰?」
友達らが駆け寄ってきた。
「大丈夫?ハザマさん!あ!もしかして、花って、ゲームの人??え?まさか、現実で会ったの??」
「わからない……そうなんじゃないかなーって思っただけ……」
「え?憶測で叫んだの?あんたやるわね〜!」
「や、やっぱり人違いかな?ま、しょうがないか……けど、あの人に助けられたなあ…」
バスの中でリサはぐるぐる考え込んでいた。
そして、タクを目の前にして、足がすくみ、覚悟が全然できていなかったことも考えていた。
(花さんに、メッセージ、送ってみよう。
もう、落ち着かないよぉ。)
ピコン
(ん?アプリのメッセージ?……リサからか)
『修学旅行で、タクがいた。』
花は、メッセージをちゃんと返してほしいというリサの言葉を思い出した。
『なに?!修学旅行に?!大丈夫だったのか?!』
(あ!花さんからだ!早い!短文だけど、記号も増えてる。)
『追いかけられて、怖かったよぉ。
けど、見ず知らずの人が助けてくれたんだー!
先生だと思ったけど、違う人だったからびっくりしたよぉ。』
『助けてくれて良かったじゃないか!どこにいるかわからんから、他の友達らと一緒にいた方がいいぞ?』
『うん、そうするね。ごめんね急に。
どうしても、モヤモヤしちゃって。
事情を知ってるのが、ゲーム内のメンバーだけだからさ。』
『俺は構わん。さっきものんきにスイーツ食べてたからな。』
『こんな日中に??いったいどんなことしてるの?』
『それは秘密だ。
まあ、さしずめタクはロケかなんかだったんだろ?
まだ数日滞在する可能性があるから、気をつけろよ。何かあったらまたメッセージくれ!』
(くれって言ったって……ここ、沖縄だよ?)
『もしピンチだったら、飛んできてくれる?ALOのときみたいに』
『ああ、本当にやばいなら行ってやる。だから、無茶すんなよ。』
(現実的に無理なことを約束する人じゃない…だとすると…やっぱりこっちにいるのかなあ。確か、仕事で行くとかなんとか言ってたっけ?
もしいるなら……会いたいなあ)
一波乱ありながらも、花のアシストにより、無事に逃げ切ることができたリサ。
メッセージで、花はリサの存在が確実になった。
だが、リサはまだ確信は持てていなかった。
『まあ、基本的に、みんなといれば大丈夫だ。
一人になるタイミングだけ注意しろ。
だから、残りの時間は、悔いなく楽しめ!』
(ぷ。花さんらしい。ふう。少し落ち着いた。
確かに、集団行動してたら大丈夫だよね。
流石に一般人相手に本気にはならないだろうし。
やっぱり相談してよかった!)
リサは意外と能天気なので、花とのやりとりで心持ちが元に戻った。
残りの期間、無事に過ごせるだろうか?
第百六話 完
第百六話をお読みいただき、ありがとうございます!沖縄の太陽の下、すれ違う車の中でリサが叫んだ「花さん!」という声。届いているはずなのに、あえて「人違いだ」と自分に言い聞かせる花の姿が切なくも格好良かったです。その後のメッセージのやり取りで、少しずつ「おじさん」なりに文面を工夫する花の優しさが、リサの心を一番に癒やしてくれましたね。
【読者の皆様へお願い】
現実の距離は近くても、立場をわきまえて一線を引こうとする花。ですが、リサの心はますます彼に惹きつけられているようです。もし「花の不器用な優しさが好き!」「二人のやり取りにニヤニヤした」と思ってくださった方は、ぜひ下部の**評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)**やブックマークをお願いします!皆様の応援が、二人の距離を縮める魔法になります。
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