51.晴と英雄 3セット目①
3セット目に進もうとする前に、空間に電子パネルが浮かび上がった。小休憩するためのタイムを意味するパネルだった。仮想空間が解除されて現実世界に戻ってきた。
ステージにルリッチが上がり、飲み物を英雄に渡していた。
「ハレルさん」
ぼくの下には、去田さんが飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「ルリッチさんがタイムを使いました。ハレルさんもデバイスからタイムを使えます。セコンドからタイムは使えますが、私から判断は難しいです。すみません」
「いえ、ありがとうございます」
他を見てもセコンドを呼んでいたテスターは英雄だけ。本番の想定と聞いてセコンドを用意することまで頭に入っていなかった。
タオルで汗を拭く。
「去田さん、アドバイスありますか?」
去田さんは顔を振る。
「私なんかがアドバイスなんて! ヒロスケ選手にラウンドも取っていますし問題はないかと。ただ」
視線をそらし、去田さんは言葉を選んでいた。
「気づいたことがあったらお願いします」
「ヒロスケ選手は押しの強いプレイヤーです。ダメージ量の多いコマンド技を使って、圧倒したり一発逆転を狙えるプレイスタイル。でも、これまでのプレイは様子見をしているように見えました」
「様子見?」
ぼくは英雄のキャラクターと向き合っていた。その時に感じていたプレッシャーは相当なものだった。
第三者の視点からすれば、様子見程度だったのかもしれない。
「すみません、具体的なことも言えず」
「いえ助かりました。行ってきます」
タイムの時間が終わる。ステージの定位置に戻り、デバイスに触れて準備する。
去田さんのアドバイス通りなら、英雄は本気を出していない。
油断するな。あいつはあの頃から変わっちゃいない。
仮想空間が展開されていく。学校へと戻ってくると英雄のキャラクターも待っていた。
お互いに構える。
英雄は初めてみる型をしていた。両方の拳を地面につけて、頭を下げる。
カウントダウンがゼロになる。ぼくはひとまずガードしやすい構えを選んだ。
しかし間違えだった。英雄の拳からエフェクトが出て、雷のような音を立てて、どんどんとエフェクトが膨れ上がっていく。
あのポーズは、必殺技のポージングだった。
気づくべきだった。スタートからコマンド技から仕掛ける戦法は確かにあった。しかしあまりに隙が大きく、初手の位置からだと反撃でコマンド技をくりだす前に止められてしまう可能性が大きい。このタイミングで大胆な作戦を取ってくると思っていなかった。
側面に避けようとしたが、すでに遅かった。
英雄は雷を身にまとい、突っ込んできた。ぼくはガードポーズで防ごうとしたが、ガラスが割れたような音と共に胴体に英雄の肘がヒットした。ぼくのキャラクターが雷に貫かれて倒れる。
必殺技を食らい、ぼくのライフポイントは大幅に削られた。
起き上がり、2秒間の無敵時間後、英雄はラッシュをかけてくる。ガードで防ぐが、すぐさま右脚が、ぼくの側頭部めがけて飛んできた。回避が間に合わず、ヒットし、視界ジャックが起こる。真っ白い視界になり、すぐさま胴体に拳を打ち込まれた。
コンボが繋がる。パンチ系を多用したコンボ技で、最後は両手を強く握りしめ、ハンマーのようにぼくの頭へ振り下ろされた。
ライフは残り少ない。反撃しなければ負ける。
ぼくは構え直して、英雄の動きを観察する。
何かが変わった。英雄の動きはこれまでの試合で何度も見ているはずなのに、いきなり読めなくなった。目新しい動きも増えたが、それは奇をてらっているわけではない。今までの試合で使っていなかった。
ぼくとの試合までに、いくつもの戦法を保存していていた。そう思うしかなかった。基本的な動作を押さえただけで、本気の英雄の正体を掴んでいなかった。
英雄は右側面から接近する。
速くて目で追うことができなかった。ガードポーズをすかさず防ごうとする。
英雄は攻撃してこなかった。ぼくがガードポーズをしている間に、コマンド技をしてくる。
ぼくは拳を英雄に向けて伸ばすが、先に股間に英雄の膝がヒットした。直接当たったわけじゃないが、リアルにぼくものけ反った。
ライフポイントは0になり、3セット目の最初のラウンドは英雄に取られた。




