50.晴VS英雄 2セット目
2セット目の序盤の動きは悪くなかった。ぼくは急がず、モーション攻撃から打ち出す。英雄は回避して詰めようとするが、キック系の軽いコマンド技で牽制するとヒットした。モーション攻撃とコマンド技のパワー関係上、ぼくのコマンド技がダメージ判定になる。
逆にガードポーズで防御できればぼくがほんの少し隙ができる。しかし英雄はガードポーズは使わず、回避を多用して距離を一気に詰めようとする。その姿勢は前回と変わらない。まだ有効的な手段と踏んでいるようだった。さっきの試合の後半の流れからして正しい。上手くいく分には続けていくようだ。
できるだけ隙が出づらい、モーション攻撃で手堅く攻める。痺れを切らして英雄が何度か踏み込んできて、それを対処する。英雄はダメージをくらってでも距離を詰める戦法を緩めない。それならそれでかまわない。徐々にライフポイントの差はぼくが有利になってきた。
英雄の動きに無駄がない。なんとか対処できているが、一度ミスをすれば一気に戦況が変わりかねない。体力が消費されて、動きの精度は時間とともに維持しづらくなる。まだ一試合目だからいいが、今後ミスが多くなる要因として目立ってくる。そのときに英雄の動きに対処できなければ負ける。
エクスアーツはゲームのライフポイントではなく、リアルの体力温存も考える必要がある。集中力もしかりだ。
英雄がポージングをする。隙はできたが、ここは下がって回避する手段をとった。英雄の強烈なストレートが胴体上部を貫こうとする。後方に下がり、躱してから頭部へモーション攻撃を狙う。
ふっと英雄の頭部が消えた。姿勢を低くして、ぼくの胴体へ掴みかかってくる。
タックル技だ。ぼくのキャラクターが倒され、マウントから打撃を食らう。身体を少し後ろへ倒すことで、後転しながら立ち上がるモーションを取った。
すかさず英雄が近距離からラッシュをかけてきた。ガードポーズが間に合い、ダメージは入らない。英雄はすかさずコマンド技を決めていくが、そこで距離を詰められた。
ぼくはこの後の展開を読めた。英雄が掴み技をして、そこからコンボを繋げて強力なコマンド技を決めにくる。さっきの試合はぼくからむしろ掴み技をしてなんとかしたが上手くいくとは思えなかった。
英雄の腕が伸びてくる。ぼくの首すじに近づいたところで、英雄のアゴに下から突きあげた拳がヒットした。
ぼくは千茅さんとの練習通りの対策をした。それは至近距離のコマンド技だ。アッパー系の至近距離のコマンド技で、英雄の頭部にヒットした。大ダメージが入りつつ、減光エフェクトも入る。
大きな隙が生まれ、モーション攻撃を連続で叩きこむ。最大値まで減光エフェクトで視界から光を失わせてから、大技のコマンド技を繰り出す。炎のエフェクトが拳を包み、英雄に衝突する。英雄のキャラクターは吹っ飛んで、壁にぶつかる。そこから追い打ちをかけるように攻撃をくわえていく。
英雄は立ち上がったが、すかさずラッシュ。英雄からコマンド技をしかける猶予はないため、ガードポーズしかない。英雄はガードで攻撃を防いだ。
このタイミング。英雄の選択はどうするか、ぼくは予想し、賭けた。
ぼくはアッパー系のコマンド技をしかけ、英雄は吸い込まれるように掴み技をしてきた。賭けに勝った。ぼくはこの状況で英雄が掴み技で状況を打開すると予想していた。そしてその予想は当たった。
英雄に大きな隙ができる。あとは簡単だ。モーション攻撃でコンボを繋ぎながら、強力なコマンド技を出す。
英雄のキャラクターがまた壁に衝突した。壁に響きが入り、陥没した。
まずは1本目。
さっきよりも安定した戦いができた。千茅さんとした練習の成果が発揮された試合だった。
2本目のラウンドも悪くない滑り出しだった。冷静に判断すれば、英雄の動きは読めた。
逆に、英雄はぼくへの対策ができていない。彼の落ち度ではなく、これは、元々ぼくが有利だった。英雄はランカーであり、メディア露出でプレイスタイルを公開している。比べて、ぼくは最近始めた初心者。何の情報もない。
英雄の癖は隙となり、ぼくに攻撃のチャンスを与える。モーション攻撃からのコンボ、得意なコマンド技。どれも予習済みで、対処できた。
試合の流れはいつの間にかぼくのペースになる。
英雄のリズムが崩れ、ほとんどライフポイントを削られないまま、英雄のキャラクターを倒した。
2セット目はぼくが獲得し、最後の3セット目で試合の勝敗が決まることになった。
額から汗が流れてきた。いつもなら体力に余裕があるはずなのに、身体から汗が噴き出る。アドレナリンが出て疲れは感じないが、体力は確実に消費されている。
決して悪くない試合運びだ。
英雄のキャラクターはおもむろに立ち上がり、定位置につく。
「対処してきたわけだ。テスト試合なのに本気だな」
英雄の声がこちらまで届いてきた。
「面白くなってきた」
キャラクター越しで表情は読めないが、声色から英雄が笑みを浮かべているのがわかった。




