49.晴VS英雄 1セット目
英雄が身体を乗り出し、前方へ進んでくる。合わせるようにぼくは後退した。英雄のプレイスタイルは掴み技重視。常に至近距離を維持してパンチ系のコンボを繰り出す。おおよそ千茅さんと練習した通りのプレイスタイルだ。
できるだけ英雄が思い描くプレイを避け、こちらのテンポに巻き込む作戦をとる。英雄はぼくを追い詰めようと前へと足を運ぶタイミングで、逆にぼくが乗り出した。
右腕を伸ばして、胴体を狙う。英雄は躱そうと身体を捻るもパンチはヒット判定になった。
「ちっ」と英雄は舌打ちする。
ぼくはすかさずコンボを繋げようとしたが、その前に英雄が蹴りをかまし、ぼくの胴体にヒットする。英雄からの二撃目を食らう前にガードポーズをとり、迫ってきた英雄の拳を防いだ。
コンボを繋げてダメージを稼ぐには視界不良のエフェクトを起こさせ、隙を作るべきだ。ダメージが大きい攻撃ほど、視界ジャックの継続時間は長い。モーション攻撃を打ち込むだけではダメだ。ポーズ技でダメージを与える必要がある。
今度はこちらから攻撃をしかける。英雄は回避しようとせず、むしろ立ち向かうつもりで構えていた。
右腕を伸ばして、拳を突きだす。向かう先は英雄の頭部。首をかたむけ、器用に避けると拳がこちらに飛んできた。無理矢理アゴを上げて、頭部へのヒットは回避したが胴体の上部に判定が入る。かすかに視界が暗くなるが、すぐに回復する。
英雄がポージングをしていた。ガードポーズは間に合わない。回避も難しかった。
その前に距離を詰めてぼくから掴み技を狙い、投げる。
賭けではあったが、こちらの攻撃が先に通った。ここまで、ほとんど掴み技を使わず、プレイスタイルに組み込んでもいない。英雄対策として変えた部分だ。
奇策と言ってもいい方法だから、これから多用はできないが、一度きりの回避として有効だ。そして大きな隙を作る方法のひとつでもある。掴み技で隙ができた。すかさずコンボを繋ぎ、ポージングでパンチ系の技を出力した。強烈なフックが英雄の横っ腹にヒットする。
ようやく大きくライフポイントを削るダメージが入った。
英雄は冷静だった。すぐにライフポイントの差を埋めようとせず、距離を空けて様子見している。ぼくは攻勢的にいくことに決めた。下手に立ち回りを気にして、勢いを殺せば英雄のリズムに乗ることと考えた。一歩踏み出し、前のめりで突っ込んだ。
牽制はなかった。英雄はぼくが近寄る動きを邪魔する真似はせず、至近距離の戦いに挑む。掴み技を警戒しつつ、下蹴りをする。テンプレートな攻め、下蹴りでスロー効果を狙う戦略は、英雄にバレていた。
英雄の左脚が高く上がり、ぼくの胴体に打ち込まれた。それから英雄は掴み技に移り、追加でダメージを入れる。
さっきまでのライフポイントの差はなくなる。
続けざまに、すかさず頭突きがきた。頭突きは特殊な至近距離の技で、距離を詰める必要があるうえ、固有のポーズをすばやく決めなければならない。
視界いっぱいにキャラクター頭部が迫ってきて、ぼくは戸惑ってしまった。ゲームの仕様ではなく、ひとりの人間として、突然のことに足が固まってしまった。
頭突きが決まり、ダメージが入る。減光エフェクトであたりが暗くなり、視野が狭くなる。
こうなると、次はどこから攻撃されるか、ほとんど目隠しの状態で対処しなくてはならない。
案の定、回避できずに下段、中段と側面から蹴りを打ち込まれた。そのまま、後ろ回し蹴りで腹部にクリーンヒット。
トドメとばかりに、アッパー系のコマンド技をもろにくらい、大ダメージが入る。
ゴングの音が鳴る。ぼくのライフポイントは0になった。
その後も英雄のペースで進み、あえなく2本目のラウンドを取られた。
1セット目は英雄の勝ち。次のセットも負けたら、それで英雄の優勝が決定する。
自分のペースで押し切ろうと強気になってしまった。焦りが出た。
定位置に戻り、次のラウンドの準備をする。
限られた時間のなかで頭を整理する。近距離からの攻撃なら、互角の立ち回りができると思う。しかし至近距離となると技の対応力で英雄に負ける。とっさに掴み技、頭突きなんかの至近距離の技がきたら避けられない。そもそも距離を縮めていく方法はダメだ。距離を詰められたら、近距離から中距離のプレイスタイルを意識するべきだった。




