48.試合前の会話
リーグ戦は順調に勝ち進んでいった。3人目の選手と戦い終えた。
残ったのは4人目、英雄だった。
控え室には戻らず、会場の端で出番を待つ。
ステージの仮想空間が解除された。試合が終わり、次はぼくの番だった。
スタッフに呼ばれ、中央に進む。ステージに上がると、向こう側から英雄がやってきた。
ぼくは変装用のマスクとキャップ帽をかぶり、正体を隠す。
「ハレルさん」
英雄がぼくに手を差し伸べた。
「今回はよろしくお願いします」
「……はい」
手を出して握手をする。思いっきり手を掴まれた。強い握力で締めつけられる。細胞が潰され、痛覚が手に広がる。
「お前、千茅の彼氏か?」
英雄はささやく。スタッフに聞こえない声量でぼくに訊く。
「あの女は気をつけたほうがいい。お前には扱えない。手を引くことだな」
「そんな関係じゃ、ありません……」
「ウソつくなよ。説明会でイチャついてたろ?」
説明会に話していたことが気にくわないのか。あんなことで、ここまで挑発的な態度をとるのか。くだらない。
「どっちでもいいけど、ボクが勝ったら、友達になってくれよ。今日だけじゃない、これからも戦おう」
そのことに英雄はどれほどの価値を見出しているかわからない。
ぼくは二度と関わりたくない。
「ぼくが勝ったら、ぼくと千茅に関わらない約束も忘れないでください」
「もちろん。そうはならないけどね」
英雄は手を離してから背を向けて定位置に立つ。
ぼくの手は痺れていた。
英雄は昔と変わっちゃいない。他人を威嚇したり挑発したりして、優位に立とうとする。こんなやり方間違っているのに、英雄はあれで世渡りしている。暴力は依然として、有効な世界だ。これからも。
でも、これから行われるのはゲームだ。暴力じゃない。体格差は関係ない。勝つために必要な要素は様々だが、暴力だけはない。
だからこそ、ぼくは負けたくない。暴力しかない英雄に負けたら、ぼくの心はへし折れそうな気がする。
デバイスを操作してセッティングを行う。
準備完了の仮想コンソールをタッチした。
キャラクターが表示される。英雄のキャラクターは説明会で一度見た西洋風の騎士だった。英雄の姿は消え、キャラクターだけが残る。
空間が変化する。
「ここは……」
ステージは学校だった。学校の屋上、夕焼け空で赤く染まっていた。
「学校は良い思い出ばかりだった」
英雄が声を出す。
「良い奴ばかりで楽しかったよ。その中でも汚点があった。そのせいで停学にもなって面倒ごとも多かった」
英雄は構えない。時間内に構えなければ、仕切り直しになる。ギリギリまで話すつもりか?
なによりぼくに気づいているのか?
「ハレルさん、ボクと同い年ぐらいだろう? どうだ、学校生活は」
「……普通ですよ。学校行って、それなりに友達もいて、こうしてゲームで時間を使ってます」
「ボクも似たようなものですよ。でもずっとボクは引っかかってるんです。過去の出来事のことを忘れられない」
英雄はゆっくりと構えた。カウントダウンが始まる。
「それはですね、ちょっとした口喧嘩だったんですよ。舎弟が決闘ごっこに負けましてね、相手は同じ学校の女子生徒で、ぜひとも戦いたいとごねていたら、女子生徒の彼氏が邪魔に入ってきたんです。言い争いになったので最終的には喧嘩になりました。その彼氏はまあ弱くて弱くて。弱すぎるせいでボクが悪者みたいになりましてね。ボクは停学、相手は自宅学習で二度と会うことはありませんでした」
カウントダウンが進んでいく。
「気づいたのか」
ぼくは敬語をやめた。
英雄はぼくと知って、試合を挑んできた。こいつはそういう奴だ。嫌がらせのためなら、自分のためならどこまで執着する男だ。千茅ちゃんも巻き込んで平気で喧嘩をしかけてくる。
残り1秒。
「ぼくが勝つ」
勝って、前へ進む。
「ボクが勝つに決まってるだろ、雑魚」
ゴングが鳴る。
試合が開始した。




