46.試合会場
最終テストの当日、会場に到着した。会場はドーム。XRゲームのイベント会場としてよく使われている。
受付に名前を記入して、会場の中へと向かっていると去田さんと会った。
「お久しぶりですね、去田さん」
ぼくから話しかけると去田さんは頭をかしげた。
「もしかして……天川さんですか?」
そこでぼくは気がついた。帽子とマスクをつけっぱなしだった。
マスクはスポーツブランドのXRゲーム推奨の製品。顔出しNGのプレイヤーでも大会に出場できる。本当に出たくなければオフライン対戦もできるけれど。
マスクを外すと去田さんは気づいた。
「天川さんですね! そ、その節はお騒がせいたしました。最終テストまで残りましたね。頑張ってください!」
「はい、全力でやります」
会場の入り口から内部まで向かう。去田さんと並びながら歩いていく。
「リーグ戦は体力を使うので休憩中の水分補給はかかさず取ってください。エネルギーバーなどの食事もできますし、売店もあります」
「自分で用意してくるの結構大変でしたから助かります」
「公式に始まったらスポンサーの食品が並びます。人気選手のアバターがパッケージに乗ったりして、天川さんも夢じゃないですよ」
「ぼくが? 自分なんてまだまだ……」
「そんなことないですよ。テストの戦績は二位。一位とも僅差でした」
「……一位は誰ですか?」
「ヒロスケ選手です。全勝で勝ち上がっています。テスターでもあり先日から公式の企画にも参加してもらっているプレイヤーです」
薄々感じていたが、英雄はやはり強い。周りから期待されるほどの強さ。まぐれじゃない。
会場の中央部へ来た。巨大なマットが敷かれており、周囲には機材が置かれていた。スタッフがセッティングをおこなっていた。観客席に人はいない。スタッフらしき人たちが様子を伺っているだけだ。
「最終テストはリーグ形式、二組が同時に試合を行います。どうぞマットの上に立ってみてください」
スタッフに会釈してからぼくはマットに立つ。リアルスリップしても怪我の心配はなさそうだった。マットの角に柱状の機材が設置されていた。デバイスの補助でもしてくれるのだろうか?
軽く拳を振るってみる。いつも動きやすいような気がした。マットは踏ん張りがきき、屋内は無風。試合するには申し分ない環境が整っている。
「いかがですか? 何か不満な点はありますか?」
「いえ、問題ありません。安心して試合ができそうです」
「よかったです。控え室もご用意してますでのご案内しますね」
「何から何まですみません」
「いえいえ、そんなことは……あ、他の選手も到着してきましたね」
去田さんの視線の先を見る。出入口からぼくと同じ年ぐらいの少年少女が入ってきた。ぼくがマットから降りると、変わるように選手たちがマットの上に立って会場を見渡していた。
「あれは……」
最後に入ってきた男を見た。背丈が高く、ガタイもいい。
英雄が入ってきた。
「おー! アニキすごいっすね! めちゃくちゃ広い!」
英雄の隣でルリッチが目を輝かせていた。
「行きましょうか」
「は、はい」
ぼくは視線を外して、顔をそむける。
ルリッチは確か出場するプレイヤーにいなかった気がするけれど。そのことについて去田さんに話をした。
「サポーターかもしれません。公式で採用している制度としてトレーナーやサポーターを呼ぶことが許されてますから。今回はスタッフはその代わりを務めますが、ヒロスケさんは制度を知っていたんだと思います。天川さんももちろん使える制度でしたが、すみません、今回は想定していなかったため、説明が足りていなかったです」
「いえ、全然大丈夫です。テストですし、そこまでこっちも用意できませんし」
「なにかあれば私が呼んでいただければいいですし、カヤさんもいいかもしれません」
「カヤさん? 来てるんですか?」
「はい、開発チームに協力している公認の選手ですので、どこかで試合を見ていると思います」
「そうですか……」
そんなことは一度も聞いていなかった。どうして言わなかったのだろう。立場上、外部には言えないのかもしれない。ここまできてやっと聞ける情報だったのかもしれない。
ぼくは時間になるまで控え室で待った。




