42.決意
「ウギギギギ! な、なんだこいつ……!」
試合後にルリッチが千茅さんを睨みつける。
「弱いねえ、ルリ」
英雄はルリッチの頭に手をおく。
「す、すみませんアニキ……」
「別にいいんじゃない? お前が弱いのは今にはじまったことじゃないし」
「……うす」
英雄は千茅さんを見る。
「やっぱりつええじゃん。断然に戦いたくなってきた」
「今戦ったっていいよ」
「こんなに野良試合で、念願の対決をしようと思わないね。ぜひともみんなの前で戦おう。そしてボクが勝つ」
「そう、勝手にして。私は楽しみでもなんでもないから」
「あと、ボクが先に戦うとしたら、そっちの彼だよね? たしかハレルだっけ?」
英雄がぼくを見る。
「あ、ああ……。そうですね……」
「そう怖がらないでくれよ。ボクは怖い人間じゃない。ちょっと正直すぎて、正論で人を傷つけてしまうことがあるだけで」
英雄は悪びれなく、冗談のように言う。
「彼に話しかけないで」
千茅さんがぼくをかばうように前に出る。
「まだ怒ってるのか? もう一年前のことじゃないか。そろそろ機嫌を直してほしいもんだ。ボクが悪かった。ボコボコにした悪いことしたってと思ってる。本当だ」
「どの口がそれを言うの? あの後も決闘ごっことかいって何人も脅して……」
「ゲームで対戦しただけでひどい言いようだ。……そうだ、今度の試合、ルールを追加しよう」
「やめて」
「もしボクが勝ったらフレンド登録してよ。ただそれだけだ。それぐらいいいだろう?」
「やらない」
「わかった。じゃあカヤが勝ったら、二度と会わない。それでどうだ?」
「約束を守るとは思えない」
「ボクは正直者だ。絶対にウソはつかない。それはカヤだって知ってるだろう」
千茅さんはしばらく間をおいた。
「共演NGも含めて。これから私と同じ大会に出場することになったら、オファーを断って」
「……ふーん」
「あなたの考えはわかってる。決闘で勝っても負けても、大会を通して私と戦おうとする。ほら、意味がない」
「はあ、カヤはバカじゃないから面倒なんだ。エクスアーツはボクにとって立派な仕事だ。オファーを断るなんてイヤだね」
「なら、この話はナシ」
「つまらないな……。賭け事がないと熱くなれないんだよ。そうだ、ハレル。ボクと何か勝負をしよう」
いきなり話をふられた。
「お、ぼくですか?」
「そうだ、今度のリーグ戦で勝ったほうがひとつ言うことを聞くっていうのはどうだい? なんでもいいよ。好きなことを言ってくれ」
千茅さんが声を荒げる。
「あなたは……! どれだけ自分勝手なの!」
「なあハレル、言ってくれ」
ぼくは……。
しばらく考えてから、ぼくは口を開いた。
「……公式試合以外で、カヤさんと関わるのはやめてください。それで、いいですか?」
英雄は肩をすくめる。
「へえ? もしかして彼氏? それとも弟子とか? ははは! 笑えるね。こりゃあ傑作だ。あのカヤに男か」
英雄は下品な笑い方をした。
「いいよ。ボクが勝ったら……フレンド登録しよう」
「フレンド登録?」
「うん、現行のエクスアーツでね。いつでも対戦できるようにしよう。ハレルが勝ったら君たちの関係に立ち入るのやめておこう。その代わり、負けたらボクと関係を深めてもらおうかな?」
英雄がどうしてそんなことを言っているかはわからない。
けれど、おそらくただの嫌がらせだろう。
一番、千茅さんが嫌がりそうなことを思いついて、言葉にしただけ。
乗るべきじゃない。だけど……。
「いいです」
「ハレルさん! これは私とコイツの問題ですから! ハレルさんが関わる必要は……!」
千茅さんがぼくに話しかけてくる。
ごめん。
でも、ぼくは覚悟できた。
「ヒロスケさん。約束です」
「ああ、面白くなってきた。ルリ、帰ろう」
「は、はい!」
そう言って英雄とルリッチはログアウトした。
「天川さん、どうして……」
千茅さんはか細い声でつぶやく。
「ごめん。間違っていることはわかってるんだ。こんなことしちゃいけないって」
「だったら!」
「でも、一度だけチャンスがほしい。もう終わらせるために、こんなことを大好きなものに持ち込まないために」
エクスアーツを汚さないため、ぼくは決着をつけたい。
「私は、そんなことしてもらう資格、ありません」
「ここまで来れたのは千茅さんのおかげです。ですからぼく、戦います」
今度こそ決着をつける。
ぼくは手を握り締め、硬い拳をつくった。




