40.千茅VSルリッチ①
「ルリッチ?」
「久しぶりだな、ハレル! で、そっちはカヤだっけ?」
ルリッチと天川さんの目が合う。
「天川さん、誰ですか?」
「以前に戦ったテスターです。でも、説明会に姿はなかったから……」
「おい、なんだ! アタシが雑魚って言いたいのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「今日のアタシは付き添いだよ! アニキのな!」
「アニキ……。前にも言ってたね」
「ルリ、うるさいよ」
男の声がした。ルリッチの後ろから別のキャラクターが現れた。
騎士のようなデザインのキャラクター。
「ヒロスケ……」
目の前に現れたのはヒロスケ——英雄のキャラクターだった。
「ん? ボクのこと知ってる? 有名人は辛いね」
英雄は頭をかくような動きをとって、おどけた。
ぼくが天川晴とは気づいていないようだ。当たり前か、ぼくが一方的に知っているだけで、英雄はハレルがぼくだと気づいていなかった。
「そっちは、ああ、プロ選手のカヤさんじゃないですか。新人プレイヤーに教育?」
「うるさい。だまれ」
千茅さんは冷淡だった。雰囲気がガラリと変わり、敵意を丸出しにしていた。
「ンガ!? アニキに向かってなんだその態度は! アニキ、誰なんすか!」
「昔の知り合いだよ。強いって話だったけど、ボク相手に逃げてさ、本当のところどうだろうねー?」
「ガハ! アニキにビビったんだ! 大したことねえーじゃん!」
「あの! やめてください!」
あまりにひどい言いぐさだ。そんな言われをされる覚えはなかった。
「ハレルはカヤの味方? 弱いヤツなんてやめてアタシと一緒にアニキのしたで鍛えて日本一、世界一のプレイヤーになろうよ! アニキがいれば、どんなヤツも勝てるんだ!」
「えらく慕ってるんだね……」
「当たり前だ! アニキはエクスアーツの師匠だからな! ガハハ!」
妙な状況になり、ぼくはどこか嫌な予感がした。このままでいると、面倒なことが起こりそうだった。
「カヤさん、ぼくらもログアウトしましょう。ビルの出入り口で待ち合わせして、あらためてそこで……カヤさん?」
千茅さんはぼくの横を通り過ぎて、英雄の前に立った。
「なんだ? やるか?」
「大会の前にあなたを潰してもいいならね。でも今は一刻もあなたの姿を見たくない。さっさと私の前からいなくなって」
「へえ、強気だね。自信?」
すると、ルリッチがふたりのあいだに入って、千茅さんを睨みつける。
「てめえ! アニキになんて口に聞いてんだゴラァ! やるか!?」
「あなたになんの興味もないから」
「……グガー! ゆるせねえ! アニキ、やってもいいっすよね!?」
「だって。うちのかわいい後輩と戦ってくださいよ。プロのカヤさん?」
「どうでもいい。勝手に話進めないで。会話もしたくない。さっさと消えろっていってるんだけど」
「グギギ! 黙れ! 今対戦申請送ったからな! 絶対に受け取れよ!」
「はあ……。ごめんなさい、天川さん。すこしお時間かかりそうです。先に行っててかまいません」
そう言って千茅さんは腕に触れる。
すると劇場からステージが変わり、格闘技のリングになった。狭いステージに千茅さんとルリッチは立って、ぼくと英雄はリングの外にいた。
「カヤさん……。本当に大丈夫ですか? 無理しないでくださいね」
「問題ありません。私こそ試合を受けてすみません。すぐ終わらせます」
千茅さんの声色は平坦だった。高ぶっていた感情はいつのまにか消えていた。
「行くぞお!」
「いつでもどうぞ」
ルリッチは構える。前かがみで今にも突進しそうなポーズだった。超攻撃型。ダメージ覚悟の戦略をしようとしている。
対して、千茅さんは右脚を前へ出して、身体を横に向けたポーズ。ヒット面積を減らして、モーション攻撃を出しやすいポーズだ。横回避もしやすいが、ガードポーズはしづらい。
おたがいのポーズが明らかになり、ゴングが鳴るカウントダウンまでに戦略を練っていく。
ぼくは千茅さんの心のうちがどうなっているか、今の状態で戦えるのか不安だった。しかし、同時に千茅さんが負けるイメージが湧かなかった。
カウントダウンが0になる。
仮想空間での喧嘩が始まった。




