39.繋がり
千茅さんは切実に言う。
「お願いです。棄権してください。英雄に関わらないでください。もう事件は終わったんです。もう苦しまなくていいんです」
その通りだ。英雄と関わることは間違っている。暴行事件も終わった。今回は棄権して、エクスアーツを楽しめばいい。
「私も天川さんの前から消えます。もう二度会いません」
でも、どうしてだろう。額の傷が痛む。どくどくと脈打ち、いつも以上に激痛が襲ってくる。
理由はわかってる。これは怒りだ。
ここまで千茅さんの心を傷つけた英雄への怒り。そして、ぼく自身への怒り。
どうしてくだらない暴力に、こんな、つきまとわれなければいけないのか。無視しても記憶が蘇り、いつまでもぼくに影響を与え続けてくる。
「そうか……」
ようやくぼくは自分の気持ちがわかった。
「棄権しない」
「え……」
「ぼくは棄権しない。大会に出場する」
「そんなの絶対駄目!」
千茅さんは叫んだ。
「千茅さん。ぼくは英雄を見返したいわけじゃないんです。ただ、ゲームが楽しくて、そんな気持ちを過去の事件のせいで避けるのが、ちょっと嫌なだけです。もう傷も癒えてるし……英雄のことも許します」
「何を、言ってるんですか?」
「それなら問題ないじゃないですか」
ぼくの言葉を、千茅さんは疑っていた。
「本心ですか? それとも、私のせいですか?」
「どうして?」
「私の話を聞いて、同情させましたか?」
「違うよ。ぼくもいま分かったんだ。ぼくは……暴力で人生を捻じ曲げられたことが腹立たしくて、仕方ない。だからこそ、もう暴力を理由に、行動したくない。怖いから逃げたりしたくないんだ……!」
ぼくは千茅さんと目を合わせる。じっと見つめ、正直に叫んだ。
「もし、また誰かが暴力を振るわれそうなら! ぼくは助ける! どんな状況で、どんな理由があっても……また同じことをする! 千茅さんだって、そうなんじゃないんですか!」
千茅さんだって、また友達を助けるだろう。その後に不良に絡まれることになっても。
そういう人だと、関わってきて分かった。
そんな千茅さんを見て、ぼくは影響された。
「天川さん……」
千茅さんは言い返さなかった。
しばらく沈黙が続いた。
すると、遠くで誰かがこちらを見ていた。
「誰?」
ぼくは姿が見えた方を向く。
「がはは! そのキャラクター、ハレルじゃん!」
不良娘風のキャラクターがこちらに手を振ってきた。
劇場に残っていたのは、ルリッチだった。




