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36.因縁

「あらためて僕はプロデューサーの鷺乃だ。集まってくれてありがとう!」


 プロデューサーは脚を閉じ、両腕を広げてY字になる。


「君らのおかげで大変有意義な情報を手に入れているよ。日々改善を重ねて、次世代エクスアーツは着々と完成に近づいている。そして! 今日は最終段階となる、大会形式のテストだ。聞きたい? 聞きたいよね? どう? どうどう?」


 プロデューサーは面倒くさいテンションでこちらのリアクションを欲しがる。

 どれだけかまってほしいんだ。


「君たちテスターに参加してもらう大会はリーグ方式でおこなう。参加人数は5人。勝ち星が最も多いプレイヤーの勝ち。BO3でおこなうよ」


 プロデューサーはビシッとホールに向かって指差した。


「まずはひとりずつプレイヤーを説明していこう。まずはハレル!」


 いきなり名前を呼ばれたかと思えば、スポットライトで頭上を照らされた。他のプレイヤーたちがこちらを向く。


「ある事情で急遽テスターになってもらったんだ。成績は上々、個人的に期待しているプレイヤーでもある。どうだい、一言くれないか?」

「えっと……」


 声がホールに響いた。デバイスのマイクを通して、ホールに聞こえている。


「ハレルです。途中からテスターになって、わからないことも多かったですが楽しんでいます。えーと……が、頑張ります」

「ありがとう! さあ次は~……」


 プロデューサーはすぐに別のプレイヤーの紹介に移っていく。

 説明会でもあるがショーじみていた。本当は公式のプロモーションでこういうことをしたいのかもしれない。


「最後にヒロスケ!」

「え?」


 スポットライトがひとりのアバターを照らす。白を基調とした甲冑を着ていてファンタジー世界の勇者を思わせるデザインだった。

 ヒロスケ。

 英雄。


「ウソだろ……」


 どうしてこんなところにいる?


「彼のことはみんな知っているね。今注目の新人プレイヤーだ。公式大会にも出場経験がある。彼はみんなと同じくテスターとして参加してもらっていた。文句なしの優勝候補だ。他のプレイヤーは彼の試合にそなえて対策を練っておくことだね」


 舞台上にスクリーンが現れるとリーグの図式が表示された。

 ぼくは英雄と戦う。

 ありえない。どうしてよりによって英雄と戦うんだ。


「会場は十分な広さを確保した施設を用意した。今回の大会が問題なく進めば、次世代エクスアーツはついに完成にいたる。発売時期はまだ言えないけど、遠くない未来に見せてあげるつもりだよ」


 プロデューサーは声は落ち着いていた。


「では僕からの説明はこれで終了! わからない点があればこれから部屋にスタッフがきてヒアリングしてくれるからなんでも聞いてくれ!」


 プロデューサーは笑っていながら、みんなの目の前で姿をフッと消した。

 劇場に残されたのはプレイヤーだけ。各々自分のタイミングで仮想空間からログアウトしていく。

 ぼくはヒロスケを見た。


 英雄。またお前に会うと思わなかった。

 彼のキャラクターを見るだけ身体が震えてきた。

 怖い。ぼくはお前が怖い。

 このゲームの中じゃまともなのか? 改心したのか? そうは思えない。平気で人を殴るお前がまともなんて信じられない。

 ヒロスケもログアウトして姿を消す。

 ぼくもデバイスを操作して白い空間から出た。

 何もない部屋の中へ戻ってきた。


「英雄……」


 ぼくはお前をどうすればいい?

 ゲームに勝って鬱憤を晴らす? 意味のない行為だ。

 ぼくは楽しくゲームをしたいだけだ。でもお前がいるとそうはできない。

 消えてくれ。いっそこの世界から。


「天川さん」

「え……」


 気づかぬうちにキャラクターが近くに立っていた。

 千茅さんだった。

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