35.プロデューサー
「プロデューサー……?」
次世代エクスアーツの責任者が会えて嬉しいけど、突拍子のない初対面で不信感が強かった。
「ハレルです。鷺乃さん、本日はよろしくお願いいたしま——」
「待って。僕のことはぜひプロデューサーと。僕の名前はどうにも、この仕事にあるまじき音の響きなもので」
「はあ、かまいませんけど」
鷺と詐欺、ということか? 誰も気にしないと思うけど。
「名前は好きだけど、第一印象はもっと好きだ。僕は人に愛されないと死んでしまうからね、記憶に残ることをしたくてこの仕事に就いたといっても過言ではない」
「わかりました。プロデューサーよろしくお願いいたします」
「話が早くて助かる! 素敵な少年だねハレルくん!」
プロデューサーは大げさに身体を動かして喜びを表現する。
時刻は説明会の時間に近づいていく。ぼく以外に部屋に入ってくる気配はない。いつまで待ってもぼくとプロデューサーだけだ。
「あのプロデューサー。説明会の会場はここで合ってますよね?」
「もちろん! ハレルくんの会場はここで間違いない。でも本当の会場はここじゃない」
「どういう意味——」
「さあ、行こう!」
プロデューサーが指を鳴らす。
部屋が崩壊した。
地面も壁も天井も剥がれ落ちていき、代わりに新しい世界が現れた。
部屋はガラス張りのエレベーターの室内に変化した。ぼくとプロデューサーがエレベーターに乗って、どこか分からぬ場所を下へ降りていく。
この感覚を知っている。次世代エクスアーツの仮想空間と同じ技術だ。おそらくぼくは部屋にひとりで立っているだけだが、視界がジャックされてエレベーターに乗っているような疑似体験をしている。虚構だとわかっているが、エレベーターに乗っているあいだ、錯覚で重力を感じていた。
「この世界にも慣れてきたかい?」
「テスト試合で何度も体験したので多少は」
「感想を聞きたいな。どうだい、楽しいかい?」
「楽しいです。いつか発売されたときにみんなが同じゲーム体験ができると思うと、スゴいですし、怖くもあります」
「テスターからのフィードバックでもよく言われるよ。開発チームの中にも不安な声をあげる者もいる」
XRの世界は十数年前から当たり前になってきた。ゲームに限らず、生活の一部として常に関わってきた。次世代エクスアーツはさらにひとつ上の世界を提供することになる。もしかしたらリアルよりバーチャルの世界にいる時間のほうが長い人が増える。いまどきネットを通していくらでも稼げるし、XRの世界に職場がある人もすでにいる。
ぼくはどうなるだろう。ぼくは仮想世界で——。
「スポーツは好きかい?」
プロデューサーがぼくの顔をのぞいてきた。
「それなりには……」
「体格もいいしスポーツ上手そうだね。今回の大会は自信ある?」
「どうでしょう。大会にはどんな選手が出場するんですか?」
「ハレルくんと同い年くらいの子もいるし、四十代もいるよ。君みたいにスポーツが得意そうな子もいれば、超インドアのひきこもりの子もいる。勝ち残っただけあって強いよ。さあ、そろそろ到着だ」
エレベーターが止まる。扉が開く。扉の先は真っ暗だった。
前に数歩踏み出す。
すると光に照らされた。手で顔を隠して、ゆっくりと手をさげると場所が変わっていた。
ぼくがいた場所は劇場のホールだった、席が並んでいる。
「あ、あれ?」
プロデューサーの姿がなくなり、周りを見渡す。すると、いつの間にか壇上には立っていた。
「約束の時刻になったね。では、これから説明会をはじめるよー!」
大音量でホール中に響き渡る。
自分の姿をよく見るとぼくの外見はキャラクターになっていた。辺りを見渡すと、ホールの席にところどころ、キャラクターがいた。
今回大会に出場するプレイヤーということか。
つまり、ぼくが戦う相手だ。




