34.説明会
説明会の会場は地元よりずっと離れた都市の中心部だった。朝早くから出かけて電車に乗り、到着までは一時間かかる。電車に揺らされながら都市を目指した。窓の風景が住宅地と田畑から、背の高いビルになっていく。空は青く、気持ちいい朝だった。
駅に到着して、電車から降りる。人口密集地だけあって電車から改札まで出るまでの道のりで人だかりができていた。人の波に流されるように改札へ移動して、駅前に出た。
スマホの地図アプリを開いて、画面に映ったルートにしたがって会場へ向かう。
結局、ぼくは大会に出場することにした。悩んだし、踏ん切りはついていないが、いくつか答えは出た。
まず英雄の件、彼の思い出は最悪だが、今となっては本来関係のない過去だ。彼と同じゲームをしていたからといって、ぼくと戦うわけじゃない。勝手に強い選手と戦っていてくれ。
もうひとつ。千茅さんの件だ。彼女と連絡は取れない状態が続いている。
ぼくは千茅さん本人から真意を聞きたかった。どうしてぼくにエクスアーツ辞めてほしいと頼んだが、どうして千茅さんさえエクスアーツから離れようとするのか、知りたい。
本人がぼくと距離を置こうとしていることは、ひしひしと感じている。ぼくのことが嫌いで二度と会いたくないというなら、千茅さんの口から聞かせてもらってバキバキに心が折れたとしても納得できる。でも多分、ぼくも千茅さんもおたがいを嫌ってなんかいない。
東中の暴行事件は終わったんだ。もう誰も覚えちゃいない。忘れて、前へ進もう。
エクスアーツを続けること、千茅さんと話すこと。
色んなものを背負って、ぼくはテスト大会に出場する。カッコイイことじゃない。ウジウジ考えている時間にタイムリミットがきただけだ。
時間が迫った今はむしろ早く一区切りつけたかった。
地図アプリを頼りに都市の道を歩いていく。
ルート通りに目的地に着いた。
顔を見上げた先に広がるのは一件の高層ビルだった。
テスト大会の説明会。会場は仮想戦闘領域とアルゴスを開発している大企業ライトーの本社だった。
喉が鳴る。心臓が跳ねる。緊張は悩みごとが原因じゃない。むしろ逆だ。あのエクスアーツを作っている会社の中へ入れるなんて思わなかった。社会見学ツアーに子供ひとりで迷い込んだ、場違い感に緊張していた。
深呼吸をしてから本社へ入った。
ところどころ言葉に詰まりながら受付の人にテスターの件について説明すると、優しく会場までの道のりを教えてくれた。エレベーターに乗り、ぼくは33階を目指した。
33階で降りると廊下と扉が横に並んでいた。スマホを見て指定された場所を確認する。33階の4番の部屋。ぼくは廊下を歩いて四番と書かれた扉を見つけた。
ドアノブを掴み、開ける。
室内はがらんとしていた。人はひとりもおらず、機材もない。一脚の椅子だけが置かれた空っぽの部屋だった。
「合ってるのか?」
スマホに送られてきた運営のメッセージを何度も見返してもここだった。
「合ってるよハレルくん」
突然の声にぼくは顔を上げた。部屋には誰もいない。ぼくを呼ぶ声がたしかにした。
「すまんすまん。ここだよ」
「うわっ!?」
声がする方を向くと、部屋の中心に人が立っていた。
スーツを着た紳士だった。足から首までは至って普通の中肉中背の男性だったが、首から上がフルフェイスマスクの不審者だった。
「どう? 驚いた?」
フルフェイスで顔の見えない男性がぼくに訊いてきた。
驚いているに決まっている。ぼくが部屋に入ってきたとき誰もいなかった。隠れるための物もスペースもないのに、突然、人がどこからともなく現れた。
一瞬だけレンズとスマートフォンの同期を切る。すると、男性は消えた。XR技術による立体映像だ。
「お、驚きましたよ。嫌な驚かせ方でしたけど……。心臓が弱い人だったらどうするつもりだったんですか?」
「おい! 不安にさせること言うな! 泣いちゃうだろう! いや、しかし……泣く。そこまで言わなくていいじゃん……」
フルフェイス男はうつむいて手で涙をぬぐうジェスチャーをする。イラッとする人だ。
「誰なんですか?」
ぼくが質問するとすぐに元気になり、胸を張る。
「おっと紹介が遅れたね!」
フルフェイス男が手を差し伸べてくる。
「どうもハレルくん。私が開発チームのプロデューサー、鷺乃だ。よろしくねっ!」




