30.まさかの再会
スマートフォンが震える。画面を見てメッセージを確認する。エクスアーツの運営チームからだ。
「大会形式のテスト」
小さい声でメッセージを読む。
テストプレイは順調に進んでいて、終わりが近づいている。最終テストは大会を想定したテスター同士のリーグ戦をおこなう。大会に出場するテスターは戦績から選ばれる。
ぼくは選ばれた。大会出場を望むならメッセージを送り、指定された場所へ集合する。
画面から目を話して、じっとする。
願ってもいない機会だ。自分の実力がどれほどか、どこまで通用するか知りたい。
ずっとそう思っていた。
「イヤだな」
自然と口に出してしまった。
エクスアーツが嫌いになったわけじゃない。ただ、人と会うことが怖くなっていた。
別に人嫌いじゃない。むしろ好きだ。
けど、臆病になっていた。
一年前もそうだった。自分に自信がなくなり、何を話せばいいかわからなくなる感覚。最近、テスト中に相手を不快にさせてしまったことで過去のトラウマがフラッシュバックしてしまった。
参加すべきかどうか悩んだ。
参加したい。でも、怖い。
負けることじゃない。
痛い思いをするからじゃない。
自分の自信なんて暴力でいとも簡単に砕ける事実が怖かった。
「棄権してください」
千茅さんにそう言われた。
突然言い出したのはどうしてなんだろう。
千茅さんは珍しく時間に遅れてきた。暗い顔で、ぼくから目を逸らして気まずそうだった。
最後は近藤千茅であることを明かして去ってしまった。
スマートフォンを操作してメッセージの『カヤさん』と表示されたアイコンをタッチする。以前に送ったメッセージから更新はない。
千茅さんは二度とぼくと会う気はない。
事情を聞く機会は失われたが、ぼくが目に触れた情報を組み合わせると、ひとつ、憶測が立てられた。
エクスアーツの選手である近藤千茅。
生放送で登場した新人選手、正野英雄。
もしかしたら千茅さんの抱えている悩みは別の事情の可能性もあるが、今のぼくではこれが精々だ。
千茅さんは英雄のことを知った。英雄の存在をぼくが知れば、トラウマが蘇ると思って、エクスアーツから遠ざけようとした。そんなところじゃないだろうか。だとしたら予想は的中。ぼくはベッドで動けなくなっている。
千茅さんの優しさなんだ。ぼくを守ろうとして、行動してくれた。
なんて情けない。
もう二度と会えないだとしたら、ぼくは最初から最後まで千茅さんに守られただけだった。
謝りたい。弱くて申し訳ない。
強くなりたかったのに結局、守られているだけだった。
「強くなりたい」
過去の二の舞は嫌だ。もう味わいたくない。
でも、強くなるってどうすればいい? 身体を鍛えれば心も頑強になるのか。勉強をたくさんすれば自信がつくのか。なんとなく違うと気づいていた。
強くなるやり方があったら誰でもいい、教えてくれ。
ベッドに倒れながら意識が遠ざかる。
眠気はない。気絶の方が近いと思う。
まぶたが急速に重たくなり、閉じようとした。
「……ん」
一階が騒がしい。姉ちゃんが帰ってきたのだろうけど、喋り声が聞こえてくる。両親は仕事から帰ってきていない。
階段が昇る音が聴こえてくる。急ぎ足で音は大きくなって、ぼくの部屋まで続いた。
ノックなしでドアが開いた。
「本物の晴くんだ! マジだったんだ!」
身体を起こしてドアの先に視線を向ける。日が入る明るい廊下側に活発そうな年上のお姉さんがいた。
「蝶子さん? なんで?」
「遊びにきた! ねえ、夕! 晴くんで遊んでいい?」
「いいんじゃなーい? どうでもいいけど」
蝶子さんの後ろから姉ちゃんが顔を覗かせる。
「姉ちゃん、どういうこと?」
「話したとおりだけど。友達の蝶子連れてきましたー」
「ウソでしょ」
そういえば友達を連れてくると言っていたけど、そんなことあるのか?
蝶子さんは部屋に入り、ぼくのベッドに膝をのせて、前かがみでにじり寄ってくる。ぼくは後ろに引いて壁際に追いやられた。
「怖がらないでよ。傷ついたらどうしてくれるの」
「知りませんよ」
「蝶子、あんまりいじめたら泣いちゃうよ。最近しょぼくれてるから」
「そうなの? なんでも話してよ。お姉さんが悩み解決させてあげる」
蝶子さんはニンマリと愉しそうに表情を浮かべる。相談してもいい誠実さを感じさせない。なるほど、姉ちゃんと同類の匂いがする。
「一泊するからひとつ屋根の下仲良くしようね、晴くんっ」
「……マジですか」
どうやらひと眠りする余裕は今日なさそうだ。




