表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/54

21.ルリッチ

 体育館で対戦相手を待っていると廊下側から足音が聞こえてきた。


「はあ! はあ! セ、セーフ!」


 勢いよくドアが開いて、人が入ってきた。


「あんたが対戦相手のハレルってヤツか! よろしく!」

「えっと、ルリッチさん、ですよね。よろしくお願いします」

「遅れそうになってわるい。あちー」


 ジャージを着ていて、上着のチャックを開けてTシャツをあおいで、身体を冷やそうとしていた。


「予定の時間はまだなのでゆっくりしてください」

「マジで間に合ってよかったわー。あたしのことはルリッチでいいから! 敬語とかナシな!」

「わ、わかりました。ル、ルリッチ……」

「がははっ! よろしく! あ、悪いけど水くれない?」

「いいですけど口ついてます」

「気にしない気にしない! ハレルは気にするタイプか?」

「すこしは」

「じゃあ口つけないから! 頼む!」

「……わかりました」


 水筒を渡すとルリッチは顔を真上にあげて、水筒をかたむけて滝のように口めがけて流し込む。


「がー! うまい! ありがとな!」


 ほとんど空になった水筒を返してもらった。

 ルリッチは豪快な人だった。気さくで心の壁みたいなものがないというか、距離感がおかしいというか。

 ぼくは彼女と戦う。だからといって敵ではない。むしろ良いゲームにするため切磋琢磨する相手だ。ぼくも距離感を近づける努力をするべきだろう。

 ぼくは直角に腰を曲げて、頭を下げた。


「ルリッチ! 今日はよろしくお願いします!」

「うぎ!? いきなりなんだ!? キモいな!?」

「キモくはないです! 礼儀です!」

「礼儀? ハレル何歳? あたし高校一年の16歳」

「年はまだ15歳ですけど、同学年です!」

「なら敬語はナシでいいじゃん! よろしくなハレル!」


 ルリッチは歯を見せて笑う。八重歯が特徴的な笑みだった。

 腹が鳴る音がする。ルリッチの腹からだった。


「ゼリー飲料ならありま……あるけど」

「うぐぐ……くれ」


 ルリッチはぼくのゼリー飲料を飲んで、予定の時間まで身体を休めた。

 そうこうしているうちに時間が近づいてきたので、おたがいの立ち位置に移動する。

 ステージやルールは運営から指定されている。

 ラウンド2本先取のBO3を10セット。休憩を挟んでさらに10セットの合計20回おこなう。

 中々ハードな量だ。ゲームのテストとしてデータ収集するためとはいえ、テスターに選ばれた人たちは体力が必要になりそうだ。


「言っとくけど容赦しないから。全試合あたしが勝つ!」

「……勝ちを譲る気はないよ」


 全敗だけは避けたい。次にカヤさんに会ったときに合わせる顔がない。

 仮想ステージが出現する。場所は線路の高架下。柱にグラフィティアートが描かれていて、周りはフェンスで囲まれていた。時刻は夜、天候は雨に設定されていて、雨音がスピーカーから立体的に聴こえてきた。


 ルリッチのキャラクターは黒いセーラー服を着た女子高校生の姿だった。

 対して、ぼくのキャラクターは白い学ランを着た男子高校生だった。学帽を深くかぶり、鋭い目つきを隠している。


「なあ、ハレル。賭けしないか?」

「賭けですか?」

「勝ったほうが飯をおごる!」

「お金持ってるの?」

「持ってねえ! あたしが絶対に勝つからな!」

「すごい自信だね」


 ルリッチのキャラクターが片腕を見て、拳をつくる。


「あたしの唯一の取り柄なんだ。エクスアーツが楽しみに生きてたから。だから負けたくねえ」

「……わかるよ」


 ぼくはエクスアーツをするときだけ頭が軽くなった。現実逃避だったと思う。色んなことから逃げ出し、身体を動かして、自由になりたかった。

 ルリッチも理由は違っても、エクスアーツに、ゲームに救われた人間なんだろう。

 不思議な感覚だった。仲良くなるなら、ごはんを食べながら話をするところだけど、ぼくは今、ルリッチと戦いたかった。それが一番仲良くできる気がした。


「ぼくが勝つ。ルリッチに奢ってもらった飯で初勝利のお祝いをするよ」

「がははっ! いいね!」


 おたがいに構える。スタートの準備ができた。

 カウントダウンがはじまる。

 勝ちたい。勝ってルリッチのお金で飯を食い、カヤさんに報告する。カヤさんがかけてくれた苦労にすこしでも応えたい。

 ゴングの音が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ