20.休憩
その後も続けて2試合をしてから、ぼくは水分補給をとった。
「とりあえずやってみて、感想はありますか?」
休憩しているとカヤさんが近づいてきた。試合を終えて、現在はステージもキャラクターも消えて体育館に戻ってきた。
「……圧倒されました。現実と仮想の世界が地続きで、日常の延長線上にバトルがあるようになった、そんな気がしました」
「私もはじめてプレイしたとき、近い感想でした。物語の中の戦闘シーンに自分が入り込んでしまったような、非日常がありました」
仮想戦闘領域は想像以上のゲームだ。現実が虚構に浸食されて曖昧になる感覚を味わった。
「続けられそうですか? もし体調が悪いなら……」
「いえ、大丈夫です。むしろ、もっとやってみたいです!」
「そ、そうですか?」
「カヤさん!」
「は、はい!」
「めっっっちゃ強かったです! ぼく、まったく相手になりませんでした! エクスアーツをやっていて、相手の出方を探るのは中級者ぐらいから感覚的にやってましたけど、カヤさんはぼくの動きを読んでましたよね? どんな発想のもと動きが読めるようになりますか? それと!」
「あ、あの!」
「はい!」
「あんまり近寄らないでください。あ、汗かいてるので……」
「——っ!? ご、ごめんなさい!」
急いでカヤさんから遠ざかる。
バカかぼくは。迷惑かけてどうする。
「あ、相手の動きを読む方法は経験が一番早いですけど、戦闘スタイルから相手の性格や心情を想像したり、とかです」
「戦闘スタイルから読み取る……」
「1ラウンド目の前半で戦闘スタイルや得意技、クセをなんとなく覚えておいて、後半から2ラウンド目のあいだに戦略を練ると成長が早いかもしれません」
「なるほど、ありがとうございます! 覚えます!」
「他になにか聞きたいことありますか?」
「キックを見せてもらっていいですか?」
「蹴り技、ですか?」
「はい、ポーズ技の蹴りはヒットするタイミングに合わせて、正確にぼくの顔面めがけて飛んできてスゴかったです!」
「そうですね。エクスアーツは攻撃のタイミングが大切です。エクスアーツの場合、攻撃はすべて設定されたスピードになります。素人のパンチもプロボクサーのパンチも同じ速度に落とし込まれます。ですので、重要なのは確実にヒットするタイミングを読んで、正しく打ち込むことです」
「そこは現行のエクスアーツも同じですね」
「実際にキックを見せればいいですよね。えっと、こう、とか?」
カヤさんは構えてからハイキックをする。一連の動作にブレはなく、無駄のない動きだった。
「すごい。滅茶苦茶速い」
「さっきも言いましたが、どれだけ速く動いてもキャラクターに反映される速度は一定です。本人のフィジカルは絶えず攻撃を繰り返すための持久力のほうが重要です。あくまで必要なのはゲームへの理解力とスタミナだと思います」
次世代も現状のエクスアーツも同じ仕様だった。ようはコントローラーではなく身体を動かしてキャラクターを操作している。シンプルな話だ。
「私が教えられることは大体しました。あとはテスター同士の試合の予定を入れていきましょう」
「アルバイトの仕事、本番ですよね。スマートフォンから連絡きてました」
「そうでしたか。いつから試合ですか?」
「今日です」
「……今日? もしかしていまからですか?」
「はい! 会場もこの体育館です。対戦相手のかたも了承して、あと1時間後に戦います!」
カヤさんは眉間に手を当てていた。
「でしたら、こんなに練習試合しなかったのに……」
「し、心配しなくても大丈夫です! ぼく、体力には自信あるんで!」
「ならいいですが。私も二時間後に別の場所で試合があります。今日はこの辺にしておきましょう」
カヤさんは鞄を肩にかける。
「カヤさん、ありがとうございました。このあとの本番、勝ってきます!」
「天川さんなら勝てます。……怪我だけは気を付けてください。もし怪我させられたら言ってください。私が対戦相手を完膚なきまで倒しますから」
「あ、ありがとうございます。し、仕返しはなしの方向でよろしくお願いします」
「冗談ですよ、冗談。ふふっ……」
カヤさんは口ではそういったが、目が笑っていなかった。




