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15.喫茶店

 ぼくたちは喫茶店へ到着した。喫茶店は商業施設の一階にあり、歩道側の席は一面ガラス張りになっている。ぼくとカヤさんは奥へ行き、ソファの四人席に向かい合うように座る。

 スマートフォンで時刻を確認する。予定の時刻まで余裕をもってこれた。

 カヤさんはスマートフォンを見ると、運営から連絡がきていた。


「すこし遅れるかもしれないです」

「そうなんですか。なにか頼んだほうがいいですかね?」

「運営からもそう言われました。おごりなので好きに、と」

「頼みましょうか」


 壁際に置かれていたメニュー表を手にとって開く。


「おごられるのって緊張しますね。高いメニュー頼んだら印象悪いでしょうか」

「好きに頼んでもいいと思います。学生の印象で態度を変える人ではないので。私はなんでも」


 ぼくと違ってカヤさんは慣れた様子だった。カヤさんはエクスアーツのランカーでプロゲーマーでもある。ぼくなんかより社会経験豊富だからだろうか、所作ひとつとっても余裕を感じる。単純にぼくがガキっぽいだけかもしれないけど。

 結局、ぼくはコーラを頼んで、カヤさんはミルクティーを頼んだ。

 おたがいの飲み物が運ばれてきて、一口飲んだところでぼくから話を切り出した。


「カヤさんはテスターとして、あのゲームに参加して怖くありませんか?」

「私は大丈夫です。強いですから。ただ普通の人は怖いと思います。開発中のゲーム自体はいままで見たことのないゲーム体験で正直楽しいですが、実際に殴られたり、蹴られたような疑似体験はエンタメとは言い難いです。相当な度胸が必要です。そこが発売に至るまでの課題だと思います。あと運営をどこまで信用できるかもわかりませんから、オススメはできません」

「……そうですか」


 思わずぼくは顔を伏せた。

 やっぱりスゴいな、カヤさんは。ぼくと年が変わらないというのにしっかり話せて、自分の意見を言えている。なにより、あのゲームに適当できている。

 羨ましかった。ぼくもゲームの中でさえ度胸が足りなかった。こんなんじゃ過去の自分を変えるなんてできない。


「あ、あの……ごめんなさい……」

「え?」


 顔を上げるとカヤさんが震えていた。


「わ、私、天川さんが弱いとか度胸がないとか言いたいわけじゃなくて……。最初にプレイした私もビックリしましたし、その、ごめんなさい。失礼でしたよね……本当にごめんなさい……」

「え、え。ちょ、ちょっと待ってください! そんなこと思ってないですからね!?」


 カヤさんが急にシュンとして身体を縮こませる。どうしていきなり弱々しくなるんだ!


「今回も余計なお世話でしたよね……ひとりで勝手に進めちゃって……ああ……」

「もう! そんなことないですって!」


 カヤさんと目が合う。黒い瞳は揺らいでいてマスクの上でも不安げな感情がわかった。

 クソ、ぼくが勝手にひとりでカヤさんの目の前でへこんだから深読みさせてしまった。変なことするな、ぼく!


「カヤさん、そんなこと言わないでください。ぼく、マジで救われましたから。わ、悪いのは蝶子さんですから!」


 ピクリとカヤさんの肩が動く。


「蝶子……そう、全部あのバカのせいです。馴れ馴れしいし、ベタベタ触ってくるし、あまつさえ天川さんを巻き込んで……今度会ったら半殺しにしてやる……」

「お、おう」


 カヤさんの蝶子さんへの怒りは物凄い。まあ、今回の原因だから仕方ないと思うけれど。

 ただ、憎悪のような黒い感情は感じなかった。口ではこう言っているが、カヤさんと蝶子さんはそれなりに仲が良さそうだった。ランカー同士、通じ合うものがあるように見えた。

 ぼくも強くなったら、ふたりと対等に話せるだろうか。そんなことを考えてしまう。

 確かにぼくは無理矢理ゲームに参加させられ、ひどい目にあった。でも、不思議と充実感があったのもウソじゃない。

 もし、ぼくがゲームに参加したいと言ったら、カヤさんはどう思うだろうか。蝶子さんの誘いに乗って、カヤさんの厚意を裏切ったら。そんなことはできない。

 でも、ぼくは……。


「天川さん? どうかしましたか?」

「え、いや、なんでもありません! すみません!」


 ぼくはコーラを飲む。

 悟られてはいけない。

 まだ気持ちが揺れ動いているなんて。

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