12.翌日。新しい日常。
「おはようございます。早いんですね」
午前六時。いつも通りランニングしようと外に出たらカヤさんがいた。
「カヤさん、だよね? えっと、どうして」
「昨日の件についてお話ししたくて来ました。迷惑でしたか?」
「ううん、そんなことは……」
「ランニング、ですよね? 一緒に走りませんか?」
カヤさんはぼくと同じくランニング用の衣服を着ていた。そもそも、そのつもりだったらしい。
いや、その前にどこで住所を知ってたのかも気になるけど。
「じゃ、じゃあ、とりあえず走ろうか」
「はい」
先に走り、後ろからカヤさんがついてきた。
朝の河川敷をふたりで走る。たまに犬の散歩をしている人とすれ違うぐらいで、人通りも少ないほうだった。
カヤさんが隣にきて並走する。
「昨日のこと、運営と話しました。議論したんですが、一度、運営の人と会ったほうがいいかもしれないです」
「そうなの?」
「蝶子が余計なことをしてまして、わたしと蝶子と運営と揉めても仕方ないんで、直接晴さん本人から運営と会話したほうが早そうです」
「なるほど……」
「それなんですが、晴さんはすでに参加者扱いです。蝶子が勝手に晴さんを参加者に推薦したみたいで」
「…………」
どこまで自分本位の人なんだ。
「なので、これからプレイヤーから戦いを挑まれるかもしれない。なので、わたしが守ります」
「みんな、ちょうこさんみたいな人たちなの?」
「あのバカ以上はいないです。血の気の多い人はいますが、それは全部わたしが対処します」
「た、対処って」
「全員ぶっ倒します」
蝶子さんとはまた違う迫力があった。
「カヤさん、あの、どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「それは、バカの尻拭いです。一般人巻き込んでゲームを参加させるなんて、犯罪に等しいので」
「……ありがとうございます」
「お礼をいわれることは何も」
河川敷を走っていると昨日も見た橋の近くまで来た。
「カヤさんや蝶子さんはどうしてゲームに参加したんですか?」
「わたしも蝶子もスカウトです。元々エクスアーツのランカーだと誘われるんです」
「そうだったんだ。強いんだね」
「それなりに。でも、ただの現実逃避です」
「え?」
「現実逃避がたまたま上手くいってこうしてるだけです」
カヤさんは淡々と走りつづける。呼吸の乱れもない。
「ぼくも似たようなもんです」
「……現実逃避ですか?」
「高校生なんだけど、なんとなく馴染めなくてね」
「……そうですか」
「最近はゲーム同好会ってところに入って、そのときにエクスアーツを誘われてやってたんだ。そしたらちょうこさんに会って……」
マズい。話しすぎかな? カヤさんは聞き上手だから口が滑ってしまいそうだった。
「同好会は楽しいですか?」
「うん、部員たちは優しくてね。同好会に行くために学校へ通っているようなものだよ」
「そうですか、よかった」
カヤさんは? とは聞かなかった。
「今日は帰ります。運営と話す日はまた連絡します」
カヤさんが橋を渡ろうとする。
「あ、あの!」
「はい?」
「気にかけてくれて、ありがとう。力になってくれて助かったよ」
「……っ!」
カヤさんは驚いたような反応をして、
「ありがとう」
と、微笑んだ。
カヤさんは橋を渡り、ぼくのそばからいなくなる。
「…………」
ぼくは額の傷に触れる。
傷は痛まなかった。




