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水晶の令嬢 〜転生者から持ち込まれた悪役令嬢という概念に翻弄された話〜  作者: ゆずさくら


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王子の帰還

 一体のゴブリンが監視塔の下に落ちていく。

 ゴブリンを落とした王子は、監視塔の屋上で絶望の声を上げた。

「もうダメか……」

 その時だった。

 コンエグを焼き殺したドラゴンが、監視塔に戻ってきていた。

 ドラゴンは監視塔を回るように滑空しながら、監視塔にブレスを吐いた。

「えっ!?」

 監視塔は燃え上がった。

 監視塔にへばりついて、梯子の代わりをしていたゴブリンは、ブレスで焼かれ、剥がれ落ちて行った。

 ゴブリンの着ている布や体毛が燃える。

 炎はやがて監視塔内部の螺旋階段の中にも広がった。

 塔は白い煙を上げ始め、次第に煙が黒くなっていった。

「助けてくれ!」

 ドラゴンは監視塔を旋回しながら、屋上に近づいてくる。

 スリング・ショットが狙っている為に、静止することができないのだ。

「ユウト様、飛びついてください!」

 ものすごいスピードでドラゴンが突っ込んでくる。

 タイミングを間違えれば、ただ落下して死んでしまう。

 屋上の縁で、飛ぼうとして足を曲げたまま、ユウトは動けなかった。

「もう一度行きます、今度こそ飛んで!」

 ハヅキは言うが、ユウトは首を横に振る。

 煙は黒く、量が増えてきた。

「今度はスピードを落とします。ドラゴンの首をそちらに向けますから、私の手を掴んで!」

 ユウトは大きく頷く。

 ドラゴンが監視塔の屋上に降りてくると、狙っていたかのようにスリング・ショットが放たれる。

 ユウトをかすめゴブリンの頭が飛んでいく。

 ブレスと、翼の上下動で飛んでくる頭を交わす。

「ユウト様!」

 ドラゴンの頭が監視塔の屋上に近づいてくる。

 ユウトは飛んだ。

 ハヅキの手を掴みかけて、届かない。

 ユウトを追うように手を伸ばしたハヅキは、勢い余って、ドラゴンの頭から落ちてしまう。

「ハヅキ!」

 監視塔から落ちながら、ユウトはようやくハヅキの手を掴む。

「ユウト」

 二人は頭を下にして落下しながら、抱き合った。

 このまま、落ちて死ぬと分かっているのに。

 二人は木製のマスクをずらした。

 そして互いの唇を求め、重ねる。

 死ぬ前に、どうしてもしなけれなならないこと。

 二人はそれぞれ、そう思っていたのかも知れない。

「!」

 大きな羽ばたきの音がすると、大きな影が、一気に二人を追い越した。

 ドラゴンが二人の下に回り込んだのだ。

 広げた翼の先に、二人が落ちる。

 コウモリのように産毛の生えた翼。

 転がりながら、ドラゴンの胴にたどり着く。

「助かった!」

「ユウト急いで! このままではドラゴンがスリング・ショットの餌食に」 

 二人は鱗のあるドラゴンの体によじ登り、頭の方へと走り出す。

 ドラゴンの中でガスが生成される音が聞こえる。

 大きく羽ばたくだけで、一気に上昇する。

 頭へ向かって先を走るハヅキが、バランスを崩した。

 ユウトがその倒れかかった彼女の背中を支えた。

「気をつけて」

「ありがとう」

 二人で駆け上がると、頭の硬い鱗に打ち込まれた金具と、そこから伸びる縄や背当てに辿り着いた。

 そこはドラゴン使い(パイロット)だけが許される場所だった。

「ユウトは私の前に来て」

 体格差の関係で、ハヅキはユウトを前に抱えるような格好でドラゴンを操縦するようだ。

 ユウトは恥ずかしくて顔が熱くなっていたが、実はハヅキも顔が赤かった。

 互いに木製のマスクをしているため、気取られることはなかった。

「避けて!」

 ハヅキは眼下から放たれるスリング・ショットを避けるよう指示する。

 再びガスが生成される音が聞こえると、大きく翼を動かした。

 強烈な加速を生み出し、ハヅキの体が背当てに押しつけられる。

 それはユウトも同じだった。

 ユウトの背中には、ハヅキがいる。ハヅキはユウトの分も、背中に強く押しつけられてしまう。

「大丈夫か!?」

「ん……」

 ハズキは歯を食いしばっていた。

 ガスが溜まっていく音も、轟々と続いている。

 再び大きく翼を動かすと、ドラゴンの体は雲の上にでた。

 耳抜きができなかったユウトは、耳に圧がかかり音が聞こえなくなった。

 静寂な世界。

 スリング・ショットの弾は、雲までは届かない。

 様々な犠牲が払われたが、ルコールの人質を救うことができた。

 そして、戦争の元となる『ゴブリンの王』を抹殺した。

 ルコールを取り返すまでは時間がかかるだろうが、それはもう大きな課題ではない。

 国の状況は好転するだろう。

 高度を保ち、ドラゴンの速度も一定になると、ユウトは後ろを振り向いた。

「ハヅキ」

 ドラゴンをコントロールしながら、ハヅキは頷いた。

 二人はグラスをかけていたが、目と目で通じ合うものがあった。


 ドラゴンが雲を抜け、再び地上に降下した。

 ガスを抜くため、ドラゴンはブレスを口の端から、左右の両サイドに向けて吐き出す。

 十分低くなってくると、翼を広げたまま滑空する。

 ハヅキの屋敷を一回り回ると、体を起こして着地した。

 ドラゴンが、ゆっくりと頭を地面につけてくれる。

 二人は金具を外し、ドラゴンの頭から下りる。

 ハヅキとユウトは、ドラゴンの頬をトントンと叩くと、ドラゴンはゆっくり瞼を閉じた。

「ありがとう」

 ドラゴンは頭をもたげると、体の中でガスが出来る音が始まった。

 二人が十分離れたことを見ると、ドラゴンは足で地面を蹴り、その勢いと浮力で一気に舞い上がった。

 一定の高度まで、風船のように上がっていくと、大きく羽を使って飛び去っていった。

「ありがとう」

 去っていくドラゴンに、ユウトはそう言って手を振った。


 屋敷から、スズミヤ家の従者がやってくる。

「ユウト様!?」

 ユウトはすぐに馬を借りて、城へ戻った。

「ユウト様がお戻りになった!」

 城は混乱した。

 こんなに早く戻ってくるはずがないからだ。

 ハヅキとユウトは、ドラゴンで移動したため、ほんの一時で、地上を進めば一日以上かかるルコールから帰還したのだ。

「ハヅキが、ハヅキとドラゴンが、ゴブリンの王、コンエグ・リブデンを倒したぞ」

「おお、それは」

「ルコールの人質も、無事取り戻した」

「ユウト様!!」

 臣下たちが叫ぶ。

 国はこれでルコール奪還へ突き進むだろう。

 ユウトは考えた。

 コンエグを倒したのも、人質を解放したのもサクラのものであって、俺の手柄ではない。

 俺はただ、コンエグを誘き出す為に無駄にルコールに侵入し、コンエグの死を誤認した為、連れていた兵を一瞬で失ってしまったダメ王子だ。

 そう言った犠牲の上で勝ち取った戦果だ。

 ユウトはあれだけ戦争を避けていたのに、最後の最後で、この方法を選択したことを後悔していた。

 本当に誰も傷つけずにルコールを奪還する方法はなかったのだろうか。

 文化も言葉も、神すらも違う者は互いを理解することはできなかったのだろうか。

 結局、紛争は紛争であって力ずくで解決するしかないのか。

 ユウトがあげた戦果に騒ぐ臣下たちをよそに、ユウトは深く落ち込んでいた。




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