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水晶の令嬢 〜転生者から持ち込まれた悪役令嬢という概念に翻弄された話〜  作者: ゆずさくら


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33/33

大団円

 ハヅキがドラゴンでゴブリンの王を焼き殺した後、ひと月が経った。

 ルコール地方奪還の為、人はスリング・ショットを集中配備した。

 人質を取り戻した為、遠慮なく砲撃を続けた結果、圧倒的な火力の前にゴブリンはルコール撤退を強いられた。

 街も建物も壊滅状態になったが、ルコールは無事に人の手に戻った。

 ルコールの街はずれの小さなゴブリンの巣で、ゴブリンの死骸とともに金塊が見つかった。

 サクラに金塊の量を確認して、死骸はニングットのもので、金塊は人質解放に用いた(きん)だと分かった。

 金塊はルコール奪回に尽力したものに分け与えられた。


 人質解放作戦が終わった後、サクラは国の(きん)を横領した罪に問われた。

 だが、裁判の中で医者に『妹の治療費』を騙し取られていた事や、人質解放作戦での功績が認められ、罰は与えられなかった。

 サクラはユウトの信頼を失い、婚約者の立場を失った。

 シロガネ家で過ごしていくうち、サツキの病気は快方に向かった。

 肌の乾燥や赤みはとれ、自然でハリのある白い肌に戻っていった。

 以前にもまして、サクラの評判が悪くなった分、サツキがシロガネ家の為に働くようになっていった。

 また、サクラの裁判の中で、シロガネ家に『金』が残っていないか調べられた際、ネズミとりの中でノームの腐乱死体が見つかった。

 靴は無くなって、服は引き裂かれていたが、ユウトがみる限り、アシムのものだと思われた。

 おそらくサクラのことを内偵していた時に誤ってネズミとりの仕掛けに入ってしまったのだろう。故意にやったものではなく、普段、人が見ない場所に仕掛けられたものだった為、発見も遅れてしまったと考えられた。

 ユウトは遺体を引き取って、城の奥にアシムの墓を建てた。

「アシム。君との思い出は忘れない」

 手を合わせるユウトの前には、これまで出会ってきたノーム達の墓が連なっていた。


 ケント王は王位をユウトに移すことを決め即位および戴冠式を行うこととなった。

 戴冠式などで使うものを発注し終わり、ユウトの職務に少し暇が出来た時だった。

 ユウトは部屋で目覚め、窓に進むと図書室を見た。

 そのままユウトは図書室へ向かった。

 中に入ると、座っているハヅキを見つけ、横にたった。

 彼女はいつも通りグラスをかけ、木製のマスクをしていた。

「ハヅキ」

「!」

 ハヅキの側も、ユウトが近づいてくるのに気づいてはいた。

 だが、呼びかけられるとは思っていなかった。

 ユウトは、グラスを外して、机に置くと、ハヅキのグラスをそっと取った。

 続けてハヅキのマスクを外すと、顔を近づけてきた。

「ハヅキ様……」

 と、小さい声で従者が言いかけたが、場を読んで棚の陰に消えた。

 二人は監視塔から落ちかけた時以来、二人きりで会うことがなかった。

 そして城では初めての口付けをした。

 ハヅキの左手の甲に『もう君は悪役令嬢ではないよ』と文字が浮かび、そして消えた。


 ユウトはハヅキが『スワン』だと考えた。

 社会的な立ち振る舞いや、性格ではない。

 ユウトにとって、彼女が『スワン』であればそれでいいのだ、と思っていた。

 美しく、気高く、常に共にいたい存在。

 それがハヅキなのだから、預言者の言葉を考え過ぎることはない。

 ユウトはハヅキを妃とすることを決めた。

「戴冠式があるから、少し間が開くが、必ず一緒になろう」

「はい」

 ハズキは頷いた。


 王位を継承し、戴冠したユウトは半年後に、ハヅキとの結婚式をあげた。

 結婚式が素晴らしいものであった為、国内で背の高い女性の人気が高まった。

 様々あった国務が一旦収まると、ユウトはハヅキと一緒に短い旅に出た。

 二人はハヅキの要望で、ドラゴンと出会った南の山に向かっていた。

 山の所々が抉れたように空き地になっている光景を見て、ユウトは驚いた。

「これは……」

「ドラゴンが石を食べる為に山を抉ったものなの」

 二人はそれぞれ馬に乗って、山を降りていく。

 ある空き地で馬を降りると、ハヅキは腰に下げていた袋を手にとり、両手で包むように持ち上げた。

 袋の中には『ドラゴン石(ドラゴンズコード)』が入っている。

 目を伏せたハヅキの前方、遥かに遠い空にドラゴンが現れた。

 横にいたユウトは目を見開いた。

 ブレスを吐きながら、降下してくるドラゴン。

 浮力を失って、翼で滑空してくるドラゴン。

 そのスピードに、潰されてしまうと思って震えるユウト。

 二人が完全にドラゴンの影に入った時、ドラゴンは翼を全開した。

 急減速すると、大きく開いた足の爪が、地面を掴んだ。

 着地すると、二人の近くに頭を下げてくるドラゴン。

「呼びかけに答えてくれてありがとう」

 ハヅキがそう言うと、ドラゴンは応えるかのようにゆっくりと瞬きをした。

 頭の上についている金具などを見る限り、あの時二人を助けてくれた同じドラゴンだった。

 二人はドラゴンに感謝を示し、頭に乗り込んだ。

 ドラゴンの腹からガスが出来る轟音が響くと、体が浮き上がった。

 地面を掴んでいた爪を開くと、勢いよく浮上した。

 左右の翼を器用に動かして、旋回すると、ドラゴンは南へ向かって飛び出した。

 二人は最初にドラゴンで飛んだ時のように、ユウトが前、ハヅキが後ろで抱えるような格好で、ドラゴンによる飛行を楽しんだ。

 水晶の女王がいないこの時代、ドラゴンに乗れるのはハヅキだけだ。

 眼下に見える景色について、様々な書で得た見識からハヅキは説明を入れる。

 二人はどんな種族の支配もない、南の島で、楽しい数日を過ごした。


 再び最初の山に戻ってきた時、二人を下ろした後、ドラゴンはハヅキたちをじっと見つめた。

 日が山に隠れ始め、あたりは暗くなりつつある。

 ハヅキは左手の甲が疼くのを感じた。

 ユウトにも見えるように、左手を前に突き出した。

 左手に、文字が浮かんでくる。

「ハヅキ、何かここに字が浮き出たぞ」

「きっと、ドラゴンが何か言いたいのよ」

 ドラゴンは頷くように頭を動かした。

 左手の甲に浮かび上がった文字を読んだ。

『本来、ドラゴンは他の種族間の(いくさ)に加担しない』

 ハヅキは目を見開いた。

「そうだ……」

 何かの書に明確に記されていたのを読んだ記憶がある。

 この星の中で、飛び抜けて強力な力を持つドラゴンは、どんな種族にも仕えないし、種族間の争いに加担しないのだ。それが本来、創造主が書いたコードなのだ。

『それを水晶の女王が書き換えた。そしてドラゴンを種族間の争いに引き入れた』

 ユウトもその文字を読んだ。

『水晶の女王いなくなったが、そのドラゴン石(ドラゴンズコード)は、水晶の女王が書き換えた手法を継承するためのものだ』

 ハヅキの腰に下がっているドラゴン石が光った。

『石を渡して欲しい』

 ドラゴンは大きな口を開けた。

『ここに投げ込め』

「できない!」

 ユウトは言った。

「またいつゴブリンと争いになるかわからない。水晶の女王の時は、トロルが現れたという。そんなことが起こったら……」

『お前達の都合であって、ドラゴンが知るところではない』

 ハヅキは袋から石を取り出した。

「ハヅキ、待て」

 ユウトはハヅキの腕を取る。

 ハヅキはユウトに向かって、首を横に振った。

「ユウト様。この石はやはりドラゴン自らが持っているべきだと、私も考えます」

「ドラゴン、ドラゴン石(ドラゴンズコード)を使う彼女(ハヅキ)は美しい心を持っている。単なる種族の争いの為に君たちを使わない」

『美しいとか醜いという問題ではない。コンエグは確かに特異なゴブリンではあったが、本来は君たちの手で何とかするべきものだった』

 ユウトはハヅキの手を離した。

 ハヅキはドラゴンが開いた口に『ドラゴン石(ドラゴンズコード)』を放り投げた。

 石が口の中に落ちるのがわかると、ドラゴンは閉じて頭をもたげた。

『これが最後のメッセージだ。ハヅキ、ユウト、石を返してくれてありがとう。君たち二人なら、どんな困難なことでも乗り越えられると思っているよ』

 体の中でガスが生成される音が響くと、蹴り出すように足を離した。

 ドラゴンは一気に浮き上がり、転回した。

 暗い山から飛び上がっていくと、ドラゴンだけが日の光に照らされた。

 二人はその後ろ姿をずっと見ていた。

「ユウト」

 ハヅキの言葉に、ユウトは頷いた。

「これからは二人で」

「そうだな」

 ハヅキに抱き上げられるようにして、二人は口づけをかわした。


 


 おしまい



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